音楽/ミュージックコミュニケーションを学ぶいりぐちの9冊 ②「拡散する音楽」編
3回にわたって音楽/ミュージックコミュニケーションを学ぶいりぐちの9冊をお送りしています。前回はこちら→①「音楽とはなにか」編
②「拡散する音楽」編
私たちは音楽を学ぶときに、西洋音楽のソルフェージュをはじめ、それぞれの音楽の「型」や「作法」を学びます。また、資本主義社会において多くの音楽の流通は、ライブであれ録音であれ、メディアや社会の状況の変遷に沿った何かの「フォーマット」(例:コンサートホールやライブハウスなどでの上演、CDや配信や放送などのための録音)に落とし込むことで成立します。(その手法を学ぶための書籍紹介は別機会に譲ります)
でも、なんということでしょう! 実際の音楽/音は、その「型」や「フォーマット」を超えて遥か遠くまで拡散しているのです。人間の想像力は何かに収まりきることはありません。「拡散する音楽」編では、未知の音楽/聴衆に出会うための3冊をご紹介します。「拡散する音楽」への想像力を持つことで、むしろ枠組を再認識することにもなるでしょう。
ジョン・コルベット『フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き』工藤遥訳、カンパニー社、2019年
「フリー・インプロヴィゼーション」(即興音楽)の世界には、こぞって「型」(イディオム)から逸脱したがりが集まっています。これまでにない音響世界を日々生み出そうとしている人たちがいるのです。こうした音楽はレコード店では「その他」のコーナーに置かれ、インターネット上ではタグづけされずに追いやられているかもしれません。未知の音楽に出会ったら、ぜひ手にしてみてください。手取り足取り、基礎編はこんなポイントで語られています。
「わけのわからない音楽を聴くためにも「流儀」が必要なのか」と思われるかもしれませんが、この本はリラックスして安定したパルスから自分を解放するところから始まります。「そもそもなんのためにこんなことしているのか理解できない」「自分とは無縁」というところから、「ん?もしかしてなんか面白いかも?」になったらしめたもの。
柳沢英輔『フィールド・レコーディング入門ー響きのなかで世界と出会う』フィルムアート社、2022年
消費社会において、ミスやノイズは修正され、各楽器の音のバランスは整えられ、インパクトのある音量・音圧に増幅された音楽が流通しています。私たちはフェイクの世界を消費しているのかもしれません。世界のざわめきに耳を傾けることで、録音物のリアル/フェイク/フィクションを考えてみましょう。また、膨大な歴史と無数の空間において、録音されることのなかったの音楽/音の存在について思いを馳せてみましょう。
阿部万里江『ちんどん屋の響きー音が生み出す空間と社会的つながり』輪島裕介訳、世界思想社、2023年
雇い主の商売を宣伝するために雇われた楽士集団「ちんどん屋」。路地を歩き、聴き、音を出す日常の生業をする彼らのことを「音の哲学者であり路上の民族誌家」と著者は呼んでいます。雑踏での演奏を通じて、彼らは演奏能力だけではなく、さまざまな立場の人への想像力と聴力が鍛えられているようです。本書は彼らの実践を通して、響きの世界の広大さを伝えています。音楽は「私からあなたへ」なにか一本の線を通じてダイレクトに伝わるというものではないし、相手は送り手のメッセージを思いどおりに受け止めるとは限らないのです。音楽は、発信者の思った以上に遠くまで拡散されていく可能性を持っています。
音楽の送り手側になるとき(音楽を演奏したりコンサートを企画したりするとき)、ダイレクトに目に見えるもの(集客人数/アンケート結果/SNSの反応など)だけではなくて、未知の聴衆への想像力を持てるといいなと思います。
次回は③「音楽の器を考える」編をお届けします。
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