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『ゴジラxコング:新たなる帝国』感想

※ネタバレ注意

日本のゴジラ最新作、『ゴジラ-1.0』が公開から半年以上を迎えてもなお公開中である中、ハリウッド版ゴジラの最新作もついにこの日封切りを迎えた。つまり日米のゴジラが同じタイミングで映画館に並び立ったのである。
ゴジラに飢えに飢え、たまに持っているDVDを再生することでそれを紛らわしていた十数年前を考えるとかなり隔世の感を抱かざるをえない。
今じゃ日本のゴジラはオスカーを獲り、アメリカのゴジラは怪獣を愛する人たちが愛と敬意を持ってモンスター・ヴァースなる世界を作り上げ、世界でヒットを飛ばしているのだから。
こんなことを学生時代の自分にいったらこういうだろう。
「そんな慶事の起こる世の中ならベイスターズも優勝してるんだろうな」
ちなみにベイスターズはまだ優勝していない。世の中そんなに甘くない。こっちの悲願はいつ見られるだろう……。

さて、そんな『ゴジラxコング 新たなる帝国』だが、公開前予告等から想像できる通り、めちゃくちゃわんぱくな映画に仕上がっていた。頭の先から爪先まで怪獣だらけ、物語パートすらコングが中心に担い、人間たちは解説役とコングの歯の治療くらいしか見所がない(酷い言い方)。

『ゴジラxコング 新たなる帝国』は、言うまでもなく前作『ゴジラvsコング』の続編である。キングギドラをぶち倒し、真の怪獣王として君臨したゴジラと、髑髏島の巨神であったコングが拳を交え、最後はお互いを認め合ったその後の物語だ。

怪獣と人類が共生する世界で、未確認生物特務機関:モナークが察知した異常なシグナル。

交錯する<地上世界/ゴジラテリトリー>と<地下空洞/コングテリトリー>。

ついに一線を越える<王ゴジラ>と<王コング>の激突のその先には、我々人類が知る由もなかった未知なる脅威が待ち構えていた。「vs」ではなく「x」、そして[新たなる帝国]が意味するものとは? 世界は今、目撃する── 。

映画『ゴジラxコング 新たなる帝国』公式サイトより一部引用

公開前の予告編などから想像もつく通り、本作はかなりわんぱくな怪獣映画だ。たとえ未就学児の子供が字幕版で見たとしてもほとんど問題はない。映画館から出た時、彼らの頭の中は怪獣バトルでいっぱいになっているだろう。

終戦直後の日本、生き延びてしまった特攻隊員が主人公というシリアスなストーリーとゴジラの恐怖をストレートに描いた『ゴジラ-1.0』を見た直後にこれを見たら、あまりにも真逆すぎる作風に脳をやられるかもしれない(そして前述の通り映画館で両作品をはしごできてしまうのが最高に面白い)。

本作の見どころは3にも4にも「怪獣バトル」である。これを楽しめるかどうかに懸かっている。幸いこの映画を期待して見にいく人々の大半は怪獣と彼らが大暴れする展開がトレーニング後のプロテインより体に染みるような怪獣ファンだと思うので、その期待には十分すぎるほど応えられる映画になっている。

ストーリーはコングとスカーキングを中心に展開されるヤンキーバトル漫画のよう――いや、そのもの。
地下空洞で求めていた同族を見つけたコングが見たものは、自ら築き上げた帝国を暴力で支配する凶暴なチンピラ・スカーキング。容赦無く仲間を手にかけるやり方に怒り(ここまでのスコとのやりとりや暴力を振るわれる者に黙って手を差し伸べるコング先輩がかっこいいったらない)、同族を解放するために戦いを挑むも、スカーキングの戦巧者な戦いぶりとやつが飼い慣らすシーモの圧倒的な力に追い込まれる。
コングは地下空洞から地上進出を目論むスカーキングを倒すために、前回拳を交えたゴジラに助力を得にいく。
一方ゴジラはゴジラで危険な存在であるシーモを察知して、パワーアップのために行動、これまでよりも圧倒的な力を身につけた(そのためにフランスの原子力施設は壊滅し、北極で大人しく寝ていたティアマトは殺された)。

原生林生い茂る地下空洞からエジプト、そしてブラジルを所狭しと動くゴジラとコング、スカーキングとシーモの暴れっぷりはスピーディかつスペクタクルの一言。これでもかというほどの濃い怪獣バトルをスクリーンいっぱいに見せてくれるので、満足感は半端ないものとなっている。
そのため、見るならIMAXやドルビーシネマなどのラージフォーマットをお勧めしたい。4DXなどもめちゃくちゃ相性がいいだろうと思うのでまた体験してみたい。

シーンも明るい場面が多いのもポイント高い。VFX班の相当な頑張りぶりが伺える。ゴジラ-1.0では海を泳ぐゴジラの水の処理が絶賛されたが、今作はゴジラがジブラルタル海峡に水泳選手よろしく飛び込んだりと水に入ったり出たりするシーンが多く、水のリアル感もすごいなと思いながら見てしまった。

何より本作の好きなところは、怪獣たちの感情や言ってそうなことが容易に伝わってくる仕草や表情だ。コングとスコが少しずつ信頼関係を築いていくシーンは強く優しい大人と反抗的な少年が交流するようで微笑ましいし、歯痛に肉を噛めないコングはまことに痛そうで、去年銀歯を入れる羽目になった自分のようでつい感情移入してしまった。悪いことは言わねえから歯は磨けコング。

コングは人間に歯を治してもらったり少女と手話で会話したりと信頼関係を築いているのに対し、ゴジラは唯一孤高であり、他の怪獣を倒しこそすれ、周囲は滅茶苦茶に壊すわパワーアップという自らの都合のために原発を襲い北極で大人しくしていたティアマトを殺して縄張りを奪うという理不尽さを併せ持つ、そんな対比もまた面白い。

短い出番ながら、モスラが再び出てきてくれたのは嬉しい。役回りは『三大怪獣』と『南海の大決闘』を足して2で割ったみたいな感じだったが、ゴジラが唯一素直にいうことを聞く様は、ヤンキー映画の勝気で可愛いヒロインを思わせるものがあった。

純度100%の邪悪なチンピラ、スカーキングは徹頭徹尾”悪”として際立っていたし、そんなやつでもゴジラの熱線にはなす術なく逃げ惑うのも小物感があった。最後の顛末含めてまあ良い悪役だったなあと思う。
シーモはファンが増えそうだ。それぐらい強さと可愛さのギャップが盛り込まれた怪獣だった。

怪獣が大暴れする映画――そんな作品が世界でヒットを飛ばしているのがファンとしてはとても嬉しい。東宝チャンピオン祭りを思わせるようなはちゃめちゃで怪獣だらけの映画をハリウッドがやり切るなんて、本当に十数前までなら考えられないことだ。ああ、確かに”常識は変わる”んやなって。

とにかく、ハデな映画を見たいなら、そしてポップコーンを美味しく食いたいなら、この映画を映画館で見るべきだ。

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