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ポスト・アポカリプス・スクール・ライフ 第一話

あらすじ

20××年。戦争や疫病、自然災害など様々な要因が重なり文明社会が崩壊してから数十年の時が流れた日本。

疫病や汚染から逃れた人々が生活の場としてきた”シェルター”の機能がついに停止して新たな居場所をを求めてスクラップをかき集めて改造したキャンピングカーであてどない旅に出ようとしていたヨーコ・カスミ・ヒナ・サーニャの4人の元にある場所に囚われ身動きが取れないという謎の人物”ジェーン・ドゥ”から送られた救難信号を頼りに文明崩壊後もAIによって管理維持されている廃校”イーデン学園”にやって来た。

本編

快晴の空の下、空襲の後も生々しい荒廃した街を1台のオフロード仕様に改造したキャンピングカーが走る。

ヨーコ「どこもかしこも瓦礫の山。シェルターを出てもう数か月、そろそろ補給がしてー」

肩口まで伸びた艶やかな黒髪に知性を宿した切れ長の目。怜悧な美貌が目を引くヨーコは苦い表情を浮かべながら煙草を咥えてジッポライターで火をつける。

ヒナ「あーあー、ここにも人はいないんだー」

ピッグテールの茶髪にくりくりとした大きな眼は如何にも好奇心が強そうな印象を見る者に与える。キャンピングカーの助手席の窓から上半身を乗り出して瓦礫の街を目を皿にして見渡す。

ヨーコ「こら、あんまり身を乗り出すな。危ねーぞ」

窓の外に煙草の煙を吐いたヨーコはヒナを注意する。

ヒナ「わっ!おとととっ!ごめんごめん」

道路に転がる瓦礫を轢いてキャンピングカーの車体が大きく揺れ、ヒナは慌てて助手席に上半身を引っ込める。

サーニャ「……ふふ、ヒナなら落っこちても受け身取れそう」

キャンピングカーの後部座席でくすんだ金髪をお下げにした赤縁眼鏡の小柄な少女サーシャが自作の携帯ゲーム機から目を離さずにサーニャがクスリと笑みをこぼす。

カスミ「あははっ!ヒナなら頭から突っ込んでも無傷かも」

頭頂部付近で結んだポニーテールにカモシカのようなしなやかな体つきのカスミはお腹を抱えてけらけらと笑っているのを見て、ヒナはむくれる。

ヒナ「ちょっと、ヒナをなんだと思ってんのさ」
ヨーコ「まぁ、ヒナは死んでも死ななさそうだもんな」
ヒナ「もぉ、みんなしてー!」

漫才をするうちにキャンピングカーは街を外れ、山奥へと入っていく。

ヒナ「ねぇねぇ、ヨーコ!”あれ”じゃないっ!」

ヒナが指さした先には廃校の校舎が見える。

ヨーコ「ん?あぁ。あれだ!救難信号が送られた”ガッコウ”ってのは」
サーシャ「ガッコウ……あれが」

サーシャがゲーム画面から目を離し、近代的な作りの三階建ての”ガッコウ”の校舎を食い入るように見る。

カスミ「予想よりもずっと綺麗。数年前まで使われてたって、本当だったんだ」

カスミも興味深そうに校舎を見上げる。

ヨーコ「”ジェーン・ドゥ”の話によると、水道もガスも生きてる。久しぶりにくつろげそうだな」
ヒナ「やったー!野宿はもうこりごり!」
サーシャ「最初は"わーい!毎日キャンプだー!"ってはしゃいでたのに流石に根を上げたか」

