歯磨き

過去に歯医者さんに



「もっと丁寧にしっかり歯を磨いてください」



と言われたことがあるので、それからずっと先生の言うとおりに鏡の前で丁寧かつ真剣に歯磨きをしてきました。



誰が何と言おうと、歯を磨くときは先生の言葉の忠実な奴隷と化していました。



磨きづらい箇所は局部用のブラシを使って丁寧に磨いてましたし、それまで使ってなかった歯間ブラシも投入、GUMのナイトケアで口をくちゅくちゅするのだって取り入れました。



そうして完璧な歯磨きライフを心がけて過ごし、先日、定期検診で歯の状態を確認してもらおうと歯医者に訪れたのですが、



それはもう意気揚々としたものでした。



どんな病院でも訪れることって、少し気分がへこんだり緊張したりして伏し目になりがちですが、



その時の私は堂々の凱旋帰国を果たした金メダリストのような面持ちで病院の入り口をくぐったわけです。



かえってきたぞと。



あなたの教えを守り、きれいな歯を保ってきましたよと。



どうぞ、今の私の歯をごらんなさいと。



口の中で煌々と輝く歯の羅列を見て、先生はさぞ驚き狂うことでしょう。



そして「キレイな歯の参考例としてぜひあなたの歯の写真を当院で使わせていただきたいのですが」と尋ねてくるでしょう。



そう期待に胸をふくらませながら横になって先生に診てもらったところ、




「虫歯ありますね」




と聞こえたんです。でも虫歯なんて、そんなはずないので、聞き間違いかなと思って口開いたまま「え」と発したところ




「右の奥、虫歯あるんですよね」




とはっきりと聞きとりまして。それでパニックになるじゃないですか。だって自分では一番ありえないと思ってる言葉を浴びせられたんで。写真提供する気満々だったんで。笑顔の練習してたんで。

それで先生にはたたみかけられるように




「ちゃんと磨いてました?」




と疑惑の目を向けられまして、いやもうこれ以上ない奴隷中の奴隷、奴隷のパイオニアとして歯を清潔にする努力を続けてきました、と言いたかったのですが、口開いて器具ぶっこまれてる状態なので言いたいことも言えず、最終的に




「結構ひどいので神経抜くことになりますわ」




に対し「あい」とすんなり受け入れるかたちになりました。



病院を出る頃には誰よりも伏し目で落ち込んでいる自分がいましたよね。



改めて歯磨きの難しさを感じたことでした。



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