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法政大学の学生運動を取材しに行ったら、目の前で次々と逮捕者が出た話

「大学に行ったら学生運動をやりたい!」

 そう思っているヤツらは意外に多いのではなかろうか。だが、21世紀も10年あまりが過ぎた今、大学は就職予備校と姿を変え、かつての学生の特権を生かした自由な空間を創出する学生運動を体験できる場は、ほぼ存在しない。

 そうした状況下、学生の自由・自治を大学当局が奪い去ろうとする流れに抗して戦いが続くのが、東京は千代田区にある法政大学だ。少数派になりつつも、やむにやまれず戦い続ける彼ら。

 2013年4月25日のことである。その年度初めの一大イベントとなる「4・25法大解放総決起集会」が開催された。そこで見たのは「この大学の経営、大丈夫か?」と疑う光景であった。

 今回は、その一部始終を写真と共にお伝えする。

 春の法政大学。市ヶ谷キャンパスは外濠公園に面していて、のんびりとした光景が広がっている。だが、その光景とは裏腹に、この取材は緊張することこの上ない。

 なにせ、学生自治を壊滅させんとする法政大学当局と学生たちの戦いは激しく、これまでにのべ100名以上の逮捕者を出しているからだ。ノコノコ取材に行ったら、大学当局、国家権力、そして学生諸君からも「お前はなんなんだ」となるんじゃなかろうか。

 そう考えて、事前に、昨年も記事でお世話になった学生運動の主体を担うサークル組織「法政大学文化連盟」のOB恩田君に電話を。

「みんないるから大丈夫ですよ」

 という彼に「いや、一人でノコノコ行ったらなんかのスパイみたいじゃない」といったら、「まあ、そうですね~(納得)」だって。否定しろよ……。

 さて、当日である。飯田橋駅西口を出て大学の方へ歩いて行く。平日の昼時ということもあって飯を食いに出たサラリーマンやらで、外濠公園はのどかさがいっぱい。法政大学の正門前を除いては。

 正門は閉じられ、内側すなわち大学の中庭は完全に封鎖されて、大学の職員とガードマンだけ。中庭に通じる大学敷地内のセブンイレブンで、おにぎりでも買おうと入ってみたのだが、中庭に通じる通路は大学職員が並び完全封鎖されている。

 そして、正門の向かいの外濠公園。こちらは、制服の警察官と私服の公安警察がいっぱいだ。昼休みにベンチに座って弁当を食べようとしていたサラリーマンが「俺、ここにいていいんだっけ?」といた表情で、下を向いて弁当を食べている。

 そんな騒然とした空間が生まれる「原因」となっている学生運動の諸君はといえば、失礼だがそんなに数が多いわけではない。威圧感のせいか警察のほうが目立っている。

法政大学当局は、こうして集まる学生たちを「学外者」が騒いでいると喧伝する。すなわち「よその人間がウチの大学を利用して騒いでいる」というのだ。実際、集まっているのは法政大学の学生だけではない。

 主催である法政大学の学生で構成される「法政大学文化連盟」と、幾つかの大学から集まった個人。そして、警察当局が「過激派」と呼ぶ「中核派」の学生という雑多な構成である。つまり、確かに学外者もいるが、基本は自分のトコの学生である。

 ここに至る流れは複雑なのだが、ざっくりと説明すると、学生会館は24時間使用可能、出入りも自由で週末になると金のない学生が中にはで徹夜の宴会が当たり前という法政大学の文化を、大学当局が消滅させ、綺麗で勉強できるフツーの大学(ありていにいえば、学費を払うであろう親が、納得する大学)にすることを企図したことが発端だ。

 学生自治の旗の下で謳歌されてきた自由を、いきなり消滅させようとすれば、ほころびが出るのは当たり前。

 異論を唱える学生は退学か無期停学にして、とにかく追い出せば大丈夫と思ったのは、大学当局の誤算だろう。

 なにせ、毎年何人かは確実に学生運動をやりたくて大学に来るヤツ、ガードマンを使った過剰警備に反発して学生運動に目覚めるヤツがいるのだから(なお、ノンセクトである文化連盟とセクトである中核派が共同しているわけだが、新入生の獲得で揉めないのかと思ったら、ノリでうまく分配されるらしい)。

 ルポに戻ろう。12時40分、学内は昼休みの時間。今年度初の闘争は、昨年から文化連盟委員長に就任した武田君(無期停学処分中)のアジ演説で始まる。

アジ演説が始まった途端に、周囲は騒然とし始める。カメラ、ビデオカメラを手にした大学職員たちが門の内側から、公安警察は周囲を取り囲むように撮影を始めるのだ。

昼休みということもあってか、周囲には次第に野次馬も集まってくる。多くは、ケータイで撮影したり、黙って見ているのだが、中には「うるせ~」「お前ら、法大生じゃないだろ~」というヤジも。

 それだけならよいのだが、野次馬も撮影しておこうと筆者がカメラを向けたところ背を向けながら「おまわりさんにいうぞ~」だって。うん、大学生の学力低下はホントだよ。

と、居並ぶ公安警察はといえば、みんな手袋を着用して万全の体制。どう見ても、今日は誰かを「ご招待」の体制である。学生諸君は、それでも開き直っているのか、闘志を燃やしているのか、アジ演説は止まらない。

