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その意志は本物なのか。

ドイツ文学における有名作家の一人、ヘルマン・ヘッセの小説『デミアン』の中で印象深い台詞があったので、ここで紹介させてもらおうと思います。

“自分はどうしても北極に行きたいんだ、というようなことを頭に描くことはできる。しかし、実行したり、十分に強く欲したりすることのできるのは、その願いが完全にぼく自身のうちにある場合、実際にぼくというものが完全にその願いに満たされている場合に限るのだ。そういう場合になってきて、きみが自分の内から命令されることを試みる段取りになれば、きみは自分の意志をよい馬のように駆使することができる。”


これは題名にもなっている「デミアン」という名の少年が主人公に言った台詞ですが、これを読んで私はハッとしました。

そうか、私たちが求めるものに向かって実行することができるのは、「あれを手に入れたい」という意志が、本当に強く自分自身の中にある時に限るのか。

そう思うと、なんだか色々なことが腑に落ちてくる気がします。


私は、人並みにではありますが、それなりの興味や関心、欲望というものを持っています。

少し例をあげると、世界を一周してみたい、自作の小説を書いてみたい、猫を飼いたい、漫画を描きたい、ヨガを習ってみたい…等々。
北極に行ってシロクマを見てみたい、とも思います。


だけど、果たしてそれらが全て完全に自分自身の中にあるものなのか、そして、実際に自分が完全にその願いに満たされているのかと聞かれると、正直その答えは微妙です。

実際のところは、それらはあくまでただ軽い気持ちでぱっと思い描かれただけの願望に過ぎなくて、本当は、自分の中にある真の意志なんかじゃないのかもしれない。
だって強い意志というのは、きっと「絶対にそれを手に入れねばならない」という、自分自身への命令を伴うものだから。

その命令に導かれると、私たちは時にすさまじい力を発揮して、目的の場所に到達することができたりします。

本気で何か一つのことを意志して、その強い引力を乗りこなしたら、力強い馬が障害物を飛び越えて風を切りながら駆けていくように、求めるものを手に入れるまで全力で疾走することができるんです。

その力が腹の底からわき出てこないなら、その欲望に関して何の命令も感じないなら、その欲望はもしかしたら、本当に自分の中にある意志ではないのかもしれません。


私は、やりたいことばかりが多くてそれらを全然実行できない自分のことを、情けないなとよく思っていました。
自分は夢を追う自信がない、弱虫で口先だけの人間だと。

確かにそれは一部分では当たっているかもしれない。
でももしかしたら、そもそも私が自分の意志だと思っているものが、実は本物の意志じゃないということもあるのかもしれません。

それは、自分自分を突き動かすような力を持たない、ニセモノの意志なのかもしれない。


私の主観ですが、今の世の中って、わりと安易に「自分もこれやってみたいな」と思うような機会が多いような気がします。

TwitterやYouTubeなどを見ていると立派で面白い人が山ほどいるし、noteでも、たくさんの人が多様なことに熱中しているのがどんどん目に入ってくる。
だからついついそれに刺激されて、今の自分との違いに焦って、「自分もやってみたい」と簡単に思ってしまうんです。

でもそれは、本当に自分が、本気で意志しているものなのでしょうか。
その意志は自分に、目標に辿り着くまで帰ってくるなと、命令するのでしょうか。

私の場合は、そこまで強い力を持っているかどうかは怪しいんじゃないかと思います。
先ほど「世界を一周してみたい」と言いましたが、それはただ漠然と思っているだけで、何としてでも果たさなくてはならないという切迫した気持ちを伴うものではありません。

それはつまり、その意志が本物でないことの証なのではないでしょうか。



たくさんの道を知ることそれ自体は、決して悪いことではないと思います。
だけど、おびただしい情報と誘惑、その中でめぐるめく欲求の中で、自分が本当に意志しているものは何なのか、それを見極めるのも大事なんじゃないかと私は思います。

上で紹介したデミアンの台詞を読んで、その目標の実現を必然化するような「本物の」意志は、自分がそれに芯からどっぷり満たされるようなものじゃなければならないんだと、強く感じました。


思い返してみると、本当に手に入れたいもののためなら、気がついた時にはもう行動を起こしているということも多いように感じますね。
遠くまで足を運んだり、時間を無理矢理にでも作ったり。
そういう行動を自然と取ることができるというのが、その意志が本物であることの証拠なのかもしれません。

そんな意志の前では、やるかやらないかという選択は消え失せます。その意志の赴くままに動けば、いつの間にか歩を進めている。
本物の意志って、そういうものなのかもしれないですね。



『デミアン』は、信心深い両親の元で育った主人公が、外から匂い立ってくる「別の世界」の気配に興味をそそられながら、自分がそれまでいた明るい世界と、それとは違う世界の間で揺れ動くというようなお話です。

私は素人ですが、それでもなんだかドイツ文学らしさ(?)がよく出ている作品だと思うので、良かったら読んでみてくださいね。(*´-`)



読んでくださり、ありがとうございました✨




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