肩こりの話に伴いどうしても言いたいことがある。 どのセラピストの方に施術を受けても、皆さま大変すばらしい技術をお持ちでありがたい限りなのだけど、終わった後の満足度が大きく異なる。何が違うのかと思ったら、ただ一点の違いだった。 セラピストの方が雄弁かそうでないかである。 おしゃべりは楽しい。自分の体が万全な時に交わすおしゃべりはなおのこと楽しい。しかしマッサージに行くときは疲労困憊してもう矢も楯もたまらず店の戸を叩いているわけだから、そっとしておいてほしい。言葉少なにただた
「すごく、凝ってますねぇ」 「こんな固い人そうそういない」 「これはお辛かったでしょう」 そんな言葉を、飛び込みで入ったマッサージ店で言われるのが好きである。何百人もの体をほぐしてきたプロがそういうのだから、私の体は相当にがちがちなのだろう。 「えっそうなんですか、自分ではわからなくて…」 多分不定愁訴てんこもりのはずだが、日々の慌ただしさにかまけて幸い頭痛やらはそこまで自覚しないでいる。 「いやでもこれは頭痛とか出ていてもおかしくないくらいの凝りですよ」 マッサージ師の先
「夏生まれだから、夏が好き」と思ってこれまで生きてきた。夏の、肌にまとわりつくような馴れ馴れしい空気は嫌いじゃない。Tシャツ・ズボン・サンダルで身軽に出かけられるのも最高だ。節度を知らない底抜けに明るい日差しにも気分は高まる。 今まで人から、好きな季節は、と問われたら、前述の理由からも間髪入れず「夏」と答えてきた。 しかしどうだろう、結婚して以来Googleフォトに溜めている過去の写真を紐解いて「あれ?」と気が付いた。夏になると写真に写る夫の表情から笑顔が消える。子に目線を
夫が宝塚観劇に出掛ける夏の夜、別に家で作っても良かったが、子に何が食べたいか問うと「エビフライ」「イクラ」などと口々に言うので、献立ブラックホールが脳内に浮かび、ではどちらも食べられそうな近所の回転寿司に行ってみようということになった。 そこは長らく100円均一で通していたチェーン店で、出産前にひとりでふらりと入ったところ、タコが嚙み切れないほど固くて、シャリが口腔から消え失せてなおしばらくその生臭いガムをもぐもぐした挙句、あきらめてペーパーナプキンにそっと出して以来、(安
「衛生状態の保存」というのは難しい。その人がどういう環境に置かれているか、つぶさに記録する必要があるのに、そうであることが当たり前な文化圏内だと、あえてわざわざ記録しようなんて思いつかないからだ。自分が身を置く環境を一つの基準として、それが地の果てまで行っても、時代を超えても共通であると、そんなことはあり得ないと知りつつも無意識に思ってしまう。 例えば我が家には人間以外の生物は限りなく少ない。少なくとも目に見える範囲では、たまに小さな羽虫が2週間に1回迷い込む程度である。埃
京都に行ってしまった友人がいる。 婚活をはじめたかと思ったら、あっという間に出会い、2年ほど東京で新婚生活を営んだのち、夫の生まれ故郷である京都に引っ越すことになった。 なんでも東京での暮らしに倦んだ夫が帰郷したいという希望を彼女に伝え、彼女も京都での暮らしを何度となしに夢見たことがあったから、2人の意見は無事一致した。また親族所有の戸建ても市内にあったことから、衣食住のまず住問題は速やかに解消し、とんとん拍子に移住は決行された。 困ったのは私である。なぜなら当時すでに結婚
前編はこちら お店の棚にクシャッと置かれた帽子を買ってみて、「その品を購入することで得られると期待される体験の価値そのもの」が値段に反映されているのではないか、という知見を得たのが前編だったが、そこでふと、宝飾品はどうなるのかという疑問が頭をもたげた。 最近宝石が気になる。身につけてよし、眺めてよしの美しいものなんて最高じゃーんという軽い気持ちで、宝飾店を見つけたら冷やかすようになったのだが、この宝石というものの値段がさっぱりわからない。 あらこんなに大きくてまばゆい宝石
先日子供用の帽子を買った。 夏の盛りであるので、すでにどの店も夏物セール商戦真っ只中である。10%オフとお得になっていた陳列棚の帽子はどれも大変愛らしく、猛暑で家におこもりゆえ留守番していた子供にビデオ通話で、どの帽子がいいか確認したところ、私が2人に似合いそうだと思った品で同意を得られたので、購入することにした。 念のため他の店で見たよさそうな帽子もビデオ電話を介して確認してもらうことにして、一旦子供服店を離れた。足を運んだのはジブリグッズを扱う「どんぐり王国」。子供服店
歯列矯正をはじめて数年経つ。 プラスチック製のマウスピース(アライナーと呼ぶ)を頻回付け替え少しずつ動かしていく方式だが、心もとないと思われた透明の歯型は恐るべき根気強さで、それより奥の歯を手前に移動させることで、抜歯による間隙1本分すら埋めてしまった。前から見ても歯並びは大分揃ってきた。かつての不格好にねじれ飛び出た前歯はもうどこにもない。 見目整ったのはありがたいことだが、その過程で大変な目にもあったりした。 これは完全にn=1の話であり、誰の何の参考にもならないだろ
ある時突如としてカチッと音を立てて入るスイッチがある。私の場合、それは「掃除スイッチ」である。 子供を寝かしつけようかという折、何か憑りつかれたかのように洗面台の鏡を磨きだす。右端から左端へ雑巾を滑らせたら少し下にずらしてまた右端へ…ときっちり四角のつづら折りに降りていき、今度は同じ要領で縦方向に間隙なく拭く。最後にぐるりと鏡の周囲を拭いて完了である。これを真ん中の大きな鏡のほかに、左右に備わる二面の鏡についても同様に行う。 「今このタイミングじゃない」掃除を無言で始めた妻
「旅はいい」 なんて当たり前のこと書いてどうするんだという気もするけれど、旅はいい。いいどころではなく、命の恩人である。 2浪目が決定し、心機一転を計り1か月放浪したインド。 3年次編入を経て入った大学の、卒業間近の3月に必修科目の単位を落としていたことが発覚し、留年決定で呆然自失のまま旅立ったタイ。 失意の中でも異文化の雑踏を歩けば、世界は広く、価値観は人の数だけあり、歩むべき道筋は一つではなく無数の可能性にあふれていることが見えてくる。 浪人がなんだ、留年がなんだ。
「何かをするには目標を立てればいい」 ということは会社でも散々言われていますが、肝心なのは「期限を決めること」かもしれません。今日もできなかった、明日もできなかった、という事実を重ねていけば着実に老い行き、今際の際に「あらできなかったわね(口惜し、と見せかけて少し安心)」とニッコリ微笑んであの世に旅立つことができると思うので。 書きたい書きたいいつか書くもう書いた、など言い訳する自分にいい加減飽きたので、友人と「やろう」「書こう」「今週の目標は?」「記事一本上げる!」の約