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量子コンピュータの誇大広告

面白い記事を見つけました。
Quantum Computing Hype is Bad for Science: 量子コンピュータの誇大広告は科学に悪影響を及ぼす

hypeとは英語で誇大広告という意味です。

量子技術のコミュニティ、中でも大学院での研究現場にいる人間からすると非常に頷くことができる内容が多かったので、ご紹介いたします。

この文章の筆者は、量子技術の分野では有名なMaryland大学の研究者が執筆したものです。私も、Google scholarで研究業績を拝見しました。凝縮系物理(理論)の分野で非常に立派な研究業績をお持ちの方だと認識しています。

記事のハイライト

さて、簡単に記事のハイライトを載せておきます。(直訳を載せているわけではありません!!)

・政府や民間から多くの資金が「量子コンピュータ」スタートアップ界隈に流れている。量子技術の中には非常に有望な技術が存在している。しかし一方で、ほとんどのスタートアップの事業は合理的な考えや期待に基づかないものがほとんどである。
・アメリカが「量子」に積極的に投資しているのは、中国やEUに対抗しているためである。これは、G社やM社といったテック会社にも通ずることである。
・今日では、量子の誇大広告が乱立している。しかしながら、実際に量子コンピュータが古典コンピュータよりも優位であると分かっている問題は非常に限られている。
・量子技術に何の知見も持たない(シュレディンガー方程式が何なのかもわからない)人が、量子コンピュータについて語っている現状がある。

私の意見

基本的には、この筆者の主張には賛成しています。近頃の量子コンピュータ界隈における盛り上がり方は、はっきり言って加熱気味です。ほとんどの量子技術の研究者、特にハードウェアの研究をしている人ならだれしもが思っていることです。

現在の量子コンピュータでできることなんて、ほとんどありません。さらには、有益な問題を解くことができる良い量子アルゴリズムもほとんど見つかっていません。

ただ、今の現状が過熱気味なだけで、量子技術の中には、例えば量子センサのように、はっきりと古典よりも良いものができることが分かっている技術もあります。
量子コンピュータも、着実に技術は進んでいます。ただ、5年や10年で完成するものではなく、何十年という地道な道のりを歩む必要があります(もしかするとできないのかもしれませんが、、、)。

その開発の道のりを邪魔しないためにも、むやみやたらに量子を喧伝するよりかは、じっくりと研究開発に取り組める環境を整えるほうが、長い目で見た時に大きなリターンが返ってくるのではないでしょうか。