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先行シングル曲をアルバムに入れるときの注意点

先日、複数のシングルをまとめたアルバムの配信についてご質問をいただいた。
次作のアルバムに、すでに配信済みのシングル曲を多数入れて配信することは良いのだろうか?どうなのか?という内容だ。

なるほど。
過去のシングルを4、5曲以上入れたアルバムや、全トラックが過去のシングル曲の、いわゆるシングル・コレクション(シングル集)アルバムは珍しいものではないけれど、CD Baby、TuneCore、DistroKid といったディストリビューター(配信仲介業者)を利用して配信した場合は、どんな長所と短所があるのかは気になるところだ。
どんなメリットがあるのか、あるいは何か面倒なこと、デメリットがあるのか。
配信を重ねれば誰でも気になりそうな疑問かと思って調べたのだが、残念ながらはっきりしたことは分からなかった。
そういった複数シングルを含むアルバムの配信について、実例つきで解説している日本語のサイトをひとつも見つけられず、英語圏でもわずかだったからだ。

わずかに見つけた英語圏の意見はどれも好意的で、
・同じ曲でも、シングルとアルバムの両方で購入できるようにすることは理にかなっている。
・同じ曲でも、シングルとアルバムの両方配信することはプロモーション的にはとても良い事。
といったものがあった。

調べるなかで、先行シングルをアルバムに入れる際はいくつか注意点があることも分かった。それを書いておきたい。

同じデータ、同じISRC の必要性

・How do I add a track I already distributed as a single to a new album?
https://support.cdbaby.com/hc/articles/360057041751
・Can I redistribute the same audio?
https://support.cdbaby.com/hc/articles/360003137071

こちらはCD Baby のサポートページだが、作品の配信を申請する手続きにおいて、あることに注意するよう呼びかけている。
他の配信仲介業者でも同じような注意をうながしている。

それは、シングルで出した曲を、改変せずに音源そのままでアルバムに入れる場合、その曲の情報欄にはシングルで出したときとまったく同じデータを入力しなければならない、ということだ。
さもないと配信先のサービスによっては配信が拒否される、という。

同じデータとは、同じ曲名、同じアーティスト名、同じISRC、などを指す。要は、同じものなのだから別物あつかいにならないように、ということらしい。
たとえ過去に出したシングルのほうは配信をすでに止めていたとしても、同じようにデータを入力しなければいけないと書いてある。

ISRC とは「International Standard Recording Code」の略で「国際標準レコーディングコード」という訳があてられている。
配信仲介業者を利用すれば無料・自動で発行されることが多く、たいていは会員ページから確認できる。
だが「レコーディング」とは言っているものの、「録音」や「音源」などととらえると誤解しやすいかもしれない。
同じ曲であったり、同じ録音を元にしていても、同じISRC を設定するとは限らないからだ。

たとえば同じ曲でも、ライブバージョン、アルバムバージョンなど、違う演奏・音源ならば別のISRC にする必要がある。
また、同じ音源でも、それにさらに手を加えたリミックスバージョン、曲の長さを変えたショートバージョンなどの場合も、別のISRC にする。

適切な表現が見つけられないが、「まったく同じ音声そのまま」「同じトラック」「同じマスター」のものに同じISRC をあてる、と言ったらいいだろうか。

「以前に配信したか?」に注意

・How to release singles as an ALBUM or EP | DistroKid

こちらはPete Johns 氏が6つのシングルをアルバムにまとめて、DistroKid からリリースする場合の手順や注意点を解説している動画だ。

この動画の5:05あたりでは配信手続きの途中で出てくる設問「Previously released?」について解説している。
「以前にリリースしたものか?」という設問なので「Yes」と答えそうなものだが、Pete Johns 氏は、以前シングルとして出したものでも今回は「アルバム」という別の形式で出すのだから「No」で大丈夫、と説明しているようだ。(僕の英語力では正しく訳せているか自信がないが)

・TuneCore「販売実績・発売日の登録方法について」
https://support.tunecore.co.jp/hc/ja/articles/360007272831

