実話怪談 晩ご飯を作るのを手伝ってくれる?

 ある日、Iさんが部屋でスマホを触っていると、ドアがノックされた。
「晩ご飯を作るのを手伝ってくれる? 」
 母がドア越しに言っているのが聞こえた。当時Iさんは反抗期だった。両親を嫌っており、話しかけられても顔すら見ない日もあった。Iさんは断った。
「晩ご飯を作るのを手伝ってくれる? 」
 しかし母は再びそう言った。どうしてここまで強情なんだろう。まるでこちらの声が聞こえていないみたいだとIさんは思った。
 Iさんは両親と話したくないあまり、声を掛けられても返事をしなかった事があった。その仕返しをされているのではないかと思った。
 結局Iさんは根負けし、料理を作ることにした。母に言われるままに、野菜を切り、調味料を鍋に、魚をグリルに入れ……。調理をしていて、Iさんは母が指示だけで何も手伝ってくれていない事に気づいた。
 当時Iさんは友人と外食をすることが多かった。外食をする日、彼女の分の食事はいつも無駄になっていた。母は料理を作らせることによって、自分に罰を与えようとしている。だからさっきも何度もしつこく言ってきたに違いない。Iさんはそう思った。
「これで、満足? こんな面倒なことして」
 料理を作り終え、Iさんはこう言った。
「晩ご飯を作るのを手伝ってくれる? 」
 母の返事は、先ほど部屋で聞いたのと全く同じものだった。言葉だけでなく、その声色も同じだった。
 Iさんは違和感を覚え、その日初めて母の顔をしっかりと見た。おでこにある大きなホクロ以外、特に特徴のない顔。その表情からは何の感情も感じられなかった。

 似ているが、母では無かった。
 えっ、誰……。

 その時、玄関のドアが開く音がした。Iさんは女を警戒し後退しながら、ドアの方を見た。そこには母がいた。
「あら、晩ご飯作ってくれたの? 」
 今そんなことを言っている場合ではないだろ、だってそこに女が。そう思い、Iさんは女の方を見た。
 しかし、そこには湯気を立てている料理しか見当たらなかった。

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