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あちらを立てればこちらが立たず【齢83のばぁちゃん母と還暦間近娘のドタバタ生活(3)】

名前に「さん」付け
会話は全て敬語
これではまるで老人ホームの職員と入居さんと何ら変わらない
そんなことを思いながら、虚しく日々は過ぎていた

かと思えば、横の布団から
ぐっすりと眠っているはずの私に向かって
「そうやっていつまでも寝るんだね」
「お弁当屋さん来るけど、鍵しまったまんまで」
「良いわ良いわ、外に置きっぱなしにしてもらえばいいから」
「そのまま寝てなさい」

寝てらんねぇ〜

朝はとても忙しかった
夕食用のお弁当を朝チンして、食べられる状態にしなければならない
薬を飲む手伝い
洗い物
玄関の鍵開けて

体力さえあれば、なんてことは無い事なのは分かっているが
とにかく体力がない

ひぃじいちゃんに
「馬力馬つけなあかんと、米食いなっせ!」
と言われ、夜だけは自炊で何とか栄養を付けるべく献立を考えて作っていたが、それでも体力は消耗される

洗い物を終えて、また母の薬を飲む手伝い
そして歯磨きを見ていないと、何かが始まる
洗顔フォームを歯ブラシに付けたり
後片付けをせず部屋に戻ったり
タバコを吸う振りをして様子を見ていなければいけない

お昼も食べれるばっかりに準備をし
薬の世話
トイレへの誘導

私は朝ヨーグルトを食べるのがやっと
昼は元々食べないから良いとして

生活費を負担してもらっているからという後ろめたさからもある、贅沢は言えない

毎日のように朝のネチネチした言葉で起こされ
重い体を無理矢理起こして動く

私はいつになったら動かなくて良くなるのだろう

幼い頃から
「動け!」
「働け!」
と父から言われ続け、言われるがままに動き働いた
殴る蹴るの暴力と共に
母も何も言わなかった
今になってようやく気づく
二人の意見は同じだったのだと

母に手をかけられる日々が1ヶ月程経ったある日の朝
言われてすぐに起き上がれなく
やっとの思いで食事の準備をした
「もういらないって言ってるでしょ!!」
母はこの時点で怒り狂っていた
「お願いだから食べて……」
力なく言う私、朦朧とした意識の中で発する言葉に力は無い
そして食べ終わった母はこう言った
「まるで餌でも無理矢理詰め込まれたようで、こんな食べさせられかた、したくないわ!!」

思考さえ追いつかなくなってきた

気持ちを切り替えるために、買い出しへと車に乗った

買い出しに行っても何を買えばいいかも分からない
結局野菜ひとつだけ買って店を出た

そして向かったのはミニストップ
ここのソフトクリームが私のご褒美と決めている
大好きなエスプレッソと共に
車の中で頬ばった

丁度その日は私の好きな霊能者さんのLIVEの日だった

こっそり買っておいたチケットを遣い、メッセージを求めた
そこは優しい方ばかりが集まる大好きな場所
その鑑定は30分という時間を皆さんから奪ってしまって、本当に申し訳ないことをしたが
最後に言われた
「これは緊急メッセージです!!」
という言葉でハッとした

その夜は満月の日だった
(今しかない)
そう思った私は
「今日は満月だから、今日からあっちの部屋で寝るね」
と言い、あっという間に布団を移動させた
その夜ぐっすり眠り、朝も気付いたら昼近かった

慌ててキッチンに行くと
お弁当箱も綺麗に洗って定位置まで運んであった

出来るんじゃん!!

そこにトイレから這って戻ってきた母と遭遇
第一声
「また寝るんでしょ、ゆっくりして下さい」
たった一晩で母は悟ったようだった

悟れていなかったのは私の方だったのだ

長い人生の中で大変なことが多かった母
寂しい思いをさせた攻めてもの償いと思い
世話をしすぎ
母の力を奪っていたのは私だったのだ

あの時背中を押されていなかったら
今の私たちはいない

今日も起きていったら
「ゆっくりしな」

最近敬語ではなくなったことが、更に私を癒してくれる


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