職業人である前に、社会人であれ

「どうすれば仕事がうまくいくのか」

ほとんどの人は常にこの悩みに直面していると言っても過言ではない。
書店に行けば成功のためのHow toが書かれた本が積み上がっているし、SNSの情報も何かをうまくいかせるための情報ほど拡散されやすい。

「結果を出した方が正しい」
「売れれば勝ち」

ビジネスの世界で生き抜く以上、結果を出すことがすべてだと追い立てられながら、私たちは日々暮らしている。

しかしその度に思い出すのが、故・野村克也監督の名言だ。

「野球人である前に社会人であれ」

「野村再生工場」とも呼ばれた名監督は、髭や茶髪を厳しく禁止し、挨拶の徹底や時間厳守など人として基本的なところから教えなおすことでも有名だった。

この言葉をはじめて聞いたとき、なぜ結果がすべてのプロスポーツ選手に対して技術よりも先に人間性の教育からはじめるのかが理解できなかった。
勝利に直結しない教育に、何の意味があるのかがわからなかったのだ。

監督の評価も、最終的には結果で決まる。
茶髪だろうと髭が生えていようと、勝ちに貢献してくれればそれでいいのではないかと思っていた。

野村監督の言葉の意味がわかるようになったのは、フリーランスとしてしばらく経った頃のことだった。

フリーランスは野球選手と同じく個人事業主であり、結果が出せなければすぐに首を切られる立場でもある。
会社員時代より自由度は高まったものの、結果を出し続けるための努力と信頼を築くための意識が重くのしかかってくるようになった。

結果を出す、特に大きな結果にチャレンジするときほど、一人の力ではどうにもならないことが多い。
役割分担も必要だし、フォローに入ってもらうこともある。

野球ももちろんチームスポーツだ。
その場合の「チーム」とは選手同士のみならず、裏方として働くスタッフさんたちやファン、メディアなど多種多様なステークホルダーを含む。

大きな仕事をする人ほど、職業人としてのスキル以前に社会人としての良識がなければ、「チーム」として成功することはできない。

自分さえ成功すればいいと私利私欲だけで動くのではなく、様々な立場を想像しながらいち社会人として良識ある振舞いをすること。
その土台づくりこそが「再生工場」の要だったのだろうと思う。

野村監督が挨拶や遅刻といった行動面だけでなく、見た目にも厳しかったのは、関わる人が増えるほど見た目が信頼構築に与える影響が大きいからだったのかもしれない。

仲間うちであれば「あいつは見た目はあんなだけど実は真面目だよな」と共通認識を持ってもらうことが可能だが、初対面の人は見た目から中身を推測せざるをえない。
協力者を増やすには、見た目で信頼感を与えることも重要である。

さらに敬語やビジネスマナーなど、社会人として大多数の人が共有している慣習も、自分の分野外の人と協力するために必要不可欠だ。

こうした社会人としての基礎があってはじめて、職業人としてのスキルを発揮するための環境が整い、大きな「結果」へとつながっていく。

学びによって得られるものはわかりやすいテクニックだけではない。
人とつながり、協力し合うための道徳心や倫理観の向上が現代の「学び」に求められているのではないかと私は思っている。

▼野村監督といえばこちらの言葉も有名


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最所あさみ
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