サーシャがヒナの声真似をするとカスミが大爆笑する。

カスミ「あはははははっ!でもヒナの気持ちもわかるな。本物のサッカーボールとかバスケットボールがあればいいな」

サーシャ「……学校には授業のために色々な機材や道具がある。楽しい宝探しになりそう」

常にポーカーフェイスのサーシャの口角がうっすらと上がる。

ヨーコ「学校の機材は好きに使っていいって話だから。ジェーン・ドゥを見つけるついでに楽しんでいいぞ」

ヨーコは意気揚々とハンドルをきり、廃校の校舎へと向かう。

学校の門の前でジェーン・ドゥから送られた認証コードで門を開け、学校の敷地内へと入る。

ヒナ「おぉぉー!近くで見るとでっか!」

はしゃぐヒナの隣でヨーコは顎を扱く。

ヨーコ「ロボットが定期的に補修してるって話だから。本当に昨日まで普通に使われていたみたいだな」

立派な校舎と整備された校庭に車内のテンションは最高潮に達する。

カスミ「さっそく校庭見てきていい?!街は瓦礫ばっかりでのびのび運動できなかったもん!」
サーシャ「冷房も生きてるんだよね?大分暑くなってきたしクーラーがガンガンに効いた教室でパソコン弄りたい」
ヒナ「調理実習室ってのがあるんだよね!期限切れ間近の保存食とか、この前仕留めた鹿の干し肉とかこの機会にぱーっと使っちゃおうよ」

ジェーン・ドゥ探索と言う目的そっちのけではしゃぐ3人にヨーコは苦笑を漏らす。

ヨーコ「おいおい、遊びにきたんじゃないんだから……まぁ、今までいけどもいけども瓦礫の山だったから、無理もないか」

校舎裏の駐車場に車を止めて、さっそく校舎内へと入る。

カスミ「下駄箱がずらり!本当に何百人もここに通ってたんだぁ!」

広々とした昇降口を見渡してカスミがはしゃぐ。

サーシャ「無人の校舎をわたしたち4人だけで使うって、すごい贅沢」

サーシャは塩顔ながら、声音や雰囲気からは興奮を隠せていない。

ヒナ「学校の中に猟銃とか物騒じゃない?」

ヒナはヨーコが背中にスリングで背負った猟銃を物騒な目で見る。

ヨーコ「何があるか分かがらないだろ。用心にこしたことはない」

カスミ「まぁ、ジェーン・ドゥってのもどーにも胡散臭いしね」
サーニャ「廃校の中で動けなくなってるから助けてほしいって言うのも怪しい……そもそもここって本当に学校として使われてたの?見た目だけそれっぽくしてるとかない?」

