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レビューとレポート「家船特集」  資料に見る「家船」の進捗状況 ~リサーチ組LINE編~

構成=平間貴大

瀬戸内国際芸術祭(以下瀬戸芸)2019に出展された作品「家船」は様々な作家・協力者によって共同制作された。この作品は参加人数が多く、作品構造もかなり複雑だ。作家たちは会議や制作の日程をLINEを通して情報共有していた。
これまで「レビューとレポート「家船特集」  資料に見る家船の進捗状況 ~船大工編~」(https://note.com/qqwertyupoiu/n/n67ad85bdc3c2)、レビューとレポート「家船特集」  資料に見る「家船」の進捗状況 ~家船LINE編~(https://note.com/qqwertyupoiu/n/nb5a4437b2ccd)と、LINEグループごとに履歴を遡りながら年表作りのように記事を作成してきた。今回は「リサーチ組」を見ていこう。

このグループは2019年1月28日に開始された。メンバーは荒木佑介、伊藤允彦、KOURYOU、柳生忠平、シゲル・マツモトの5名。初対面のメンバーもいるので、はじめに簡単な自己紹介から始まった。

KOURYOU(家船の船長・呼びかけ人)
荒木佑介(リサーチ組のリーダー。家船には調査をメインとして参加している。)
伊藤允彦(今回は荒木のサポート役として調査に関わる。専門分野は地形や災害、都市計画や土木。)
柳生忠平(小豆島の妖怪美術館館長。民俗学的観点から妖怪を研究している。幼少の頃から妖怪に会いたいと思って絵を描き始めた。)
シゲル・マツモト(報告会などの日程や資料制作、ドキュメントの共有、全体の作家情報の管理などを担当している。)

2019年1月28日

KOURYOUが柳生に漁師の神棚について何か知っていることがあれば共有してほしいと提案。主に複数の神々が祀られるようになった神棚の起源について知りたいとの事。

荒木が書籍『瀬戸内海歴史民族資料館総合案内』で参考になる箇所の画像を共有。漁師の暮らしでは大漁をもたらす恵比寿様、網に宿る大玉様、海の安全を守る竜神様、危険を知らせてくれる船霊様など、あらゆる場面に神様が存在していると解説した。

柳生は荒木が画像共有した形体の神棚を見たのは初めてだが、身内に漁師がいるので聞いてみると報告。小豆島の漁師も恵比寿様を祀っていて、毎年お祭りをしている事と、柳生の実家のある村は漁師も多いので、そこから情報を得る事ができるかもしれないと知らせた。加えて船霊様については伊吹島の漁師から話を聞いた記憶があるという事と、小豆島の漁師が金比羅さんにお参りに行けないときに、仲間の漁師に代わりに行ってもらうために託した大きめの木の札があるので、見せる事も出来ると伝えた。

このやりとりを見てKOURYOUは「このリサーチ組は最強な気がしてきました」とコメント。俄然やる気が出てきたようだ。

2019年1月29日

荒木が複数の神が祀られる神棚の画像を共有した。この時点で荒木が気になっているのは、この神々がすべて海にまつわる神なのかどうかだ。島では土砂災害も多いので、山の神もいるのではないかと予想している。柳生は「怒られるかもしれませんが、(この神棚は)なんかめちゃくちゃかっこいい」とコメント。

この神棚をモチーフにして「家船」で作品を展開しようと考えているKOURYOUは、一つ屋根の下に複数の神が祀られるという魅力的な形をこのまま採用するのか、それともこの形式を元に違う組み立て方にするのかを悩んでいた。最終的な判断は今後のリサーチを参考に考えたいとメンバーに伝えた。さらに、3月頭には地図の絵の制作に取りかかりたいので、それまでにリサーチの結果を知らせて欲しいと付け加えた。

シゲルがリサーチ組で一度中間報告会を開き、KOURYOUに継続調査が必要かどうかを判断してもらい、その後はKOURYOUが女木島から帰ってきた2月中旬以降にもう一度会を開きたいと提案した。山本の作品「紫雲丸」は神棚の形に影響するので、一度早めに他の神様について知っておきたいというのが理由だ。

KOURYOUは大阪の住吉大社に31日に日帰りで向かいリサーチを行うことを決定した。

柳生は30日からリサーチを開始する。地元の村をはじめ知り合いの漁師たちに話を聞く。

荒木は漁師たちの神棚について、祈りは最終手段であり、その神が多いということは海上生活は穏やかではない過酷なものだったのだろうと推測した。


1月30日

リサーチ組の現地調査は2月におこなう1度のみの予定だったが、KOURYOUは「もう1回くらい追加してほしくなると思う」とコメントした。KOURYOUは2月15日から末まで女木島に滞在する。


1月31日

大阪でのリサーチを終えたKOURYOUは「ボリュームがありすぎてまとめられないですが面白かったです」とコメント。大阪でKOURYOUを案内した観光家の陸奥賢は神棚について「移動する民なので神も移動により増えていった」と推測した。

