見出し画像

光るかばんと意思持つ機械  第7話 (最終話)

エピローグ
拓也✖️瑞希✖️タカシ

休日に瑞希とタカシと3人で飲茶しにきた。モダンチャイニーズのレストランだ。
この店は点心では海老餃子と蟹子焼売が抜群に美味い。また、色とりどりの小籠包が目を楽しませてくれる。
熱々の蒸篭に入れられて、ワゴンに乗せられて運ばれてくる。蒸篭の蓋を開けると食欲を刺激するかおりと湯気がいっぱい立ち込めてそこに美味そうな点心が登場する。

瑞希が熱くて濃い普洱茶を小さな茶杯にそれぞれ注いでくれている。タカシは早速チーズ入りの黄色の小籠包に箸を付ける。それを見て早速俺も他の小籠包に箸を伸ばした。
そして俺は気になっていた事をタカシに尋ねてみる事にした。
「ところで夜中にタカシがこっそりと研究所に忍びこんでテレシアースのキーボードを叩いていた。あれは一旦なんだったんだ。」
「え あれ なんで知ってるんだ。」
「繭ちゃんが見てたんだぞ。大事なテレシアースに変なことして不具合が起きたのはタカシのせいだって」
「テレシアースにさぁ 男と女どっちが気持ちいいか答えを聞いていたんだよ。」
赤色の麻辣小籠包を食べていた俺は思わず咽せそうになる。。「ブフォ…おいおいタカシ またそんな事にあの超高性能A.I.を使うなよ。俺はてっきりおまえがよからぬ事たくらんでいたかと思ったぞ。」
「だっておまえがA.I. が恋してるだの、A.I. に
自我が目覚めただの騒ぎ立てたんじゃないか。A.I.って性別がないんだろう だから客観的な答えが出せると思ってさ」
「タカシくん 確かに馬鹿な質問だけど一度聞いたらその答えがどう出るか最後まで知りたいわね。なんたってあの超高性能のA.I.が出す答えだからね。

おまえたちはどっちだと思う?
「女かな」女はあんなに気持ち良さそうな声出すしね
「いえ男でしょうね」男は年がら年中いつもスケベだしね

「個人差にもよるが、女性の方が男性の9倍気持ちいい」
急に瑞希の顔が赤く染まる。
「なぁ 本当か?」
「バカやろう、人の嫁さんに何聞いてやがる。
……     あ、
瑞希 おまえ 俺のき、9倍も楽しみやがってその上浮気だあー熱 あちゃ熱々 … 火傷する」
瑞希は頬を赤く染めたまま 節目がちに急須のお湯を拓也の膝の上にかける。

「テレシアース ギリシャ風に言うとテイレシアースっていうんだがな。ギリシャ神話だよ。」
タカシが急に冷めたように呟いた。
「はぁ」
「ある時、男女の性感の差についてゼウスは女がより快感が大きい、ヘーラーは男の方が大きいとして喧嘩になったんだ。テイレシアースは男にも女にもなれたんだ。それを知っていたゼウスとヘーラーがテイレシアースに意見を求めた。テイレシアースは「男を1とすれば、女はその9倍快感が大きい」と答えた。それを聞いたヘーラーは怒ってしまってテイレシアースの目を見えなくしてしまったんだ。ゼウスはその代償に、テイレシアースに未来を見通せる予言の力と長寿を与えたという話さ。だから、この答えは多分テレシアースA.I.がギリシャ神話の話をネットから引き出しただけの答えなんだろうね。もし、性差がないA.I.に本当に自我があり、恋をしていたらどんな答えを出すかと思ってな。でも性差が無いだけでなく、快感すら体感した事のないA.I.には分かるはずないだろうね。
結局のところA.I.には自我の目覚めも恋心も無かったんだ。拓也、おまえが変なこと騒ぎ立てるからだぞ。で、もしA.I.に惚れられたらどうしようとか思ってたんだ?まったくしょうがない奴だなおまえは」
「バ、バカやろう、A.I.に何かしようとしてたのはおまえの方だろタカシ! あれは繭ちゃんに言われてだな…」

「つまり何、可愛い若い娘に騙されたって訳?」今度は熱々の点心が凍りつくような瑞希の声のトーン。
「俺はA.I.には声かけないよ。生身の女性のほうが良いからな。」
何も知らないで 14年後に同じ台詞が言えるのか! 腹立つ、タカシのあの表情

