プレーンオムレツ占い
ほぼ毎朝、プレーンオムレツを作り、その出来具合で、その日いちにちの運勢を占ってます、という話。
結果は大失敗になるときも多々ある。見た目はプレーンオムレツとスクランブルエッグの中間、これは何の料理?と問われるとほとんどの人はスクランブルエッグ?と答えるであろうシロモノで、おおまけで20点。凶です。
なんだか落ち着かず集中してなかった。ちょっとイライラもしてた。今日は気を引き締めて、注意して、何かあってもやり過ごすようにしなさい、てな感じで自分を諭す。
でも、食べてみると味はちょうどいいトロ味、塩加減も良くスクランブルエッグとしては美味しい。見方を変えれば、角度を変えれば、駄目なものでも駄目じゃないのだ。
気を取り直して今日いちにちをがんばろう。
もともと、朝は目玉焼きを食べていたのだけど、なんとなくオムレツにしてみようかなと思い、オムレツ一択にして3か月が経つ。
今だにまともには作れない。経験が浅く難しい。作ったこともなかったのだが、よし、目指すはホテルの朝食で出てくるようなフライパンをトントンとやって作るあのフワトロオムレツだ!と、まずは鉄のフライパンを買った。形から入る。
初めはフライパンに油が馴染んでなくて、卵がフライパンにくっつく。こうなるとアウトで表面が滑らかなオムレツはできない。炒り卵で食べる。
YouTubeでけっこうな量の作り方動画を見た。
だいたいの手順は、卵2、3個をよく溶き混ぜ、フライパンを中火にかけてバターまたは油を入れ、一気に卵を流し入れる。フライパンを前後に激しく動かしながら、菜ばしで円を描くように超スピードで卵を混ぜる。ここでいかにきめ細かくできるか。半熟状態になったら、円形の卵を手前から折りたたんで半月状にしながらフライパンの奥側にポジショニング。
いよいよここからトントン。フライパンを上下に振りフライパンの柄を手首あたりでトン。卵がちょっと浮き上がって少し回転して着地、繰り返すときれいな両端を絞った筒形になる。木の葉型というのかな。ここで継ぎ目を下にひっくり返し少し焼いてくっつける。すぐにまたトントンして反転させてお皿に盛り付けて完成。
時間は1分もかからないのに手順がたくさんあって繊細。火加減も難しい。
、、、、これを作れるようになるのか?
YouTubeで見る動画は、プロの料理人や料理がすごく上手な人たち。当たり前だが、みんなスムーズにサクッと作ってしまう。彼らの腕を見せびらかされる。パッと見では分からないテクニック満載だ。どうです、こんなに簡単にできますよ、と言われてもね。
、、、ちょちょっと待て。こんなムズイ料理を家庭で普通に作っているのか?プレーンオムレツはフレンチオムレツとも言われるみたいだけれども、フランスの家庭ではこれを普通に作ってるのか?
French Omelet 英語でYouTube検索したら、大御所的な年配のシェフが同じように作ってる。菜ばしじゃなくフォークで。そうだよ、フランスで菜ばしは使わないだろう。やっぱ本場はフォークだよと、真似して、しばらくフォークで作ってた。でも、卵の撹乱具合、混ぜ具合は、菜ばしの方がやりやすい。よりきめ細かく仕上がる。菜ばしに戻した。
90年代の渋谷系ポップデュオ、フリッパーズ・ギターの、夏のバカンス的な曲「Summer Beauty 1990」の歌詞に、〜ひとりの日曜日 歯ブラシくわえて オムレツ焼いてた僕に 君は突然 YEAH!〜 という一節があるが、歯ブラシくわえながらなんてとてもできないよ!すごいな!と感心する。でも、もしかして、このオムレツはあのトントンオムレツとは違うのでは?もっと簡単に作れる一般向けがあるのか?と、またネットで調べる。
やはり、どうもフレンチ・オムレツにもいろいろあって、決してフレンチオムレツ = プレーンオムレツというわけではないらしい。
なんだって?!フランスの一般家庭で食されているものは、まるでスパニッシュ・オムレツみたいじゃないか。
試しにフレンチ・オムレツの仏語 omelette française で検索してみると、いろんなパターンがある。
トマトや玉ねぎ、チーズやバジルなど具材は自由、卵は半分にパタンと折りたたまれていたりする。二つ折りお好み焼きみたいなものかな。これなら、もしかしたら歯ブラシくわえながらでも作れるかもしれない。
プレーンオムレツは、クラシック・フレンチ・オムレツというそうだ。
フランスのシェフが作る動画を見てみると、
なんとなく手際がスマートには見えない。でも出来上がりはすごく美味しそう!