荒木も近い見解で、「祀られている神はおそらくどの神もが周辺陸地で発生したもので、多くの神様が島で合流してきたのではないか」とコメントした。

柳生は17時の段階で4件の取材を行ったが、成果はなかった。今の漁師たちは普通の神棚を祀っているところが多いようだ。

「家船」の参加作家のスケジュールをまとめたGoogleドキュメントをシゲルが制作。このドキュメントは家船ラインでも共有された。このドキュメントには報告会や神棚の説明なども記入してある。


2月1日

KOURYOUがアルバム「大阪の住吉大社」を共有した。

神棚の情報について中間報告会。荒木、伊藤共に大きな進展は無し。KOURYOUは「家船」に祀る作品としての神棚は、その都度新しい神様を横に取り付けられる形体にするのが良いのではないかとコメント。


2月2日

KOURYOUは「家船」の神棚に祀る神を、実物の漁師の神棚に祀られている神に限定せずに地域を広げても良いのではないか、との見解を示した。すでに神のリストを制作していた荒木は20程度の神々の提案を共有した。


2月5日

荒木は神棚について瀬戸内歴史民俗資料館へメールし、「なぜ横長になったのか」「扉の中には何が収められているのか」等いくつかの質問をした。


2月6日

17日の19時から品川で報告会を開くことが決定。


2月13日

荒木が神棚に関する詳細な資料を共有した。貴重な資料だ。


2月16日

シゲルがフィリピンの神話についていくつかのウェブサイトのリンクを貼った。フィリピンは海と空が戦った結果出来たらしい。さらに話はインドネシアの呪術にまで及んで、シゲルの知っている範囲でも知り合いの女子高生が呪われているなど具体的な話題も上がった。

家船の信仰は細かく分けると大変な数に及び、これを絵画史と結びつけようという動きも「家船」の中で出てきている。しかし大国様と大国主のようにつなげて考えられるものはつなげていかないと際限がなくなってしまうのではないかとKOURYOUはコメントした。


2月17日

報告会当日。予定通り19時から品川で開催。荒木、伊藤、柳生、柳本、KOURYOUが参加。柳生が調査した結果の資料をまとめ、プリントして持参した。
このプリントや報告会の細かな内容は「家船LINE」で全員に共有された。

柳生のまとめた資料は、「赤坂民族資料館」という小豆島に住む井口三四二氏が小豆島の人々の民具を20年かけ集めた資料館の画像がまとめてあり、木造船や、金毘羅護摩札、神棚、戎まわしについての豊富な資料画像や、御座船についての詳細がまとめられたものである。


2月18日

荒木が志々島の映像を共有。
KOURYOUが瀬戸芸公式ガイドブックに掲載される「家船」のコンセプト文と参加作家一覧を柳生に送った。


2月20日

荒木が女木島の西浦にある漁師の家が「家船の末裔だとしたらアツい」と2枚の画像を共有した。伊藤は「他島の廃屋ともテイストが異なる。自然物と人工物を等価に扱っている。生存空間をつくる手つきである。」とコメントした。


2月26日

20時頃、伊藤が瀬戸内海諸島の災害地図の画像を共有した。この画像には地すべりの分布図や土砂災害警戒区域が含まれている。KOURYOUはこの地図はとても重要なので「家船LINE」でも共有してほしいと頼んだ。

23時頃、伊藤が「家船」に使用するちゃぶ台を発送したと連絡。梱包に手惑い、足と天板を別々に発送した。ジモティーという個人取引のサイトで購入したので領収書が無かったが、取引相手が偶然職場の先輩だったので領収書を書いてもらえるかもしれないとコメント。


2月27日

KOURYOUの女木島滞在は3月3日までの予定だが、5日まで伸ばすかもしれないという状況となった。


3月6日

2万年前の瀬戸内海の地形を伊藤が分析し共有した。直島、豊島、小豆島が一つの丘陵のようになっている。KOURYOUは地形をみながら「女木島は丘のふもとの草原ですかね?」と訊くと伊藤は「女木島の山々が丘になっていて、陸地と海が地続きであり、草原だったのだと思う」と答えた。

伊藤は翌日までに完成した瀬戸内海諸島の災害地図(A1)と2万年前の地形復元図(A3)を印刷してKOURYOUに郵送することを約束した。KOURYOUはこの地図を家船内部の作品に反映させる。


