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長編小説『不埒な果実は春を見ない』

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【あらすじ】  マッチングアプリで異性を漁ったり、虚しいと分かるのに風俗で性欲を満たしたり、人生とは所詮、そんなくだらない事の連続だった。初恋をしたことのない「私」の元に現れた、…
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#小説

不埒な果実は春を見ない|ep.Eri 1/2

不埒な果実は春を見ない|ep.Eri 1/2

~10月~

 夕飯をコンビニで買っていたら、通り雨が降り出してきた。私はレジ横のビニール傘を買おうとしたが、日当が入っていないので当然買えるわけもなく諦めた。仕方なく、レジ袋を傘の代わりにして、職場まで駆け込むことにする。左右から自転車などの通行が無いか確認して、私は颯爽と走り出す。しかし、くっ……、思ったより雨は強い。綺麗なお洋服が濡れてしまっては仕事に支障が出るので、一先ず雨宿りでもしようと

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不埒な果実は春を見ない|ep.Eri 2/2

不埒な果実は春を見ない|ep.Eri 2/2

 私は火伏と共にハーレーに乗り、東京へ戻ることにした。東京の自分の勤務先に戻り、退職届を出そうと思った。海岸線に太陽が沈んでいくのを見ながら、私はこれで良かったのだろうかと考えた。しかし、そんなことは考えても仕方ないことで、私たちは逃げるほか無いのだった。夜の帳が降りて、道が暗くなると、パーキングエリアで彼はハーレーを捨てて、レンタカーに乗り換えた。追手が来ているような気がしたが、火伏は「この辺り

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不埒な果実は春を見ない|ep.Satoru

不埒な果実は春を見ない|ep.Satoru

序章・エリの視点はこちらから↓

 バンドメンバーの一人が「俺、もう抜けるわ」と唐突に言い出して、俺らは演奏を止めた。さっきまでは心地良い音の中にいたのに、それを急に遮られたことに少し不快感を覚えて、俺は顔を歪めずにはいられなかった。

『え、今なんて?』

「だから、抜けるんだよ、バンドを」

この宣言に、俺は正直なんて返していいのか分からなかった。こういうところで茶化そうとしてしまうのは俺の悪

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