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時が経てばわかる

 どれもド定番だし熱く語れるのかどうかわからないがよく聴く曲3曲。いずれも洋楽で1枚のサウンドトラックに関連する。
 洋楽は好きな映画で使われたとか、メロディが好きだとか単なるカッコつけで聴き始めると後々時間が経ってその歌詞の意味を精読して「ああ、こんな歌詞だったのか、なんて素晴らしいんだ...」と思うことがあるのです。

 映画のサウンドトラックに興味を持ち始めたのは『ウォッチメン』のサウンドトラックから。

 冷戦時代のリアルタイムに描かれた異色作だがSF・アメコミ史に刻まれる文学。映画版はそもそも映像化が難しいと言われたのもあるが、最後の舞台装置を大きく変更し過ぎていることや、カッコ悪いからこそカッコいいと思える人物を恰好良く描き過ぎている等で賛否両論だが、劇中の時代背景に合わせて流れる楽曲の使い方は個人的に好きなのです。

​『Like a Rolling Stone』

 オープニングで広島への原爆投下ケネディ暗殺アポロ11号の月面着陸等の歴史上の出来事と作中の登場人物との関りをボブ・ディランの『The Times They Are a-Changin'(時代は変わる)』のフォークサウンドと共に描かれるがこれがカッコいい。

 ディランは後にフォークにアコースティックだけでなくエレキ等を編成したスタイルを取り入れて『Like a Rolling Stone』を作る。

 恵まれた境遇だったが落ちぶれた女性を歌った歌詞。"A rolling stone gathers no moss(転石苔むさず)"「定着することなく彷徨う」という本来のネガティブな意味と「時代に取り残されず活発に動く」と派生したポジティブな意味があり、歌も女性を戒めるようなことを言うが「色々あって今はこんなんだけど、別にいいじゃん、捨てるものもないし」というニュアンスも感じる。転がっているということは転落もしているが前進もしている。

 1966年のロイヤル・アルバート・ホールのライブでフォークからロックへシフトしていくことに不満を抱きファンからアンチとなっていた観客が「ユダ(裏切者)」「お前なんか二度と聞かない」とライブ音源に残る声で罵倒した。それに対して「お前を信じない」「お前は嘘つきだ」と返して『Like a Rolling Stone』を歌う。

 手法やスタイルは変わっても『The Times They Are a-Changin'』も『Like a Rolling Stone』も本質的には変わらない。時代は変わるのだから動かなければならない、転がる石の様に。

『The Sound of Silence』

『ウォッチメン』では葬儀のシーンで流れる曲。
 ダスティン・ホフマンの『卒業』で冒頭とラストにかかることで有名。結婚式で花嫁を奪って逃避行してバスに乗るが二人の笑顔の表情は長く続かずアンニュイなものに変わる。

 冒頭の歌詞で
「"Vision"は寝ている僕に忍び寄り脳に種を植え付け、静寂の世界でそれは僕の脳に残り続ける」
と、歌う。
 "Vision"予感とも(今はいない人の)幻影とも捉えられ、歌の解釈は当時の社会情勢に不信感、疎外感を持つ若者の不安とも失恋の寂しさとも言われている。『卒業』のラストにかかるのも自由と勢いに任せた未来も幸福は約束されないというアメリカン・ニューシネマ的暗喩になっている。

 葬儀のシーンで流れるのはこれからどうなるかもわからない今と幻影となった故人を表しているのだと思う。
 "Vision"=故人の幻影というのはストレート過ぎる解釈かもしれないが、私個人としてはこれがしっくりくるような気がする。私自身、友人が亡くなり、ふとこの歌詞を読み取ってからというもの「亡くなった友人は私の脳に種を植えたんじゃないか」と思うことが多々ある。何か新しい面白いものを見聞きしたり体験したら「もし友人が生きていたらどんな反応を示すだろう」とか「ちっとも冴えないまま生き長らえている自分を一体どう評価するだろう」とか確実に死して幻影は私の中に残り続けていることを意識している。

『Welcome to the Black Parade』

 エンディングはボブ・ディランの『Desolation Row(廃墟の街)』マイ・ケミカル・ロマンスによるカバー。フォークから00年代オルタナティブ調にアレンジされていて、ここからマイケミを知って洋楽では一番聴くようになったと思う。

 有名な代表曲。MVもゴシックホラー風、中二病チックでカッコいい。聴き過ぎてソラでも歌える。
 冗長とも思えるほどのピアノソロのバラードから鼓笛隊の行進曲、オルタナ、壮大なシンフォニーのロックオペラと遷移するのはクイーンの『Bohemian Rhapsody』とも比較される。
 実際、最初はサビに入るまでが長いという印象だったが、シンプルで強いメッセージの言葉を表現するためにはこれだけの溜めが必要なんだと後から感じる。

 テーマとしては「精一杯生きたあなたから想いを受け継いで俺達も精一杯生きる、だから安心して逝ってくれ」という「死の肯定」を感じる。「死を忘れるな(Memento mori)」「その日を摘め(Carpe diem)」の考えにも通じる。

 クサいのはわかっている。それでも時たまこの歌は私にとっての人生の応援歌になって奮い立たせてくれる。誰かに何かを与えて生きたいのだと。


 英語が堪能でもないし多くの洋楽が正確に何を歌っているかは実際そこまで把握していない。だけどだからこそリズムやメロディを抽出して楽しめもできるし、制作の背景や映画等の他の作品と絡めて広い解釈したりもする。時が経てば歌詞に込められた本質を知ることもあるかもしれない。
 だから洋楽やサントラはいい。

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