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消えゆく田舎のよもぎもち

お稽古場であるお茶の先生のご自宅の近所には、小さな和菓子屋さんがあります。

見た目はどの田舎にも一軒はありそうな、昭和の名残のある、寂びれた和菓子屋さん。壁に貼ってあるポスターは色あせていて、ドアは自動では開かない。

お店で売っているのは、贈り物用の焼きもののお菓子数種類に、看板商品のよもぎもち。ここのよもぎもちは割と評判のようで、午前中で売り切れてしまいます。

茶道に出てくるお菓子は、お茶のお稽古では、これまで何度となくよもぎもちが登場してきました。

ツンとした草の香りに、よもぎの葉の面影が残る濃ゆい緑色。
大きさは卓球のボール程度で、やや小ぶり。
手でこねたことがよくわかる不器用な見かけと、歯につくねちねち感。
手作り感が満載のよもぎもちです。

先生の話によると、少し前までは老夫婦がお店を切り盛りしていたようだけど、店主のおじいさんが亡くなり、今はおばあさんと、独り身の息子が切り盛りしているのだとか。
近頃はおばあさんも体の調子が思わしくないようで、お店がお休みの日が増え、品ぞろえも減り、ついには看板商品のよもぎもちの質も落ちているとのこと。

私は正直、よもぎもちの味の違いが判りません。
でも、長年、そして通年このよもぎもちを食べ続けている先生によれば、昔は春のよもぎもちは摘みたてのよもぎでできていて、特においしく感じたけれど、最近は一年中同じ味しかしない、なんておっしゃっていました。

おまけに最近、ついにこの界隈にもコンビニがオープンました。
以前の記事にも書いた通り、お稽古でもコンビニのお菓子が出てくることが時々あります。数年前はコンビニのお菓子という偏見からあまり良い気がしませんでしたが、今ではすっかり慣れてしまったし、実際においしいものはたくさんあります。

セブンイレブンで売っている草もちも、それなりにおいしいです。
わずかにただよう蓬の香りに、乱れのない丸い外観。
いつだって均質なクオリティの割に手ごろな価格。
日本中どこでも手に入る味。

でも、あのお店のよもぎもちの味は、あのお店にしか出せません。
どうかこれからも、よもぎもちを作ってほしい。
よもぎもちを買い続けることでお店を応援することはできるかもしれないですが、このままでは遠からぬ将来、よもぎもちはこの地域から姿を消してしまうでしょう。

ひとつの文化が消えていくのを傍観しているようで少し悲しい感じがします。でも、これは私が歳を重ね、時代の変化、ニーズの変化にうまく順応できていないことの証ということでしょうか。

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