見出し画像

「やりたいことをする1年に」-自我を曝け出して歌にした須田景凪の切実な思い-

5月27日、須田景凪のワンマンライブ「須田景凪 LIVE 2023 "Ghost Pop"」が東京・昭和女子大学人見記念講堂にて行われた。

「"Ghost Pop"」は昨年の「昼想夜夢」以来1年振りとなったワンマン公演。また9月からは全国7都市を巡るツアーも決まっている。普段楽曲をリリースする際には、「思い入れのある曲」や「大切な曲」のような曲への制作に関する思いを語ることが多い須田であるが、最新作「Ghost Pop」では「今ある全てを詰め込みました」と今までにないコメントもしている。そんなバルーンから須田景凪として歩み続けた10年間の集大成とも言える本作はどのように聞き手にサウンドとして落ち、ライブで表現されたのか。

 バックスクリーンにアボガド6らが手がけたアルバムイラストの映像が流れ、タイトルロゴが大きく表示されると、会場は熱狂の渦に。「今日はいい日にしましょう。」と須田が一言ささやくと、流れきたのは歪んだ愛をテーマに綴られたナンバー「ラブシック」。今回のタイトルにもなった二面性をまさしく体現した一曲だ。(心に穴が開いている・心に花がさいている等)。ステージ中央を歩きながら、「分かるかしら」とやさぐれ気味に問いかける須田の姿に会場のボルテージが上がる。続けてバルーン名義の代表曲「パメラ」、疾走感漂うサウンドである「落花流水」を続け様に歌い上げる。ステージ上のジオラマとして設置されたブラウン管式のテレビには「パメラ」のMVが映し出され、今までとは違った印象を受けるとともに、これまで以上に視覚的に伝えようとする須田の想いが伝わってくる。そして冒頭の最後には「いびつな心」を丁寧でありながらも、「feat.むト」とは違ったアレンジで歌い上げた。

 MCでは「声出しが解禁になったけど、別に僕から強要することもないし、絶対に歌うなということも言わない。お互いが気持ちいい形でライブを作っていきましょう。」と共通認識を図る。ここに「誰も傷つけたくない」須田ポリシーが伺えた。「いびつな心」後だったためか、余計にその言葉の意味を考えてしまう。そんな中披露されたのは、今回のアルバムで特にダーク色が強い「Howdy」。須田のそばに置かれた街灯・重厚感あるベース・ドアの開け閉めの音に合わして照明が暗転するなど、感覚を掌握されライブであることを忘れるほどに幻想的な世界に引き込まれる。ただそんな幻想的な世界をぶち壊すほどの強い怒りがテーマとなっている一曲「バグアウト」を披露。ギロをはじめイヤホンで聴きたくなる音の仕掛けを各所に散りばめられたサウンドと今回のアルバムの特徴的な要素の一部である「がなり」が観客の心を掴む。そして「幼藍」を観客とともに歌い上げた。優しいサウンドから一転、流れてきたのは須田名義の代表曲「veil」。ギターの激しさとアボガド6が手がけたMVがこれまでの空気感を亡き物にしていく。前半戦の終盤にはバラードラッシュ。強烈なドラムベースでバンドサウンドの良さが感じられた「雲を恋う」、バルーン節のベースラインがありありと感じられる「ノマド」を歌い会場が温かな歌声に満たされる。そしてバラードパートの最後を飾ったのは、先日24時間限定でMVが公開された「終夜」。今回からキーボードがバンド編成に組み込まれピアノリフが伴奏となり、須田の歌声から始まった「昼想夜夢」とはまた違った印象を受けた。一筋のスポットライトが須田に当たり、スモークが焚かれエモーショナルな空間へと姿に変える。また須田名義では珍しい「ハイロングトーン」が連打するサビでは、体を上下にくねらせながら発生しファンの心を虜にした。見ていた全ての人間が須田と「この夜は2人だけのものだ」と思っていただろう。

MCでは、Ghost popに対する思いと、パーソナルジムに通い始めたことを小話として話した上で、今年の制作・須田景凪としての方針を強く語っていた。

「幸いなことにチャートやいろんな賞をいただくことがあるけれども、それでもずっと満たされない感覚があったし、きっとこれからもそう。多分これからも一生背負っていくものだと思う。だからこそ、今年はいろんなことをやる1年にしたい。今回もこうしてステージにジオラマを置いたり、バンド編成を変えてみたりと新しい試みをやっております。僕は好きなことをこれからもやっていくので、生活の中で辛いことがあったり、しんどくなったら今日みたいにまたライブ来てください、こっちは音楽作って待っています。また素敵な夜を作りましょう。」

