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旅行会社勤務者が考える、言わずもがなのこと

「旅はいい」
なんて当たり前のこと書いてどうするんだという気もするけれど、旅はいい。いいどころではなく、命の恩人である。

2浪目が決定し、心機一転を計り1か月放浪したインド。
3年次編入を経て入った大学の、卒業間近の3月に必修科目の単位を落としていたことが発覚し、留年決定で呆然自失のまま旅立ったタイ。

失意の中でも異文化の雑踏を歩けば、世界は広く、価値観は人の数だけあり、歩むべき道筋は一つではなく無数の可能性にあふれていることが見えてくる。

浪人がなんだ、留年がなんだ。

どうしたって人は食べ、寝、そして時折自分がこの世に生を受けた役目らしきことを果して生きていく。そうやって旅先で人間の本分に立ち返ることで、日本の生活の中でがちがちに醸成された「善」と「悪」の二項対立をもろとも壊して、第三の可能性が見えてくる。スーパーマーケットの様相一つからして全く異なる海外を、旅する醍醐味であると思える。




驚きのパスポート保有率


今、日本人のパスポート保有率はなんと驚きの17%らしい(2024年7月現在)。2023年にシンガポールに首位を譲ったが、それまで5年連続で日本のパスポートは世界最強であった。今でもビザなしで行ける国の多さが189もあるのである。どんなところなんだろう、と思いを馳せる多くの国々に、煩雑な手続きなしに門戸を開いてもらえているのに、その懐に飛び込んでいかないのはとても勿体ないと思えてならない。


旅行会社勤務者は人がいい?!


旅行好きが高じてご縁をいただけ、今も旅行会社に身を置くわけだが、周囲の人皆オープンマインドで驚く。なんというか、すごくいい人が多い。飲み会の席では旅した国の話で盛り上がり、その体験談から自らの次の渡航先を思い描いたりもする。

ハネムーンだって、大先輩の旅の猛者から猛プッシュを受け、行き先をパラオに決めた。夫が長時間のフライトが苦手だったということもあるけれど、結果的にすごく良かった。

毎日朝食後はレストランの目の前の真っ白なビーチに降りていき、ちゃぷちゃぷと寄せる穏やかな波に足を浸してから部屋に戻る。ホテルからのウェルカムフルーツをかじり、テラスの長椅子に並んで身を横たえ、2人きりで晴れ渡る海を眺める。時折とりとめのないおしゃべりをし、日本から持ってきたスケッチブックに各々ヤシの木と海の絵を描く。私は色鉛筆を使ったが、夫はなぜか筆ペンを使い、南の島なのに水墨画のような様相だった。成田の免税店で買った濃紺の口紅を2人で丁寧に塗り、キメ顔で写真を撮る…

 あぁ行きたい。目下の目標は、子育てが終わった後老後に夫と旅三昧をすることである。クルーズ船もいいし、ラスベガスからのグランドキャニオン、モルディブにタヒチ。潔癖な夫は私の体験談を聞いて震えあがっていたので、インドは絶対一緒にいってくれないから一人で再来するとして、アジア圏ならシンガポールか台湾か。ウィーンやパリ、ドバイも外せない。


要因は?

旅行会社に勤める人間の人の好さはどこから出るのか考えた。恐らく「大枚をはたいてでも自分の見聞を広めることを厭わない」柔軟さにある気がする。生まれてからこれまで築いてきた自分の価値観を完膚なきまでに壊す体験(しかもある程度まとまった費用が必要)を愛して止まない、ある種マゾヒスティックな営みは、しかしどの文化圏に属そうとも共通する人間の本質への理解を深め、他者への寛容さを生むのではないか。

そもそも自分の行きたいと思ったところに時間と労力、そしてお金をかけて実際に赴けるのは最上のご自愛かもしれない。自分の内なる欲求に耳を傾け、それを受け止め叶えてあげる。それをできるのは自分しかいないから、「お金が」とか「時間が」とあれこれ言い訳せずに素直に飛行機に乗って飛び立つ。そうしたご自愛ができる人は満ち足りているので、自然他者にも優しくなれるのではないか。

なにより旅をしているとたくさんの人の親切に触れる。日本にいるときは希薄になっていた、「誰かに助けられて、私は今日も生きている」という感覚を呼び覚まされ、自分の力だけで生きているという傲慢さは消え失せ、人という存在の愛しさと不完全さに思い至る。あの時された親切を胸に宿しているので、「あなたも、私も不完全。だからお互いできることで補い合いましょう」というマインドが根付いているのではないか。

そんな風に仮説を立てられるほど、今日も社内にはいい風が吹き抜けている(気がする)。


やっぱり海外旅行は必要

日常の生活に倦んだ時、自然「し~らないまちを~ あるいてみ~たい~」と日本テレビ系紀行番組『遠くへ行きたい』のテーマ曲を口ずさんでしまうのだが、それを見て哀れに思ったのか、夫が国内旅行を次々に企画してくれる。ただやっぱりどうしても、国内だと頭をガーンと殴られるようなカルチャーショックはなかなか得られない。

先日、最寄りのデパートで我が子を見失い、初めて迷子の恐ろしさを経験した。これが勝手分からぬ異国の地だったらと思うとゾッとした。せめて子供が自力で住所と本名を諳んじられ、何とか家に帰りつける年になるまでは海の外には出まいと思ったので、それまでの辛抱である。

自社のお値打ち商品を見つけては、あれやこれや夢想する毎日が我が家ではもう少し続きそうなので、今行ける方々はぜひ、老後の趣味と言わず、行けるうちに行ける所へ行っておいた方が、それからの人生なんと華やぐことかと、老婆心ながら思わずには居られない。

円安だろうが円高だろうが、行きたいと思った時が行き時!自戒と共に。




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