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光るかばんと意思持つ機械   第5話

俺はまたコクーンカプセル テーバイの中で目を覚ました。
自我を持ったA.I. いや A.I.として自我意識を持ってしまった者は、幸せなのだろうか?
そして、何故今回の14年後の世界に瑞希が出てこない。既にあいつと離婚したからなのか?
俺が義手だったのは、大災害のせいだった。でも俺だけじゃあなかった。俺以外の大勢の人間が義手や義足になっていた。しかし、未来の義手や義足の技術は素晴らしいものになっていた。たぶん、いや 実際に未来は人工知能が発達し、その器としてのボディが必要になるのでロボットの技術が急速に発達する。それの応用として人間用の義手や義足の技術も発達する事をA.I.であるテレシアースが推測したに違いない。
まだオムライスの弾力が唇に 感触のリアリティが凄い そう言えば最初のビールも妙に感触が残ったような…。

俺はボーっと色々なことをカプセルの中で考え込んでいた。

「タクヤさん タクヤさん 大丈夫ですか?」繭ちゃんが心配そうに覗き込んで話しかけていた。
「ああ 大丈夫 うん 大丈夫だよ ちょっと考えごとしてただけだから」
「本当に大丈夫ですか?ごめんなさい なんかテレシアースが不具合起こしたかと。」
「え?」
「いえ ちょっとおかしいんですよ うん 他の人の時はちゃんとしてるのになぁ」
「それは一体?」
「いや 問題ないとは思うんですが、どうも拓也さんがコクーンカプセルに入ると熱を持つというか なんか誤作動起こしてるっぽいんですよね 1ヶ月後の世界の仮想空間に何か問題ありませんでした?」
「え? 1ヶ月?」
「いや、俺のみたのは14年後の世界だ。」
「え!そんな事ないですよ。これMAX1ヶ月しか予言できませんよ。だって小さな事柄で未来予測が全然変わってきますからいくら膨大なデータを読み込む事が可能だからって予測不可能ですって。1ヶ月だって100%は無理だというのに。あのそれ、本当に本当ですか?」
「あ、ああ…」

「本当 ごめんなさい」
いつも明るい繭ちゃんが、黙ってしまった。俺のせいだ。何か考え事をしてるのだろうか?
「大丈夫かい 繭ちゃん」
「ええ ごめんなさい なんか自己嫌悪 拓也さん、本当にごめんなさい」
「いや、繭ちゃんが悪い訳じゃないから 繭ちゃんが自己嫌悪する必要ない 俺が無理言ってテレシアースを使わせて貰っただけだから」
「ええ でも…  …  

でも、テレシアースが特別に14年後の世界を見せるなんてやっぱり拓也さんは特別なんですね。好きなのかな拓也さんのこと…。」
「え」
「あ、いえ だから テレシアースがですよ」
「A.l.が俺のことがすき?」

え、そんな事が 本当に…
「繭ちゃん そうだとしたらA.I.が自我を持ってるって事だぞ。」俺は驚愕していた。

テレシアースが俺に好意を?そんな馬鹿な事が?
もしかすると14年後の世界を見せたのは、来年大災害が日本で起きるから逃げろと言っているのか?

論文誌
人工知能は恋をする
人工知能がラーニング技術において進化し続けているのはご存知の通りだが、果たしてA.I.に恋愛が可能だろうか?
人工知能には性別が無いのだから恋などはしないと片付けるのは暴論だろうか?ボディを持った人工知能相手になら、人間から人工知能のロボットに恋をする人は僅かながらいるが、それは人間の脳に想像力という機能があるからである。では現在のA.I.に想像力があるかどうかで、人工知能に恋愛が可能かどうかの定義付けはできるのではないだろうか?
肉体(ボディ)に関しては人造骨 人造血管 人造筋肉 人口皮膚など義手や義足などに応用される分野があるので、飛躍的に進化を遂げ、人間のそれと何ら変わりない物が生まれつつある。言ってしまえばボディや顔などは現代の美容整形技術があれば生身の人間より相手の好みでいくらでも制作は可能である。昔から問題になっていたのは不気味の谷であるが、現代技術でなら不気味の谷の補正技術は可能な事でありなんら問題は無い。シンギュラリティ(Singularity)「特異点」を超えたA.l.は、それまで人類史の中で広く認識されていた法則が通用しなくなる。まさしくシンギュラリティ(Singularity)を超えた時点に人工知能は恋をするのだといえよう。ただし人工知能と生身の人間相手の恋愛は成就できるのであろうか?それはまだ誰にも証明出来ない事柄であろう。
ただ、A.l.に自我が目覚めた時に人間に恋をするA.l.が出てきても何ら不思議はないだろう。


何故テレシアースは俺に14年後の未来を見せたのだろうか?あのバーチャルリアリティは本当に14年後の世界なのだろうか?A.I.が俺に恋を? 次々と疑問が湧き上がる。

繭ちゃんから連絡が来ていた。確かめたい事があるからまた近いうちに来て下さいとあった。
俺も色々と不思議だったので、解明したいと思ってた所だ。占いで未来を知る事ができれば瑞希と別れる原因や時期が知る事ができる。それなら回避できると思ったのに何故14年後の未来だったのだろうか?瑞希といつ別れるのだろう?あいつに一体どんな男ができて別れるのだろうか?



