ほんのひび 8

 「なんで〈ごーすと〉なんですか」と訊かれることが多い。
 「固定の場所を持ってるわけじゃなくて、消えたり現れたり、あちこちで出店してるから〈ごーすと〉っていうことなんですか」と先回りしてくれる場合も少なくない。

 これに関しては、まず、ごーすと書房という屋号が昨日今日に生まれたものではないというのが1つ(一箱古本市に必要な屋号として、2年ぐらい前に設定した)。

 それだけだと、どうしてごーすとかという質問に戻ってしまうから、もう一歩踏み込むと、十数年前からFC2に開設しているブログのハンドルネームが〈ごーすとぼーい〉だということが1つ。

 そうすると、じゃあ〈ごーすとぼーい〉の由来はなんなんだと質問が積み重なってしまうので、中学生の頃から二十代半ばまでの間に自分が書いていた長編ファンタジー小説の登場人物の名前だということが1つ。

 そして、どうしてそのキャラクターになぞらえたのかと言えば、ブログを始めた頃に、自分は幽霊のような存在だと感じていたのが1つ。

 こうして遡ると、だんだんと中二病のような理由付けになってしまっていくのはさておき、何事も一言で訳を説明するのは無理な話なんじゃないかと、分かったような顔でひとり、頷きたくなる。

 ただ、何処にも属していない自分というのは、編集プロダクションと出版社の社員だったときから、折々に感じていたことだった。
 編集部の人間だから編集しかしない、営業や事務をしない、それ以外の仕事や役割には立ち入らないというスタンスには賛同できなかった。もっと自由に立ち回って、やろうと思ったことには手を伸ばして、気がついたら其処にもいた、という立場を保っていたかった。
 まあまあ所属先を解雇されたら本当の意味で「何処にでもいるし、何処にもいない、出版業界の遊軍」になったわけで、それ自体はなんの因果なのかと来た道を振り返りたくもなる。

 いつから自分がごーすとだったのか、それがブログを始めた頃か、自由に動き回っていた社員のときからか、個人事業主になった日からなのか、正直分からない。
 何はともあれ齢を重ねていくほどに、誰かのようになりたいとか、何者かになりたいとか、憧れや目標みたいなものがなくなっていった。
 その裏側には、めざしたい姿を確立する前に、人生のあらゆるしがらみが地中深くから湧き上がってきて、その解決とスムーズなバトンが役割になったこともある。ごーすととしてふらふらしながら、20年、30年、40年先の出版業界・本屋業界のことだったり、自分の家族や子どものことを考えたりしていくのがミッションなんだと、自然かつ強制的に言い聞かせたからだ。
 そのためにはもう、極端に若くもない自分に、無理はできない。できないこともやれない。倒れずに続けていくための道を均していくことが、第一に考えるべきことになった。

 さて、本当の意味で幽霊になるまでには、半分以上の人生が残っている。
 それまでは、もう少しどころか全然まだまだ、ごーすとはそこらじゅうを漂い続けて、今日も不意に誰かの隣に立って本棚を眺めたり、本を売ったりしているかもしれない。


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