フワトロ・トントンオムレツは日本では調理師学校の実技試験になっていたりするらしく、調理レベルを見ると、これはオリジナルを凌駕しているのではないかと思われる。オリジナルを吸収したうえで、より洗練し、テクニックも難易度が上がっているように感じる。まるでフランスで生まれたアニメーションを輸入して高度な芸術作品、独自の文化に創り上げた日本のアニメのようだ。とにかく過剰に高度な感じが。
過剰に高度といえばカレーもそうだ。インドを植民地にしたイギリスが、インド料理を真似して、簡単に作れるように複数のスパイスをミックスしたカレー粉を製品化、それをシチューにぶっ込んだいわゆるカレーが、明治の西洋化で日本にもたらされた。そのカレーは全く驚くべき進化を遂げ、洗練された欧風カレーになり、世界に冠たる日本のソウルフード、カレーライス(Kare Rice)になった。
絶品カレーには工程ごとに細やかな調理テクニックが凝縮されているのだろう。長時間かけて作る飴色玉ねぎ、スパイスの配合・ロースト具合、スープストックやさまざまな隠し味など。なんというか、ブラッシュアップの高度さがとても日本的だと感じる。
プロの技を惜しげもなく披露しているKichikichi Omurice motokichiさんのYoutube動画のコメントに、珍しくご本人から返信があるな、と読んでみると、思わず感動して泣いてしまった。
「試験に受かる為のオムレツではなく、オムレツを本気で思ってあげてくださいね!お願いします」というメッセージに、料理への深い愛情や情熱、食材への敬意を感じたのだ。
その愛情、情熱、敬意が、はたからみると高度すぎるブラッシュアップや進化につながっているのではないだろうか。きめ細やかなテクニックは、研さんし続ける情熱があってのこと。アニメもカレーも同じで、たくさんの人たちの愛情、情熱、敬意が注がれて、今のような多種多様で高度に洗練されたものになった。
素人にはハードルが高くても、ここはやっぱり日本式だなと、毎日懲りずにプレーンオムレツを作り続ける。卵を返しやすく、トントンも必要ない耐熱シリコンヘラを使うのは不可。テフロン加工のフライパンも不可。これは一種のゲームで、今日の運勢を占うのだから、難易度を下げても面白くないし、毎日のように大吉ばかりじゃないでしょう、人生は。
うまく作れないのがデフォルトだから、運良くまあまあの出来になっても今日の運勢は大吉にしたりする。なるべく気分良く1日をスタートしたい。
◆オムレツを焼くときの気づきまとめ
・朝からバターはちょっと重い。米油で十分おいしい。
・卵2個に対して塩ひとつまみ1g弱
・卵と塩をよく混ぜて10分くらい置くと卵がサラサラになってトロッとした仕上がりになりやすいが弾力や風味は落ちる気がする。混ぜたらすぐ焼くほうが好み。
・卵が立ち止まらないで、ワチャワチャと踊っているイメージでかき混ぜる。
・弱火にする余裕は無い。火から離して調整。
・フライパンの端のカーブを利用して成形。
・時間をかけたら泥沼。表面の層に火が入りすぎて、錦糸卵をまとめて食べているような残念感。
いろいろと細かい話はさておき、
・今日いちにちが良い日でありますように、本気で願いを込めて、オムレツを焼く。
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