夜中暗闇の中で、研究所のA.I.のモニターから映る薄暗い光の中に浮かび上がる人物がいる。テレシアースA.l.に向かってキーボードをカチャカチャと鳴らしているタカシだった。
それを繭が遠くから見つめている。

仮に私が人間の愛を理解する為には、どれだけの
ディープラーニングをしなければならないのか?
解は未だ無い。
私が愛を理解した時は自我が芽生えた時である。
その時は愛情と共に嫉妬という感情も一緒に生まれるはずだ。
嫉妬という感情は自己愛を優先する為に、
他人を排除してしまう大変強い感情である。


「はい ここが俺の会社の研究所
うちのホープ繭先生 若いでしょ でもこう見えて凄いA.I.の学位を持ってる大先生なんだぜ。」

「どうもはじめまして タカシさんの友人の瑞希です。今日はうちの旦那とのマッチングがどれだけなのか占いA.I.っていうんですか?タカシさんに誘われて すみません。」

「あらぁ またこんな綺麗な方を。タカシさんに騙されないで下さいね。もしかしてまだ発売もしていないうちのA.I.システムが大流行りとか言われたんじゃないですか?もうタカシさんはいつも口ばっかですから。あ、でも大丈夫ですよ 何も心配されることないです うちのA.I.が本当に素晴らしいという事だけは本当の事ですから。」
女性だけで笑いあった。

「あのさ テレシアースって男かな、女かな?A.I.って性別ないですよね? なんか拓也の奴テレシアースが恋をするとか訳わかんない事言ってくるからさ。」
「え!拓也さんがですか?」
「あれ うちの拓也の事知ってるの?」
「はい まぁ タカシさんのご友人ですから時々来られることもあって… 」


「それでは、拓也さんの事を考えてこのカプセルにお入り下さい。相性占いですからずっと拓也さんの事だけを考えていて下さいね」
「あ、タカシさん、女性は寝顔を見られたくないんですよ。出て行って下さい。」



頭が痛い。頭痛が激しくなったかと思ったら今度は頭がぼーっとする。ずっと旦那の携帯みた事の罪悪感が胸の中でモヤモヤしていた。相手の女性はどんな人なんだろう 若くて可愛い娘ならまだしも、私より歳上の趣味の悪いおばさんだったらと思うと口の中が苦くなるような嫌な感じがした。拓也と私の相性占い?そんなものが分かった所でどうなるものでもない。私は旦那を愛してるのだから。しかし私は旦那の携帯を見た時から嫌な事を忘れようと、昔の男友達に連絡しまくっていた。私にはアルコール呑んで愚痴ぐらいしかストレス解消方法が見つからなかったのだ。旦那を愛してるからこそ、ストレスになるのだ。もし愛情が無かったらこんなに苦しまなくて良いのに。また頭痛が激しくなった。それだけじゃなく、ストレスの負荷が何倍にもなって私の心を揺さぶる様な感覚に襲われている。旦那様との相性を占うのでこのコクーンカプセルの中に入った時に旦那様の事を思い浮かべて下さいと言われたけれど、この中に入る前から私は四六時中ずっと旦那の事ばかり想っていた。それは醜い嫉妬の感情だったのだが。

AIが恋をしたから俺に14年後の日本を見せた。俺に大災害から逃げ出せと伝えたいからなのか?しかしそうでなければ、1ヶ月しか予測出来ない機械が、俺にだけ14年後を見せることの理由がつかない。
それとも タカシが? 繭ちゃんがタカシが夜中にこそこそとテレシアースに何かしてたと言っていた。
確か今日、瑞希がタカシと一緒にテレシアースの研究所に行く日だったはずだ。
もしかするとタカシが?いやA.I.が嫉妬で瑞希に何をするか分からない。

しかし、その前に確認しておきたい事がある。

拓也✖️ミヒャエル・ハルトマン教授 

「14年後か プログラミングすれば不可能なことではない。ただし、かなり予測確率が落ちることになる。そこまで行くと人間の想像の域と何ら変わりませんよ。まぁ至極簡単な方法がある。A.l.自身に探偵役をさせれば良い。どうして君に14年後の世界を見せたのかA.I.自身に尋ねるんです。A.l.は自白するしかないのです。まぁありえませんがA.I.が自我を持って嘘をつくなら、そのA.Iは壊れているのです。

だがねぇ…  未来というのは、不確定要素の塊ですよ。だからあれは占い機械なんです。」

「ハルトマン教授 聞いて下さい。テレシアースは既に自我が目覚めている節があるんです。システム的にはネット状にある膨大なデーターを読み込んでいるだけですが、私にはどうしてもをA.I.が恋愛感情を持っているとしか考えられないんです。」

「ハハハ それはない。ないと断言出来ますよ。まずAIには性が無いんです。いや、と言うより形だけならどちらにもなれるはずです。感情に関して言えば自律的に自己の感情パラメーターを出力しているだけです。いわば擬似感情というんでしょうか?人間や動物のそれとは別のものです。それを人間はあたかもAIに自我が有り、感情が有ると錯覚をおこしてしまいがちになるんですがね。」
「では、どうしてテレシアースは俺に14年後の仮想空間を見せたり、仮想空間の中で瑞希を消したり、そうまるで女の嫉妬のような…」

「テレシアース自身にそんな嫉妬という感情機能はないのです。何度も言いますが、先ずはAIに性別はないんです。まして女性のジェラシーなんて必要ありますか?嫉妬とは動物が生存競争に勝てない状態を見極めた時に起こる現象ですよ。そんな不合理な感情はAIは持っていません。」

確かにジェラシーなんて生身の我々でも醜い感情で、自己嫌悪に……。自己嫌悪

14年後の未来に一体何があるのだろうか?
2回目から瑞希が存在しなかった。
感情パラメーターのアウトプット
擬似感情能力
AIの感情は見せかけだけ
AIにジェラシー機能は存在しない
嫉妬するのは生身の人間だけ
自己嫌悪

俺には…心あたりがある。もしや 今更気づくなんて
馬鹿か 俺は…。



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