3月7日

KOURYOUが柳生に、神棚に祀る神の1体として閻魔大王を描いてほしいと依頼。柳生は「閻魔大王!描きます!」とコメント。

KOURYOUは4月6日から瀬戸芸2019の開会式まで滞在すると報告。

荒木は4月8日から滞在予定。

柳生は4月6日から8日の間に滞在予定。


3月8日

伊藤が約束の1日遅れで地図をKOURYOUに発送した。うっかり2万年前の地形復元図を入れ忘れてしまったので、元データを送ると約束。


3月28日

KOURYOUが柳生に「家船の台所に周辺の島々の特産品があれば理想的なので、小豆島のオリーブ油の小瓶などを持っていたら提供していただけませんか。」と依頼。


3月30日

柳生が閻魔大王の絵を完成させて画像を共有した。続けてシゲル、伊藤も完成図を送った。


3月31日

KOURYOUがアルバム「神様カード」を共有。


4月1日

伊藤が仁徳天皇陵の古墳周辺における水路の再現プランが出来そうだと報告。そこで採用する「古墳の周濠をため池とし、水路を造成していた」という説は異端であり、伊藤が描き入れる水路も創造の世界のものになると付け加えた。


4月5日

シゲルが「柳生さん、ゲットしました」と画像を2枚共有した。それは柳生が描いた「ぼくらのビックリマンシール」の「妖ゼウス」というキャラクターだった(http://bikkuri-man.mediagalaxy.ne.jp/bokuranobm/seal.html)。

裏面には

モノノケ操る妖怪漫画家 柳生忠平さん 作
「妖ゼウス」
理解も存在も想像超越した妖ゼウスは天界登り損ね地獄に落ちた雷の神の怪?地獄脱出すべく人間の聖気吸い尽くす!!

ぼくらのビックリマン(スーパーゼウス編)とは
ビックリマン熱狂世代のアーティストや本家絵師が一堂に集結し直感的閃きでスーパーゼウス24変化を創作したゾ!

と解説がある。

これを見たKOURYOUはシールを是非「家船」に展示したいと柳生に頼んだ。
このシールは東京を中心に関東方面のみで販売していた。関東に住む柳生の友人は店舗を探し回ったが見つからなかったらしい。


4月7日

伊藤がアルバム「仁徳天皇陵周辺の水路想定図」とノート「仁徳天皇陵周辺の用水路想定図作成に当たっての考え方」を共有。さらに件のビックリマンシールは静岡でも売っているという情報を入手し、探しているが見つからず、ネットで検索してみると一部製造ロットが自主回収の対象になっているという情報を得た。


4月9日

伊藤が13日、14日に「家船」会場に手伝いに行ける事になった。KOURYOUは「現場はすごい修羅場ですが、どん引かないで下さいね笑」と注意を喚起した。

4月12日

19日に柳生の女木島入りが決定。


4月23日

各メンバーの精算などが行われた。


5月17日

伊藤が「家船」内の各作品の破損許容度を記入する表を作成。


5月30日

荒木が資料映像を共有。

6月16日〜26日

六本木ストライプハウスギャラリーで「柳生忠平 妖怪絵圖」展(http://striped-house.com/201906g2.html)が開催される。


6月19日

荒木が柳生に質問。内容はいわき市で見つかり現在は三次もののけミュージアムに所蔵されている「妖怪立像」はいつ作られたのか、作られた目的は何か。柳生はコレクションを寄贈している湯本豪一とは知り合いで、この立像について話もしているとの事。柳生から直接連絡することになった。


6月27日

KOURYOUが荒木に「満洲の銀行の建築画像のサイトがあればURLを教えてほしい」と質問。


6月28日

この日は満洲の建築について様々なやりとりがあった。きっかけは荒木がKOURYOUに送った帝冠様式の建築物の画像だった。この画像を参考にKOURYOUが絵を描いていく。
建築に対して「いろんな要素をくっつけた感がなんとも言えない」と柳生がコメントすると、国内では愛知県庁がこの様式で作られていると荒木が答えた。この日愛知に宿泊していた柳生はその偶然に驚いた。
シゲルが参考としてWikipediaの大連中山広場近代建築群(https://ja.wikipedia.org/wiki/大連中山広場近代建築群)のページを共有した。


6月29日

昨日から現地で描き続けていた絵の完成図をKOURYOUが共有した。

KOURYOUは先日荒木が共有した西浦の漁師の家の持ち主に話を聞く事ができ、母屋のほかに海岸、山沿いの合計3軒が、この方の持ち家であることがわかった。


8月14日

6月19日に荒木が送った質問に湯本が答えてくれる事になった。後日連絡が来る予定。

柳生はこの日から開催されるフランス・ブルゴーニュ地方にあるノワイエという村のアートプログラムに参加。

荒木は湯本と直接電話でやりとりを行った。重要な情報はグーグルドキュメントにまとめて共有した。


2020年1月16日

荒木、伊藤、柳生が「レビューとレポート」に共同執筆することが決定した。(https://note.com/araki_yusuke/n/n641b6ba852d8)「両墓制と家船」、「島の土地と宗教」をメインテーマにする予定。現段階で各自の論考を共有し、そこから意見交換を進めて記事にしていくという方法を採る。


「レビューとレポート」 第13号 2020年6月
(パワードbyみそにこみおでん)


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