カスミとサーニャの顔に一様に不審の色が浮かぶ。

ヒナ「でも実際に学校の中に入られた訳だし、きっとやむにやまれぬ事情ってのがあるんだよ」

ヒナの真っすぐな瞳にヨーコは苦笑する。

ヨーコ「素直だねぇ。まぁ、あたしらにとってはここが唯一の希望だ」
カスミ「あっ!何かきたよ」

4人の前に円筒状のピンク色の胴体に胴体にネコミミがあしらわれた球体の頭部が載ったこけしの様なロボットが現れる。

イヴ「みなさん。初めまして。わたしは桜々咲学園の管理AIの”イヴ”です」

若い女性のAI音声と共に東部のモニターに顔文字が表示される。

カスミ「うぉ!喋った!」

カスミのぎょっとした表情にヨーコは懐かしそうな顔を浮かべる。

ヨーコ「技術衰退でお前らが生まれた時にはもう動かなくなってたけど、うち
らの居たシェルターにも似たようなのがいたんだぜ」

サーシャ「この子がこの学校を維持してるわけか」

遠巻きに見ているヒナとカスミとは対照的にサーシャは一歩前に出て頭部のモニターを覗き込む。

サーニャ「まずここで何をすればいいか教えて」
イヴ「皆様にはまずこの学校の”生徒”になっていだきます」

サーニャ「生徒になるにはどうすればいいの?」
イヴ「わたしの頭部モニターに掌で触れて頂くだけで生徒として登録されます」

モニターが顔文字から掌の型が登録の画面となる。

サーニャ「生徒になれば何が出来るの?」
イヴ「生徒登録がされ学生証が交付されれば学校内の各種施設の立ち入りや仕様の権限が与えられます」

質問に淡々と答える”イヴ”にサーニャはさらに質問を続ける。

サーニャ「なるほど。ところでジェーン・ドゥって誰?なんで学校から身動きが取れないの?何が目的でわたしたちをこの学校に招いたの?」

ヒナ「わぁ!直球!」

単刀直入なサーニャの質問責めにヒナが黄色い声を上げ、カスミも感心する。

カスミ「やっぱサーシャは度胸あるわー」

しばしの静寂の後、サクラが返答する。

イヴ「―別の質問でお願いします」

ジェーン・ドゥ絡みの質問には一切答えないイヴにサーニャのポーカーフェイスに不信感が広がっていく。

サーニャ「やっぱり胡散臭い。今からでも立ち去る?」

ヨーコはサーニャの提案に背中に背負った思案した後に口を開く。

ヨーコ「サーニャの気持ちもわかるが、もう食料も車の燃料も限界だ。現状取って食うつもりもないようだし、補給してからでも遅くないだろ」
ヒナ「そーそー!せっかくだし探検してこーよ」
カスミ「ヒナは遊びたいだけじゃん。でもここ数か月ずっと野宿続きだし、羽を休めたいね」

サーニャ自身も野宿生活に疲弊していることもあり、とりあえず学校の探索に賛成する。

サーニャ「みんながそういうなら……」

ヨーコ「よし、意見もまとまったところで生徒登録とやらをするか」
ヒナ

イヴ「かしこまりました」

ヒナ「よーし!ヒナが一番乗りー!」

ヒナが最初に掌を翳すと数秒で生体情報の登録が完了する。

イヴ「氏名の登録をお願いします」
ヒナ「氏名?ヒナの名前は橘陽葵(たちばな ひなた)!」

氏名の登録の後は顔写真や全身の撮影で身長体重などを割り出していく。

サーシャ「この子、ロストテクノロジーの塊……AI全盛時代の産物」

強い興味を惹かれた時の癖でサーニャが眼鏡のツルを掴む。

ヨーコ「へへ。なんだよ。この学校に興味が沸いてきたか?長居してもいいんだぜ」

サーシャの横でニヤニヤするヨーコにサーシャはすんと鼻を鳴らす。

サーシャ「ヒナみたいにはしゃいでないから。ただAIは今後の人類復興の足掛かりだから、見逃せないだけ」
ヨーコ「AI技術の行き過ぎた発展も旧文明崩壊の一因なんだが……まぁ、文明再興の際には上手く活用してくれ」

ヒナの生徒登録が終わり登録されたデータをヒナとカスミは食い入るように見る。

カスミ「ほぉほぉ、身長:151.2cm、体重42.6kg。かぁ、シェルターで最後に諮った時よりも5cm以上伸びてんじゃん!」
ヒナ「よっしゃ!ヒナ成長中!次はカスミの番ね!」
カスミ「よーしきた!目標の170cmまでどれだけ近づいたかなぁ!」

サーニャ「ふふ、テクノロジーはまず楽しむことが肝心」

口角をよく見なければ分からない程度に上げたサーニャはカスミの次に生徒登録しようとする。

ヨーコ「若者は何でも物おじせずに新しいことに飛び込んでいって良いねぇ。でも、あたしはもう生徒って年でもないんだよなぁ……」

ヨーコは頭を掻きながら妹分の3人を見守りながら苦笑いを浮かべる。

ヨーコ「身長:167.3cm体重:59.4kg……前測った時と変わらずか」
カスミ「ウチは身長169.1cm!体重:58.8kg!目標まであと一センチ!」
ヨーコ「あーあー。とうとう抜かれちまったか。まぁ、もう身長で一喜一憂する年でもねぇけどさ……でも」

サクラの頭部モニターに自分の登録分類の項目を見ると”教員”と記されていてヨーコは首を傾げる。

ヨーコ「おいおい、あたしは先生になった覚えはないぞ」
イヴ「生徒として登録できるのは18歳までです。18歳以上の方は教員として登録されます」

ヨーコ「まぁ、もう生徒って年でもないけど、教員ねぇ……」
ヒナ「ヨーコ先生!勉強教えて―」

ヒナがふざけるとカスミも便乗してくる。

カスミ「ヨーコ先生!スポーツの授業はまだー!」

”ヨーコ先生”の響きがツボにきたサーニャはお腹を抱えて爆笑する。

サーニャ「くふっ!ふふふっ!ヨ、ヨーコ、い、引率の先生……ぶふっ!」

調子づく3人にヨーコは開き直って先生面をする。

ヨーコ「はいはい!先生なんだから、あたしの言うことちゃんと聞けよ!って言ってもこの格好じゃ説得力ないか」

薄汚れた黒いシャツにカーゴパンツとジャングルブーツという動きやすさ重視の格好が学び舎に似つかわしくなく感じ、ふとシャツの袖の匂いを嗅ぐと土埃と汗の匂いに顔をしかめる。

