2. 疑いから発覚へ
5月12日。検査結果を聞きに行った。
細胞診の結果は、3。
細胞診の判定は5段階に分かれていて、1、2は良性、4、5は悪性。
良性と言えないが、癌とも判断出来ない。組織を取ってみればハッキリするとのこと。
「…。」
状況がよく分からず言葉にならない。
「こういう時、どうするかというと、私達はそのままにはしない。」
医師は2つの選択肢を示した。半年の経過観察か、太い針で組織を取り出して調べる組織診か。
組織診は高額だ、何でもかんでも検査をすると国の財政が破綻する。しかし私は4か月で4cmの大きさに成長した癌を見たことがあります。さて、どちらにしますか。
数秒悩んで組織診を選んだ。半年待って結果が同じなら、早く分かった方がいい。それに半年後に何か分かったって、就職活動出来ないじゃないか。
最初から用意されていた。
私を診察台に行くよう指示すると医師は素早く診察室の鍵をかけカーテンを引いた。
局所麻酔の効き具合を確かめた後、両腕を挙げ、開いた右胸に、うなぎのタレのような茶色い消毒液が塗られる。検査箇所だけが出るようにして顔まで布がかけられた。なんだ、見たいんだけどな。
パチンと部屋の電気が消える。
「強く押します。」
胸の下から直径1cmはありそうな太さの棒がぐいぐい押しこまれる。胸の上から力強く手で圧迫される。肋骨折れそう。
ギュンギュン響く機械音の中に肉をミンチするような湿ったピチピチという音が混じる。ねじり取ってる?顔の覆いを取って欲しいって、言わなくてよかったー。
棒が抜き取られた後の傷口は粘着力の強い白いテープで塞ぎ、重ねたガーゼで強く圧迫する。一日はこのままだ。痛み止めも処方されたが、飲むほどのことはなかった。
ただテープを貼ったところが痛痒い。白いテープは自然に剥がれるまでそのままとのことだったが、翌日には赤くかぶれて水ぶくれが出来た。中のガーゼに血がついている。そっと絆創膏を当て、薄皮が破れないようにして過ごした。
何かあったらセカンドオピニオンで再検査しよう。たぶん何もないけど。
そんで、結果聞き終わったらソフトクリーム食べに行くんだ。
2週間後の5月26日。扉を開けて座るなり、医師は軽く言った。
「結果ですが、癌でした。」
「ただし、非浸潤癌と言って、…知っていますか?」
「ひしんじゅん…。知りません。」
医師は紙に、浸潤癌90%、非浸潤癌10~20%と書き、乳房のイラストを描き加えながら、症状は軽い、と説明した。
詳細はMRI検査を受けなければ判断出来ませんが…
「ということですのでね。一旦この結果を持ち帰って、ご家族とお話しください。」
セカンドオピニオンでも転院でも、希望があれば紹介状を書きます。
あとはお好きに。
え!ちょっと待ってよ。これで終わり!?
ここで途切れたら、この先どうすればいいの?
慌てて頭に思い浮かぶ質問を投げかける。
選択肢はいくつかある、治療は自分の希望が叶えられるように医師と作り上げていくものだから、情報を収集して、納得のいくところに行くのがいい、と転院も勧められた。
想定していたのだと思う。癌になったら向かうのはまず、この地域のがん診療連携拠点病院か、大学病院だ。
「転院する場合、MRIを受けてからでもいいんですよね?」
もう少し時間が欲しい!
「ああ、それでもいいですよ。」
一時間近くは経っていただろうか。初診より少し人間味が出た医師は、私の質問に一つ一つ正確に答えてくれた。
全く知らない。情報が多すぎて頭がパンクしそうだ。このまま家に帰っていられない。ソフトクリームを食べに行った。
(2018年5月12日~5月26日)
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