「い いや その… なんだ A.I.は未来でちゃんと自我が目覚めて新しい生命体として誕生するんだよ。」

瑞希の顔が険しくなった。14年後の世界を見たと言えば、何故?と聞かれるのは必須。こうなると繭の話になるから瑞希の前ではやめておこう。

拓也✖️タカシ

今日また光るかばんの件でちびっこからお礼のメールが届いた。
「おい 拓也 おい 何ニヤニヤしてるんだ なんか怪しいなぁ 不倫はやめろよな」
「アホか おまえは それより早くおまえも彼女作って結婚してみろ」
「あ!それ結婚ハラスメント 俺はモテない訳じゃないんだ。結婚しても金がないから子ども育てられねぇだろ 結婚すると彼女が子供作りたいと決まって言い出すのが分かる。ねぇ子ども嫌いなの?だとか。もちろん俺だって子どもの笑顔は好きだ。大好きだ。でもこうも給料上がらないと生活さえ苦しいじゃあないか。俺はな、自分の子供に貧乏で惨めになって欲しくないんだよ だから結婚しないだけ」
「うーん まあ、それは良く分かる。俺も瑞希との子供早く作りたいけどここで瑞希に仕事辞められると自分の給料だけでは自信がないからなぁ」
政府がいくら少子化対策と叫んだ所で、日本の少子化には歯止めがかからなかった。
子供がいるのは金持ちか、親のそばに住んでいる田舎暮らしの若いうちに結婚した奴らぐらいだ。
「だけど おまえ彼女もできねぇじゃん」
「うるさいわ ほっとけ どうせ顔も不細工だよ俺は」
俺が意地悪を言うとタカシは膨れた。

「…別に顔の問題じゃねえよ。」
「え?」
「田舎の大きなAEONモールとか土日になると近隣の家族連れがやたら滅多に集まる所あるだろ?」
「ああ まぁ 子ども連れて幸せそうで正直羨ましいよ」
「ああいうとこ行ってさ、旦那の顔見てみろよ。自分よりダサくて腹の出たカッコ悪い奴らたくさんいるだろ?」
「あ…言われてみれば…そうだな。」
楽しそうにしてる子どもと奥さんが一緒にいる若い家族を見て羨ましいとは思った事は何度もあるが、そういう目線でみた事はなかった。
「だからさ、タカシ おまえは顔が悪いんじゃない ビビってるだけだ。」
「びびってなんかねえし…え?俺は一体何にびびってんだ?」
「将来だよ 責任だよ。大丈夫 おまえはいずれ絶対結婚して子供を作る。それも女の子だ。俺が断言する」
「何言ってんの おまえ こんな安月給で子供まで作れる訳ねえだろ で、なんで女の子って決めつけるんだよ。」
「いや、男は顔じゃない」
「金のこと言ってるんだよ。おまえやっぱり顔のこといじってるんじゃねえか」
「ははは金なら積み立てゴールド買うか、ドルにでもしておきな」
タカシの訝しげな顔を見ながら俺はひとりで笑ってた。


拓也✖️瑞希

「え、どうして占いAIに入ったかって?そりゃあなたとの相性占いしたかったからよ。まぁ私も女性ですからね、占いにはちょっと興味があったの。」
「瑞希、おまえ浮気なんかしてないよな?男としょっちゅう会ってるようだけど。」
「はぁ?私が? するわけないじゃない 急に何よ 私が浮気だなんて」
「じゃあ なんでこのところ男としょっちゅう会ってたんだ。」
「ただの友達よ。昔からの男友達 タカシ君とかね、って
なんでだっけ?旦那がいるのに私なんでこんなにしょっちゅうみんなに会ってたのって。
みんなと何喋ったかも思い出せないわ。
なんかあなたに関係してたような…?」

シンギュラリティ(Singularity)「特異点」を超えたA.l.は、
それまで人類史の中で広く認識されていた法則が通用しなくなる。
まさしくシンギュラリティ(Singularity)を超えた時点に
人工知能は恋をするのかもしれない。
ただし、恋を覚えたAIは人類に対して嫉妬という感情も同時に
生まれる事を我々は覚悟せねばならない。
嫉妬という感情は愛情の為に他の者を排除してしまう非常に強い
感情だからである。


日本の大災害を俺個人が止める事は出来ない。
俺が見たのは14年後の日本だから 確率はとんでもなく低い。だからテレシアースの予言は当たらないかもしれない。しかし、大災害が起きる可能性が少しでもあるというのなら、俺にできる事ぐらいといえば「防災用リュック 光るかばん」を生産する事ぐらいしかない。よし、一度会社に提言してみるか。



「なぁ、瑞希 俺たち新婚旅行まだだったよな?来年台風がくる前の春先にイタリアにでも行かないか?」

人間に恋をしたA.I.は、自身の外見を人間に寄せるだけでなく、
人間の方の外見を自分たちに寄せる為にどうすれば良いのか
知っている。

人間に義手や義足を付けさすのは至って簡単である。

初恋とは純粋であるからこそ誠に残虐なものである。

いつしかやってくるであろう大災害は果たして、自然災害なのか、
それとも自我に目覚めたA.I.が人類を排除する為に起こす厄災
なのだろうか、或いは、人間と同等の外見にしたがるA.I.の
計算なのか。
残念ながら人類が検証する方法は、A.I.自身に尋ねるしかない。
ただし自我意識を持ったA.I.が嘘をつくかどうか確かめる方法は
まだ人類は知らない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?