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映画「劇場」あらすじと感想

高校時代の友人と立ち上げた小さな劇団に所属する劇作家兼俳優の永田は、女優を志して上京してきた沙希と出会う。

自分の感情を素直に、思ったままに表現する沙希に惹かれた永田の猛アタックの末に交際を始めた二人、永田は沙希に自身が脚本を手掛けた舞台のヒロインを演じることを依頼する。沙希の演技が話題となり、劇団の仕事が立て込んだことを理由に、下北沢に位置する沙希のアパートに永田が転がり込む形で二人は同棲を始める。

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この永田という男がとにかくめんどくさくて勝手で最低な男である。
この手のサブカルっぽいダメ男に惹かれてしまいがちな私でも開始5分でその性格の悪さに辟易してしまった。

屁理屈をこねて生活費を全て沙希に負担させ、自分はしれっと浮気をするくせに一度疑いをかけたら沙希のバイト先、果ては店長の自宅にまで乗り込んでくる。もはや恐怖でしかない。


散歩から帰った2人、アパートに戻ってきた紗希の第一声、「ここが世界で一番安全な場所だよ」で大好きなyonigeの曲と急にリンクしてハッとした。調べたらこの作品にインスパイアされて作った曲が「沙希」だそうで。厳密にはこの映画の原作小説らしいけども。

牛丸さんもインタビューで言及していたけれど、沙希がとにかくいい子すぎる。


純粋すぎる人と接していると自分の醜さが強調されるようで余計に辛くなってしまう。
親しくしてくれている人に対して、自分が何をしてもその人は離れていくわけがないって勝手に思ってしまう。
なにもしていないのに1日の終わりに一人前に疲れたふりをして過ごしていると本当に何かしたような気になってくる。
密かに見下していた後輩の女の子に仕事を貰った時の永田の情けないような、ありがたいような気持ち。
人に気遣われることの精神的な痛み。
この映画はそういう「ダメ人間あるある」を巧妙に散りばめ、我々オーディエンスを共感せざるを得ない状況に落とし込んでくる。この映画を一瞬たりとも落ち込まないで観終えることのできる人なんているのだろうか……。

後半、そばにいて当たり前の存在、優しくしてくれて当たり前、沙希をそんな風にぞんざいに扱ってきたくせに、離れていってしまいそうな気配を感じた時に急に優しくするような永田の狡猾さが如実に表現されていて、でもそんな勝手な人間がうまくいくはずないよねって現実。


人の意見を聞きたくなさすぎ病、なんでも笑い飛ばす必要なんてない、この二つのフレーズが妙に自分の中に引っかかっている。

あとは紗希と青山の対比が面白かった。生産的で現実的な場所にほとんど無理矢理連れ出してくる青山といつでも自分を甘やかしてくれる紗希。


春っぽい匂いに吐きそうになった、って言葉はわたし的には何かの変わってしまう気配を指しているのかなと考えた。
それ自体がプラスに働くのか、マイナスに働くのかすらまだわかっていない未来に訪れる変化を酷く恐れる永田のような人種は、そのままだと幸せになる資格すらないし、結局何一つとして変われないんじゃないかなあと個人的には思った。

ラストシーン、小山のように積み上がった「やましいことをする度に持ち帰ってきたブロック」によって、感情的に永田に同情してしまっていた自分に客観的事実でもって彼の最低さを突き付けてくるような演出が凄いなあと思った。

後味のいい映画とは言えないかもしれないけど、演出が巧妙なのと、ストーリー自体も、特別何かが起こるわけじゃない、日常の延長戦を描いたような話なのに、なぜか惹きつけられてしまう、目が離せない不思議な魅力のある映画だった。

あとはひたすらに松岡茉優ちゃん演じる沙希が健気でかわいそうでとてつもなく可愛い。

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