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「シンプルでやさしい、プロトタイピングのススメ」(前編:理論編)


こんにちは。スタートアップスタジオquantumのventure architectの森本智子です。ストーリーから選ぶ花束のD2CブランドF. [éf] の代表としても活動しています。


新規事業開発をする上で、アイデアコンセプトの需要性を検証したり、ポテンシャルカスタマーからフィードバックをもらうために、プロトタイプを作りたい。
でも、プロトタイプなんてどんなものを作ったらいいのか…
そもそもプロトタイプを作れるような高度な技術を持っていなくて…

新規事業開発の現場にいると、そんな声をしばしば耳にします。

あるいは、プロトタイプと言いつつも、ほぼローンチ時のプロダクト並みのシステム/デバイス開発をするイメージをしてしまう人も多いようです。

それって、検証したい何かを検証できるまでに、その”プロトタイプ”の開発だけで半年〜1年かかってしまいませんか?という事態です。


気持ちはわかります。

私自身、エンジニアでもデザイナーでもないので、quantumにジョインする前までは、プロトタイプを作るとなるとどこから手をつけたらいいのか、どこまでの物を作ればいいのか、なかなかイメージできませんでした。

そんな方々のお役に少しでも立てばと思い、この記事では、quantumのプロトタイプに関する考え方やアプローチについて書いていきたいと思います。


プロトタイプは何のために作るのか


プロトタイプは、もちろんアイデアを具現化して発案者やチームの中で手触り感のあるものでイメージをすり合わせる、という側面もありますが、それよりも重要なのはターゲットユーザーから意見をもらい、何かを検証するために作るものである、というシンプルで当たり前なことです。

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アイデアがまだ柔らかい段階であればまずはディテールがなくても大まかなコンセプトの需要性を検証することが大事ですし、アイデアが詰まってきて実装段階に入ってきたのであればより細かいポイントを検証する必要が出てきます。

そのため、アイデアの段階によって、どんなプロトタイプを作るべきかが変わってきます。

アイデアがまだ柔らかい段階であれば、これからアイデアが変わっていったり、pivotする可能性もあるので、大きなコストをかけて何かを作っても無駄に終わってしまう可能性が高いです。そのため、左上の象限は基本的に選択肢がありません。(もちろんやろうと思えばいくらでもコストをかけて何かを作れますが、大金をかけるべきではない、という考え方です)

一方で実装段階に入ってくれば、もう少しコストをかけてしっかり作っていきより細かい部分を検証する必要が出てくるので、右上の象限の方へと移行していきます。
とはいえ、アイデアが詰まってきたからと言ってどんどんコストをかけていいわけではなく、プロトタイプの基本的な考え方はどんなフェーズでも「できるだけ安く、できるだけ速く」です。そのため、基本的には右下の象限の、コストが低く実装段階にも合うものを上手く使って進めていきます。

もちろんアイデアがデバイスなのか、アプリなのか、webサービスなのか、そして、検証するポイントが何なのか、などによって作るべき形も異なりますが、上記の図のようなプロトタイプが例として挙げられると考えます。


0円で作るプロトタイプ

アイデアが柔らかい段階で検証するためのプロトタイプは、基本的に0円で作るのが良いと思っています。
0円で本当に作れるの?と思われるかもしれませんが、身体一つでできるもの、紙とペンがあればできるもの、パワポが使えれば作れるものなど、実は0円で作れるプロトタイプはいっぱいあります。