イヴ「ご希望であれば制服やスーツなどを用意いたします」

イヴの提案に3人のテンションが上がる。

ヒナ「ほんとぉ!制服制服!どんなのか見せて!」

イヴの顔面のモニターの上に制服のサンプルが表示される。

ヒナ「へー、半ズボンとスカートから選べるんだぁ!ヒナ、ズボンがいいかも」
カスミ「うちは断然スカート!ひらひらして可愛い!」
サーニャ「スカートの長さも3パターンから選べるんだ、わたしは中くらいのがちょうどいいかな……」
ヨーコ「やっぱ身体の匂い気になるだろう。水の節約でここ一週間濡れタオルで身体を拭くだけだからな」
サーニャ「服の洗濯も碌にしていない」
イヴ「寄宿舎には洗濯室や共同浴室もあります」

イヴの提案に4人のテンションが最高潮に達する。

カスミ「風呂!風呂に入れるの?!」
ヒナ「寄宿舎ってことは宿みたいなとこ?!ベッドの上で寝れちゃうっってことー!?」
サーニャ「ちょっと2人ともうるさい……」

うんざりした顔のサーニャだが、イヴの寄宿舎の説明の際のコーラという単語に目の色を変える。

イヴ「寄宿舎にはスポーツドリンク・コーラ・コーヒーなどの各種、飲食物が―」
サーニャ「コーラ!もしかして"本物"のコーラがあるの!!」

大好物のコーラがあると聞いて目の色を変えてイヴに掴みかかる。今まで大昔の資料を元にありあわせの材料で作った疑似コーラでしのいできたサーシャは目を輝かせる。

ヨーコ「まったくはしゃぎやがって!まぁ、無理もないけどな」

ヨーコが外を見ると空が夕焼けに染まっている。

ヨーコ「気づいたらもうこんな時間かよ」
ヒナ「そーいえば、ヒナお腹すいたー。」
カスミ「やべ、やっと落ち着けるかと思ったら一気に疲れがきたかも」

やっと落ち着ける場所に来たと考えると旅の疲れを隠せないカスミが頭を抱える。

サーニャ「生徒登録……ゲームで言うところのチュートリアルも終わったし、今日は寄宿舎とやらで休む?」
ヨーコ「そうだな。ここらで一服って言うのも悪くないな。学校の探検は明日からだ」

リーダーであるヨーコの決定にヒナとカスミは歓喜の声を上げる。

カスミ「よっしゃー!お風呂にゆっくり使ってお腹いっぱい食べてベッドでぐっすり……これが文明ってやつだー!」
ヒナ「ちょっとやめてー!ヒナもう言葉の響きだけで参っちゃいそう!」

大騒ぎするカスミとヒナの隣でサーニャがうっとりとした顔で宙を仰ぐ。

サーシャ「お風呂上りにきんきんに冷えたコーラを一気……嗚呼、ポテチもほしくなってきた……!」

夢見心地の3人にヨーコは思わず笑みをこぼす。

ヨーコ「ここ数年、シェルターが機能不全になってからは風呂はもちろんささやかな飲み食いも満足にできなかったからな」

場面は変わり、夜の寄宿舎の共同浴場で4人は長旅の疲れを取る。

ヒナ「とぉ!」

ヒナが掛け声とともにざぶんと共同浴場の浴槽に飛び込んで上がった盛大な水飛沫を桶で防いだサーシャが呆れ顔。

サーシャ「はぁ、ガキがいる」
ヨーコ「まぁ、ヒナにゃもう少し落ち着いてほしいけど、今日のところは勘弁してやってくれ。こんだけ贅沢に水が使えるとなったら無理もない」
サーシャ「確かに……この国には湯水の様に使うなんて慣用句があったけど……文字通りの光景だね」

