ブロック
人類が凸凹になったのはおよそ60年前の事である。その頃の老人たちは流線型をした美しい人類を愛していて、それが世代間のギャップとなった。
3860年、ブロックと呼ばれる、身体のどこかに直径3センチほどの半球型の窪みか、出っ張りを持つ人間が産まれるようになった。大抵の場合は男に凹、女に凸といった具合に付くのだが、これ自体には、それとは逆に付いた凹凸のような生殖機能はない。発生した当初はみっともないとされ、半ば強制的に隠したり手術をしてそれらを除去するなり埋めるなりしたらしいが、現代では随分と人権意識が芽生えていたのでそれらはファッションとして着飾る大事なパーツとなった。
ブロックに対し、前世代のフラットな人種をジェンガと呼ぶ。ジェンガには丸い凹凸がない代わりに、丸くない凹凸にも生殖能力はほとんど備わっていなかった。そもそも性欲というものに対して怖気を感じ、それを排除していった結果の世代である。とはいえ、人口維持のためには必要不可欠であるパズルを完全に排除するわけにもいかず、人権を持たない階級である『ガチャ』と呼ばれた人々が薬と機械と暴力によって醜悪な形に改造され、ある年を境に生産された新人類がブロックである。
初めにブロックを孕んだガチャのほとんどは、性別に関わらず人体実験の末に殺されたという。しかし根本的な解決の糸口は全くと言っていいほど見付からず、いたずらに減ったガチャを補充するために、階級の低かった数百人のジェンガがガチャとなり、再びブロックを産み落とした。繰り返した結果、賢いジェンガは自分がガチャにされる事を恐れ、ブロックを新たな人類と認めた。蟠りは残ったものの、ブロックはジェンガの住処から離れた南端の森の中で、追放されたガチャの手により育てられた。他方で、実験の過程においてジェンガを産んだガチャもごく稀に存在していたようで、それらはガチャの立場から一転し、『ピニャータ』と呼ばれ生き神様として崇められたらしいが、人種が分かたれた今、真偽は定かではない。
ブロックの中でも、正中線上に凹凸がある者は特に美しいとされた。ブロックの街の一つ、トイボックスに住む、街一番の美人と呼ばれたダイヤと、その双子の弟レゴはそれぞれの凹凸が胸の中央に、ちょうど噛み合うように付いていた。二人は成人してからも体格がほとんど変わらず、また顔もよく似ていたことから街のシンボルとして美しく育っていった。
ブロックは年に一度の祝祭で生殖を学ぶのだが、ダイヤとレゴは毎年その美しい肢体を人々に惜しげもなく晒し、二つの凹凸を官能的に組み合わせ、その儀式は街頭の大画面や電気屋に並んだモニターやご家庭のテレビに大写しにされた。若者は皆思い思いの相手と共にその神秘を見つめ、そして街の至る所で行為に及んだ。祝祭の日の街は裸の男女で賑わっている。レゴの美しい肌の中央に空いた穴を、ダイヤが美しい花々や柔らかい木の実で飾り立てる様子にブロック達は感嘆の声をあげた。穴の淵に沿って、光の角度により様々な色に輝く粉を指で塗り付け、自身の膨らみにも器用に豊穣の印を描く。この印の色は毎年のトレンドとなるので、特定のパートナーと巡り合っていない、あるいは生殖にそれほど興味を示さない男女もまた、注目していた。
ダイヤがレゴの生殖器に跨り、時間を掛けて腰を沈め、次に小さな箱庭をすり潰すように上半身を重ねた。ブロックの凹凸に生殖機能はないが、性感帯の一つとなりうる。特に凹面が敏感である場合が多い。レゴが甘い声でダイヤの名を呼ぶと、潰れた木の実の赤い果汁が二人の間から流れた。ダイヤの下半身にもブロックの愛液である赤が流れ、互いにそれを塗り広げるようにして高まっていく。やがて最高潮に達し、互いの背に羽根のような爪痕を残しながら果てる頃には、観客のブロックももはや正気ではない具合に乱れていた。儀式の初めの一人に最愛の人間を選ぶ以外は性に対して大らかなブロックは、二人目以降は相手を選ばず、隣のつがいの片割れと、親と子と、女と女、男と男で一晩中快楽に身を委ねるのであった。
ブロックには、もう一つの特性がある。生殖の折には男女ともに子を孕み、生殖の翌日には出産を終える。年に一度の祝祭の日以外に行為に及ぶ事はあるが、その場合の子は今後の祝祭の無事を願い親の健康を維持するための糧となる。今年の祝祭を無事に終え、およそ2倍の人口となったブロックらは、土地を求めジェンガの住む北へと侵攻していくのだった──。
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