 制服の警察官は「ここでは集会はできません」と書かれた札を掲げて警告。門の内側では大学職員が「授業準備中なので静粛に」という札を。授業準備中に騒ぐなとは、意味不明である。

「ここでは集会はできません」と警察官が札を掲げて近寄る度に騒然となること数回。

武田君は「じゃ、打ち合わせ始めます~」と、あくまで集会ではなくトラメガで、打ち合わせをしているだけだという対応を。

 少々、硬派なアジ演説に、ちょっと飽き、写真もだいたい撮ったなあと思い、筆者は土手に座ってさっき買ったおにぎりを食べることに。

 と、思ったらいきなり警察側が動き始めた。塩むすび(セブンイレブンでは、これがもっとも美味いと思う)を半ば丸呑みし、喉につかえさせ窒息しながら駆けつける。

瞬く間にもみ合う中から、右に左に引きずられていくヤツがいる。何を撮影すべきか、戸惑うところだが、とにかく右の方へ引きずられていく学生に追いすがると、なんと本サイトにも登場したことのある齋藤郁真・全学連委員長ではないか。

決死の抵抗をする斎藤君だが多勢に無勢、最後は手足を抱えられて、まさに「ドナドナ」という言葉がよく似合うスタイルで警察車輌へと押し込められていった。

それで騒ぎは終わらなかった正門前では、さらに続々と逮捕者が出ていた。地面に押し倒され制圧されている学生はいるし、植え込みに頭から突っ込まされているヤツも(公務員が公然と公共の植木を破壊か?)。

 やたらと、熱くなって一人で暴れている公安警察もいて、抗議する学生側の支援者と一対一でもみ合っていたり。まさに、警察=国家の所有する暴力装置という状況が目の前で繰り広げられていくのである。

 心の中で「平常心、平常心」と唱えながら、極めて落ち着いて状況を写真におさめようと試みる筆者。連行される学生をベストポジション(扉の開いた護送用のマイクロバスのドアのとこ)でカメラを構え得ていれば、さすがに目立つのか、公安警察に「写真撮ってるんじゃねーよ」と、思い切り怒鳴られる。

「まあまあ、写真を撮ってるだけですから落ち着いて」

 と、(週末にデートの予定もあるので)逮捕は勘弁な筆者は、冷静を装いながら切り返すが、追い出されてしまう。マイクロバスの助手席を見ると、私服の超萌えっ娘な風味の女性警官が。思わずシャッターを切れば、汚いものでもみるような目をされながら、顔を隠されてしまった。

かくて、10数分余りの間に瞬く間に5人が連行されてしまったのである。トラメガも持って行かれたりして、随分と人数が減ってしまた雰囲気になってしまった。

予定通りデモは行われ市ヶ谷周辺には怒りの声がこだましたのであった。

一部の報道では警察発表を引用する形で「無許可の集会(あるいはデモ)を行い逮捕」と報じられているのだが、現場で見ていた限りは、この程度で逮捕されてしまうのかと驚くばかりである。

 かつての、法政大学は、夜中に中庭で学生がたき火していたりするのも当たり前。大学職員も「あんまり騒がないようにね」と注意して(近所に病院がある)、たき火には目もくれずに帰ったりと牧歌的な風景が広がっていたのだが、随分と変わってしまったものだ。

 文化連盟の主張に賛同するかはともかくとしても、この大学は酷いと思っている人は学内学外を問わず多いのではなかろうか。

 学生運動がイヤとか、個人的な意思は尊重されてしかるべきだ。だが、学生運動や学生自治がまったく存在しない大学って、弱者の味方を装ったアヤシゲなNPO団体とか、宗教の草刈り場になっている側面もある(タチが悪いところだと、教授自らシンパだったり)。

 もはや大学が就職予備校と化して、異質なものを排除するのが当たり前となっている。

 以前、某大学である催しが開催された際に教授自ら「不審者がいたら、警察を呼んでネ」と言い出したので、驚いたことがある(大学の自治をめぐる戦後史の重要な事件「ポポロ事件」の舞台だけに)。

 でも、それがフツーの感覚なわけで、入学してくる学生も、それを疑わない。その結果として、学生が免役のないままアヤシゲなものに取り込まれてしまうという、ゆがみが生じているのは間違いない。

 なお、この日、逮捕者は6名(昨年10月に法政大学に不法侵入された容疑で1名が現場で、もう1名が現場に来る途中に令状逮捕)に上ったが、現行犯とされた武田君・斎藤君ら4名は一泊で釈放となった。

 釈放された武田君は語る。

「一泊で釈放されたことは、この弾圧の不当性を明らかにしています。今回、大学当局は、集会に対して授業準備妨害とする札を示しました。これは、学生に対して授業を受ける以外なにもするなといっているに等しい。そんな札を出したことで大学はおかしいと気づく学生も多いのではないでしょうか。その点では勝利だったと思っています」

就職予備校と化した大学の中で彼らは、あえて異を唱えて活動している。あと20年も経てば「真の愛校心の持ち主」として表彰されるんじゃないか。

(初出:恒例、北朝鮮風大学の新入生歓迎祭? 春の法政大学解放総決起集会の一部始終 「日刊サイゾー」2013年5月7日掲載 http://www.cyzo.com/2013/05/post_13234.html)

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