サーシャの隣で足を延ばしてくつろぐヨーコはヒナからカスミに目線を移す。

カスミ「予想以上の広さでびっくり!ちょっとしたプールじゃん!」

のりのりで平泳ぎをするカスミにヨーコは苦笑を浮かべる。

ヨーコ「なんだよ。さっきは一気に疲れがきたかも~~って言ってたくせに元気爆発だな」
サーシャ「カスミの場合はどちらかといえば精神的な疲れの方が目立ってたからリフレッシュしたら逆に体力を持て余しそう」

なんだかんだ言ってカスミをカスミを気に掛けているサーニャはうっすらと笑みを浮かべる。

ヨーコ「最初は右も左も分からなくてどうなるかと思ったが、あのイヴってロボットのおかげで施設の使い方とかはなんとかなりそうだな」
サーシャ「みんなくつろいでるから今はあえて深堀りしないけど、ジェーン・ドゥのことも追々考えないとね」
ヨーコ「そうだな。何の見返りもなくあたしらにバカンスを提供するわけがねぇよな。長湯してたらのぼせるから、あたしゃ、もう上がるよ」
サーシャ「了解。わたしはもう少しいて二人がバカしすぎないように見てるから」
ヨーコ「サンキュ、いつも助かるよ」

ヨーコが浴槽から上がると視線をヒナとカスミに移した途端に顔面にお湯が掛る。

カスミ「サーシャごめん!ヒナに撃ったら外れた。流れ弾」

突如始まった素手の水鉄砲合戦でカスミの水鉄砲がサーシャの顔面に直撃。

ヒナ「カスミすごい!サーシャにヘッドショット!よーし!ヒナもぉ……!」

片目をつむり口の端から舌を出して水鉄砲の照準をカスミに合わせようとするとゆらりとサーシャが立ち上がり桶になみなみとお湯をためるとヒナとカスミに水を盛大にぶっかける。

サーシャ「水鉄砲なんてしゃらくさい!おまえらなんてこうだー!」

ヒナとカスミの嬌声が浴場の外にまで響き渡り、ヨーコが笑みをこぼす。

サーシャ「ははははっ!遊べ遊べ、若人よ」

沐浴が終わり食堂で夕食。イヴが寮生活のルールなどを説明する中、ヒナとカスミが台所に立ち、ヨーコが食器を並べていく。サーシャは寝巻姿で瓶コーラをラッパ飲みにする。

サーシャ「~~っぷはー!五臓六腑に……染みるぅ……!」

数か月ぶりのコーラにぷるぷると震えながら独特の余韻を含んだ声で満喫するサーシャにヨーコがくつくつと笑う。

ヨーコ「くく、ほっっんとに美味そうに飲むな……でも飯の時間だからあんま飲みすぎるなよ」
サーシャ「コーラは別腹。それにコーラは食事にも合う!」

飲みかけのコーラをテーブルに置き、ヒナやカスミと一緒に完成したチャーハンとワンタンスープ、合成肉鳥の油淋鶏をテーブルに運ぶ。

大皿をテーブルの真ん中に置き各自取り分けていくスタイル。各自席に着きいただきますの挨拶とともに食事を開始する。

カスミ「かぁー!ここ一か月、味気ない保存食ばっかりだったから、大昔の料理本でしか見たことない脂っこいチャーハン!ジューシーな油淋鶏、熱々のワンタンスープが沁みる~~!!」
ヨーコ「おいおい気持ちはわかるけどあんまがっつくなよ。みっともない」

もりもりと数か月ぶりのまともな食事に貪るような食べ方をしてヨーコは呆れて溜息をつく

ヒナ「油淋鶏のソース、あり合わせの調味料で作ってみたけどうまー。まだシェルターが機能してた時よりも百倍贅沢だよー」
サーシャ「冷凍食品やレトルトばっかだけど、栄養価と保存性重視のカロリーバーよりは1万倍マシ」
ヨーコ「ははは!おまえあれ大嫌いだったからな。しかめっ面しながらもそもそ食うのいつもおかしくてさ」
カスミ「あの顔もしばらく見納めかー」
ヒナ「こんな顔してるよねー」
サーシャ「あーはいはい、おもしろおもしろい」

