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【読書感想文】よしもとばななさんの「サウスポイント」:ハワイの輝きは太陽だけではなかった

先日、ハワイ島の最南端のサウスポイントというところのご紹介をした。

そこでつながった三昧堂さんの投稿で、吉本ばななさんが「サウスポイント」というタイトルの本を出していることを知り、早速、AmazonでポチしてKindleで読んだ。サウスポイントがどのように表現されているか早く読みたい気持ちも強かったが、何より破天荒な登場人物たちや物語の意外な展開に本を置くことができず、あっという間に読んでしまった。

あらすじ

(少しだけネタバレあります)

複雑な家庭環境で育った12歳のテトラと珠彦は、席替えで隣になったことがきっかけとなり特別な友情と愛情を育んでいく。しかし珠彦がハワイ島へ引っ越してしまいやがてその繋がりが途絶える。十数年後のある日、テトラはスーパーマーケットで流れてきたハワイアンの歌に惹きつけられる。CDをたどって歌い手に連絡を取ると、それは珠彦の弟、幸彦であった。やがてテトラは幸彦の住むハワイ島へ向かう。幸彦がテトラを最初に連れて行った場所はサウスポイントだった。

この後、物語は大きく展開していくがそれは本書を読んでほしい。最初はテトラの現在と子供時代の回想が交互に描かれる。彼女の子供時代は家庭環境が不安定で辛い状況であるにもかかわらず語り口は淡々としていて、それが返って危うい落ち着かなさを掻き立てられた。トラウマを専門にしているという仕事柄、無意識に押しやられた苦しみや悲しみを過度に想像してしまうからかもしれない。

ところがテトラがハワイ島に着いてから、彼女の語りに血が通っていくように感じられ、光や色が戻ってくるような印象を持った。ハワイ島にはそういう力があるのかもしれない。

ちなみに物語で重要な場所となるサウスポイントをばななさんは、私と同じように「この世の果て」「世界の果て」と表現していてちょっと嬉しかった。まあ、あそこに行ったら誰でも、この世の果てにいるように感じるのだろうけど。

物語の感想もまだ色々書きたいが長くなってしまうので、今回は物語からやや離れて私の心を特にとらえたところについて取り上げたい。

目の中にあるまっすぐできれいな輝き


あとがきでばななさんがハワイ島を愛していること、そしてフラを学んでいることが明かされる。ハワイ島を選んでフラも習い始めた私としてはとても嬉しい。物語の中でもハワイへの愛と尊敬、そして観察眼が随所に感じられ、それが言葉で巧みに表現されていて感心した。

物語の最後の方でサウスポイントという場所についての記述は、私もその場所に何度か行ったことがあるだけに、それがありありと思い出されるうえに、ばななさんに見えている次元も重なって圧倒されるほどだった。

それも含めて紹介したいところはたくさんあるが、次の文章が今の私の心をとらえた。幸彦と東京で会ったテトラが彼の目を見た時のことだ。

サングラスの下の彼の目は真剣だった。その目の中にまっすぐで単純できれいなものがたくさん入っていた。これこそがハワイだ、と感じた。ハワイの人はきっとこう言う目をしているものなんだと思った。日本の人たちがすっかり失った種類の、普通に人と分かち合うことをしている人の持っている輝きだった。

私は唸ってしまった。私が何となく感じていてでも言葉にしきれないことを、こんなに分かりやすく的確な言葉で表現してくれていることに。

よく外から来た私たちは「ハワイの人は親切だ」「アロハの精神がある」という。本当にそうなのだけど、その分かち合いのスピリットは、実際にマグロの頭をもらったり(下の記事)、ローカルだけが知っているお得情報を教えてくれる時だけでなく、笑顔、声のトーン、笑い声、車から挨拶する時の手の動きなど、普段の何気ないやりとりに散りばめられていると感じる。

先日、夫とお気に入りのタイ料理の店に行ったのだが、ほとんどが白人の客の中にハワイアンらしき二人の男性がいた。私の後ろに座っていたので二人の様子は見えなかったが、彼らが一緒にいることを心から楽しんでいるような声の調子やリズムに私まで幸せな気持ちになった。

それは彼らがよく笑っていたからだけではない。声の中に漂う甘やかさのようなものを感じたのだ。ただそれは恋人同士の甘さともまた違うものだ。このような声の調子は他の席からも、そして夫と私の席からも聞こえてこなかった。

そういえばこの声のトーンを他のところでも聞いたことがある。それは沖縄だ。その体験はまた別の記事で書きたいが、日本に移住するなら沖縄に住みたいと思っている私は、二つの文化に共通するものを感じているのだと思う。でもそれをうまく言葉にできなかった。

この一節を読んで、私は「普通に人と分かち合うことをしている」場所を求めていたのかと深く納得した。ハワイに住んでいるからフラも上手くなりたいが、一番望んでいるのは「普通に人と分かち合う」力を取り戻して、目にこの特別な輝きが宿り、声音に甘やかさが加わることかもしれない。





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