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マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』にて

この著者が説く暗黙知は、境界に出入りする潜在的な知です。

この書物からは、言語のあり方に触れるところを救っておきます。

さらに実例を挙げて、もっと詳しく検討してみよう。その実例とは、言語行動スピーチである。それは五つのレベルを含んでいる。すなわち、(1)声を出す。(2)言葉を選ぶ。(3)文を作る。(4)文体を案出する。(5)文学作品を創出する。それぞれのレベルはそれぞれ自らの規則に従属している。すなわち、それぞれ以下のものに規定されているのだ。(1)音声学、(2)辞書学、(3)文法、(4)文体論、(5)文芸批評。この五つのレベルは包括的存在の階層ハイアラーキを形成する。なぜなら各レベルの原理は、自分のすぐ上のレベルに制御されて機能するからだ。発せられた声は語彙によって単語へと形作られる。語彙は文法に従って文へと形作られる。そして文は文体へと整えられて、ついには文学的観念を持つようになる。かくして、それぞれのレベルは二重の制御の下に置かれることになる。第一に、各レベルの諸要素それ自体に適用される規則によって。第二に、諸要素によって形成される包括的存在を制御する規則によって。
したがって、より高位層の活動を、そのすぐ下位層に当たる諸要素を統括する規則によっては、説明できない。音声学から語彙を導くことは不可能なのだ。同様に、語彙から文法を導くことはできないし、文法が正しいからといって良い文体が出来上がるわけでもない。また、良い文体が文章の内容を授けてくれるわけでもない。そこで、暗黙知の二つの条件を実在リアリティの二つのレベルと同一視したときに私が述べたことを確認する意味で、きわめて一般的=概念的な表現になってしまうが、次のように結論できよう。個々の諸要素を統括する規則によって、より高位層の組織原理を表すことはできない。――pp.66-67
上位レベルの組織原理によって下位レベルの諸要素に及ぼされる制御コントロールを、「境界制御の原理」と呼んでもよかろう。
この境界原理は、私が人間的行動の階層について述べたとき、すでに見出すことのできたものである。言語行動スピーチを構成する階層をモデルにして考えると、継起的に作用する諸原理が、すぐ下のレベルで未決定なままの境界を制御している仕組みが見える。言語行動の中でもっとも低いレベルに当たる「発声」は、音を組み合わせて「単語」にする行為を概ね未決定オープンにしている。それはすぐ上のレベルに当たる「語彙」によって制御されているのだ。次に、語彙は、単語を組み合わせて「文」にする行為を概ね未決定にしている。それは「文法」によって制御されているのだ。以下、同様のことが繰り返される。さらに、非生命界の法則がおよそあらゆる機械の実用性を制限するのとちょうど同じように、各々の下位レベルは、それぞれすぐ上のレベルに制限を課す。他方で、すぐ下のレベルの活動が上位レベルの支配を免れると、その上位レベルは機能しなくなるだろう。たとえば、音がでたらめに氾濫すれば、単語は我を見失うだろうし、氾濫する単語の海に文は溺れてしまうだろうということだ。――pp.73-74

言語学者より上のレベルから探究しないと、言語意識はわからない。

以上、言語学的制約から自由になるために。