・コンセプトチラシプロト:パワーポイントやKeynoteでコンセプトの要点を表現します。アイデアコンセプト1〜2行に加え、特徴やユーザーにとってのメリットを3つほど書いてチラシのように仕立ててみましょう。あえて文字だけにする場合もありますが、それよりもより具体的なイメージをつけてもらうために文字と一緒にイメージビジュアルをつけたりします。
・イラストプロト:その名の通りイラストでコンセプトやカスマタージャーニーを表現します。コンセプトチラシだけだと伝わらない要素やありものの写真ではイメージがつきづらい新しいハードウェアなどを表現するのに便利です。紙とペンがあれば1時間もあれば作れます。絵がうまい必要は全くありません。棒人間でもなんでも、流れが伝わればいいのです。
・紙芝居プロト:イラストをさらに複数ページにしてより動きをつけたものです。体験の流れ、カスタマージャーニーをより具体的に伝える時に便利です。手書きのイラストでなくても、いらすとやなどのフリー素材を使ってもいいですし、適宜写真を交えてもいいです。
・段ボールプロト:特にハードウェアデバイスや、家や街など実際の空間・場所が絡んでくるときは段ボールで一度どんな大きさになるのか、またどんな配置で使うのかなどを作って試してみるのも手です。そこに人を配置したい場合はレゴブロックなどを活用するのもおすすめです。
・実演プロト:これは私自身もよくやります。まだアプリやデバイスがなかったとしても、仮にそれらがあってネットワークに繋がっていると仮定して、アプリやデバイスの動作の流れを実演してみます。アプリやデバイスに限らず、様々なものがこれでプロトタイピングできます。私は「The Founder」というマクドナルドの創業〜発展のストーリーを描いた映画が非常に好きなのですが、その中のワンシーンで、マクドナルド兄弟が今のマクドナルドチェーンの原型となった当時全く新しい店舗オペレーションを開発するのに、テニスコートに実店舗と同じ大きさで重機の配置などの図面をチョークで描いて、そこで10人ほどの従業員を実際に動かしてみて(従業員は空中でハンバーガーを作る作業のシミュレーションをします)最も効率的なオペレーションを確立した、というシーンがあります。ぜひ観ていただきたいです。店舗を作って物を置いてみなくてもこうやって0円で最も大事なことが検証できる、という素晴らしい例です。
・動画プロト:実演プロトをスマホなどで録画して、動画編集ソフトで編集するものです。これをvimeoやYouTubeにアップし、オンラインインタビューの際にインタビュイーにそのリンクを送って観てもらい、意見をいただく、といったことをquantumでもしてきました。Adobe Premiere Proなど有料の動画ツールを使った方がやれる幅は広がりますが、MacやiPhoneにプリセットで入っているiMovieでもプロトタイプとして十分なものが作れます。また、iMovieもちょっと難しそう・・・という方には、パワポやKeynoteを使った裏技も後述しますのでぜひ最後までお付き合いください!

また、Webサイトプロトとアプリ画面遷移図プロトは多少ツールにお金がかかる部分がある意味で右下にラインナップしていますが、ツールを選べば0円で作ることも可能です。

・Webサイトプロト:ECなのであればShopifyやBASE、Storesなどで低価格で実装することもできますが、検証段階ではランディングページ的な1ページもののサイトで十分です。その場合、Wixであれば無料のプランがあるので0円でLPを作ることができます。Wixで作ったLPにLINE@のQRコードを載せてそこから実証実験の顧客とのコミュニケーションにつなげる、といったテストもしたことがあります。
・アプリ画面遷移図プロト:Adobe XDやsketch、InVision、Figmaなどが代表的なUIデザインツールで、デザイナーも使うプロ仕様のツールですがデザイナーでない方でも少し慣れればパワポのような感覚で簡単に使うことができます。無料のトライアル期間があるものもありますが、基本的には有料なので、もし完全に0円でやるのであればパワーポイントやKeynoteで十分伝わるものは作れます。アイデアが柔らかい段階では一旦パワーポイントやKeynoteでUIイメージを作ってみて、ある程度アイデアが固まった段階で上記のツールを使ってしっかりデザインしていきましょう。


実際に0円プロトを作ってみた

今回、この記事を書くにあたってやっぱり具体的にプロトの実例があった方がわかりやすいと思い、quantumのメンバーと一緒に参考となる0円プロトを作ってみました!
参加メンバーは、venture architectの萩野格と中村泰輔、PRチームの木村俊介、尾形亜季、そして私の5名です。

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リモートワーク中のメンバーも交えてオフィスでブレスト中。


冒頭に申し上げた通り、プロトタイプは何かを検証するために作るものなのですが、上記のたくさんの種類の0円プロトの中のいくつかについて具体的なアウトプットのイメージと所要時間をお見せできればと思い、今回は実際の検証の過程はさておき、プロトタイプを作るとこまでやってみることにしました。

be a founder.をビジョンとして掲げているだけあって、quantumのメンバーはこういう「やりましょう」のお誘いに嬉々として乗ってくれるのでありがたいです。もしかしたら普段の仕事以上に熱中してやっていたメンバーもいたかも…

記事がずいぶん長くなってしまったので、今回は「プロトタイプは0円でも作れる」らしいというところまでご理解いただいたことにして、

次回は、実際のプロトタイプ制作の過程と、出来上がったプロトタイプをお見せできればと思います。ぜひ、お楽しみに!


後編(実践編)はこちら


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<筆者プロフィール>
森本 智子 | Satoko Morimoto 

花束のD2Cブランド F. [éf]f-bouquet.com)のFounderと、スタートアップスタジオquantumのマネージャーを兼務。日々サービスデザインに携わっています。生け花(池坊)、フラワーデザイン、イラストレーション、旅行をするのが好きです。

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