TuneCore でもこう説明している。
「アルバム内の1曲が先行配信されている場合であっても、アルバムとして発売されたことが無い場合は[販売実績]に"なし"を選択」。
ただこちらのページでは「過去にCDやレコードなどで発売したことがある場合は [販売実績]に"あり"を選択」とも書いてある。
配信とCD販売では設定のしかたが違うようだ。

他の配信業者の手続きでも同じような設問があるかもしれない。
こうした「Yes/No」形式の設問は分かりづらいことも多く、業者によって質問の意味が微妙に違うようなので、ひとつひとつ慎重に答える必要があると思う。
どの業者も手続きの途中なら設定の修正は簡単だけれど、一度配信されてしまうと修正はかなり面倒なので、慎重さは欠かせない。

「先行配信を取り消すか?」

「Can I Upload a Single Before My Album, and then Include that Single on My Album?」
https://distrokid.zendesk.com/hc/articles/360021298953

こちらはDistroKid のサポートページ。
「アルバムの前にシングルをアップロードしてから、そのシングルをアルバムに含めることはできるか?」という質問への回答ページだ。
この回答のなかに「シングルは残したままにするか、削除してアルバムバージョンのみを利用できるようにするか、選べる」という一文がある。
逆に言えば、残したかった先行シングルを間違えて削除してしまうことがありうる、ということだと思う。
他の配信業者でもこのような設定があれば、注意が必要だろう。

リングトーン(着信音)

ここからはシングルをアルバムに入れる時の注意点とは関係のない話。

今回「シングル」や「アルバム」の配信について調べているなかで、個人でも配信できる形式がもうひとつあることを知った。
それが、iPhone などで使える「リングトーン(着信音)」だ。
TuneCore などいくつかの仲介業者ではリングトーンの配信をあつかっている。
自分がつくったリングトーンを「iTunes Store」で販売できるのだ。

・TuneCore「リングトーン(着信音)を販売できるようになりました!」
https://www.tunecore.co.jp/news/22
・TuneCore「リリース登録について」
https://support.tunecore.co.jp/hc/ja/articles/360007022552

「iTunes Store」を見ると、曲のサビなどがリングトーンとして配信されているだけでなく、着信音らしいメロディーやサウンドロゴ的なもの、ちょっとした効果音、コメディ調のセリフなど、いろんなものがある。(どんなものでも配信できるのかはそれぞれの仲介業者に確認することが必要だけれども)
しかし、そうしたいわゆる楽曲とは違うものを「リングトーン」として配信できると言われても、いきなりシングル曲と同じように単独配信するのは少し勇気がいるような気がする。
無料でできるならともかくリングトーンひとつひとつに配信料もかかるし、5~30秒しかないので、業者によっては「シングル」に比べて割高な印象もある。

まずは単独配信の前に、YouTube やTwitter 等にアップして世間の反応を見る、というのが順当だろうか。
あるいは、アルバムにボーナストラック的に入れてから配信して、評判が良かったものを後から「リングトーン」として単独配信する、という手もあるかもしれない。
先行アルバムの中から1曲をシングルとして後から出すことをシングルカットと言うが、それにならえばリングトーンカットと呼べるだろうか。

メジャーアーティストだとアルバムにそんなリングトーンを入れるのはいろいろと難しいかもしれないが、インディーズならそうした一種の遊びのようなこともやりやすい気がする。
それに、仲介業者を介して配信すれば、YouTube だけでなくApple Music やSpotify などさまざまなサービスで配信されるので、意外なところで反響があるかもしれない。
着信メロディーのようなものを作るのが得意な人は、それこそリングトーン・コレクション・アルバム(リングトーン集)、なんてものをつくって配信することもできるかもしれない。

リングトーンの細かい設定については説明が見つけられなかったのではっきりとは言えないが、アルバムからリングトーンカットして後から配信する場合でも、同じISRC を設定するなどの注意がいると思う。

リングトーンの配信を初めて知ったので、いろいろと考えをめぐらせてみた。


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