 とファンとの約束を交わした。
 このMCを聞いた時に、直感的に須田景凪の「自我」が言葉に出ているなと感じた。過去のインタビューから一貫性を持って「自分の音楽が聞いている人の人生の一部になって欲しい」という献身性を帯びた須田であるのはもちろんであったが、須田の強い人間的なポリシーのようなものが声にもの凄く表れていた。以前までのMCに感じていた思いと言葉の乖離が一切感じ取れなかった。  
 
 須田の思いをそれぞれが咀嚼しているのも束の間、「こっから早い曲やります」と注意喚起。そういって聞こえてきたのはバルーン名義の代表曲「シャルル」のメロディ。先日「THE FIRST TAKE」での歌唱が公開されたが、様々な場数を潜り抜けてきた歌い込みによる技量に歓声が上がる。続いて「僕の曲の中で一番明るい曲をやります」と宣言。須田景凪として初めて完全にポップスに寄せ切った一曲「メロウ」だ。正直明るすぎて、「眩しくて目を逸らす」どころか、「眩しすぎて目が焼かれてしまう」。改めて今回のアルバムが計算的で緩急つけたものであることを思わされる。黄緑や黄色といった明るい照明が須田の歌声をより映えさせるとともに、Cメロでは観客たちのスキャットに頭を下げ、頷きながら聞く仕草が印象的だった。続けて「パレイドリア」「綺麗事」を披露。「パレイドリア」ではCメロ前に各楽器のソロパートを、「綺麗事」では音源以上に楽器の音が強く醸し出されるともに照明の暗転が絶え間なく起こり、これぞ「見る音楽であるライブ」だと唸らされた。そして突如として奇妙なアレンジとアルバムのコラージュが円状になったものが観客の目を奪う。本編のフィナーレを飾ったのは「ダーリン」。ステージ上を縦横無尽にゾンビのように練り歩く須田の姿はMVの再現かのように思えた。ラスサビでは銀テープが放出され、元から備わっているサビの爆発力をより一層高めていた。そんな刹那的な衝撃と中毒性から情報の整理がつかない中、須田は「ありがとうございました」と一言述べ颯爽と去っていった。  

 ライブ本編が終わり、「お前の歌声がまだ足りない」とアンコールを求める声が会場いっぱいに響き渡る。その声に応えてバンドメンバーが今回のグッズシャツを纏い再登場した。ここで披露されたのはまさかのバルーン名義の楽曲「花に風」。 イントロで湧き上がる歓声。「行かないで!」「知らないで!」「言わないで!」と耳にリフレインされる歌詞は「初音ミク」とは全く違った喪失感をもたらした。「また必ず生きて会いましょう」そういって終幕を飾ったのは「美談」。「MOIL 」で編曲を担当したトオミヨウ氏と再びタッグを組んだ楽曲であり、ストレートに独りよがりに生きる人生観を恋人に宥めるように歌う姿を観客は眺めるしか無かった。もっというならば、それが一番だと感覚的に判断した。柔らかに歌い上げると、最後の挨拶では、「また生きて会いましょう。音楽作って待ってるので」と告げ、会場を後にした。

Instagramより引用

 個人的には最も須田景凪の人格というか自我が誇示されたライブだったと思う。もちろん冒頭にも書いた通り、「Ghost Pop」自体が須田のこれまでをある種過ごした時間の集大成、「ポップスへの熱烈な思い」を代替的に曲としてリリースしたので当然であるが、今回の歌唱は切実で前向きな生命そのものが伝わってきた。またMCで「満たされたことがない」と話していたが、最後には「今日はすごく満たされました」と嬉しそうに告げており、自分の中でさらけ出せたがゆえではないかと思う。

「好きなものを作っています」という飽くなき探求心が次はどんな景色を見せてくれるのか、今から「Ghost Pops」が楽しみだ。


終演後の様子

おまけ
・モリシーかと思ったらモリシーじゃなかった
・今回歌詞飛びすぎ←純粋に観客に向けてなのか不明
・銀魂系女子がうるさすぎる
・MC毎回で「この話の着地地点決まってんのか?」と思ってしヒヤヒヤする
・モリシーかと思ったらモリシーじゃなかった
・モリシーかと思ったらモリシーじゃなかった
・モリシーかと思ったらモリシーじゃなかった