臍を曲げたサーシャがやけくそで油淋鶏を頬張った顔がまさしくカロリーバーを食べてる顔で3人はバカ受けする。こうして夕食の時は過ぎて行く中、さくらの頭部モニターがじっと4人の様子を見て

場夕食後、4人はイヴに案内され、わりあてられた寄宿舎の個室に案内される。

イヴ「タチバナさんは201号室が個室となります」
ヒナ「ここがヒナの部屋?!」

ヒナは目を輝かせ魚眼レンズ状の小型カメラに顔を近づけると生体データを認証してロックが外れる。

部屋は六畳間のワンルーム。久しぶりに見るちゃんとしたベッドにヒナは感激する。

ヒナ「糊のきいたシーツ……どニニりゃぁぁぁぁっ!」

ヒナはベッドにダイブしてふかふかの枕に顔を埋めるとベッドの上で転げ回る。

ヒナ「ふかふかのベッド……眠く……ならない……!」

落ち着いたことで逆に目が冴えてしまいベッドの上で天井を見上げて思索にふける。

ヒナ「お風呂に美味しいご飯……清潔なベッド……最高だけど、サーシャの言う通りいくらなんでも都合が良すぎるよねー」
ヒナ「ケイおばさんもセルゲイ爺ちゃんも死んじゃって……ここを新しい居場所に出来るのが一番だけど……」

旧文明のアーカイブでしか見たことがない物珍しい学び舎に温かいお風呂、美味しい食事と舞い上がっていたがベッドで天井を眺めながら頭を回転させるとサーシャのような一抹の疑念が浮かぶ。

ヒナ「今のヒナたちには水も食料もない……貴重な資源も飛びぬけた技術も持っていない……ってことはヒナたちに何かしてほしいっていうよりは……ヒナたち自体が目的?」

柄にもなく難しい顔を浮かべるとドアの呼び鈴がなる。

ヒナ「えっ!誰っ!」

ヒナがベッドから勢いよく飛び起きて魚眼レンズを覗くとヨーコ、カスミ、サーシャがジュースやお菓子の袋を持って立っているのを見て察したヒナがドアを開ける。

ヒナ「ひょっとして……みんなで夜更かし?」
カスミ「あったりー!まさか元気印のヒナがこの程度でへたばってるわけないよね」

21世紀前半頃をイメージして再現されたお菓子がたっぷりと入ったビニール袋を見せつけニカッと笑う。

サーシャ「今は食料の節約とかする必要ないし……ハメを外したい」

瓶コーラを数本抱えたサーシャが微笑みを浮かべる。

ヒナ「でもいいの?もう消灯時間過ぎてるけど」
ヨーコ「イヴによるとあたしは一応”教員”。だからあたしの監督があれば特例でいいそうだ」
ヒナ「ほぇー。意外と融通効くんだ。で、なんでヒナの部屋がたまり場に?」
サーシャ「ヒナはズボラだから、多少散らかっても大丈夫でしょ」

にやりと不敵な笑みを浮かべるサーシャにヒナはむすっとする。

ヒナ「夕ご飯の時の事根に持ってるでしょ!これで臍曲げると思ったでしょ!そーはいくか!夜更かし楽しんでやる!」
ヨーコ「あははははっ!喧嘩ならこっちでやってくれよ。怪我もしないし頭の体操になる」

ヨーコはイヴに案内されて寄宿舎の娯楽室にあった各種ボードゲームを抱えてきていた。

サーシャ「それ最高。さぁ、ヒナ。白黒つけよっか」
ヒナ「ボドゲならサーシャに勝てるわけないじゃん。絶対不利だよ。料理対決とかにしよーよ」
サーシャ「それはわたしが絶対に不利だからヤダ」
カスミ「間を取ってバスケとかどう?ちょうど四人だし2on2で勝負しようよ」

お互いの土俵に上がろうとしないヒナとサーシャに妙案と言わんばかりにバスケ対決を提案したカスミにヨーコがバカ受けする。

ヨーコ「あはははっ!カスミがやりたいだけだろ。どこが間とってるんだよ」
ヒナ「2対2ならカスミが入った方が絶対に勝つから勝負にならないよー」
カスミ「えっ!じゃあ、ハンデをつければ」
サーシャ「ふふっ!そういう問題じゃない……」
ヨーコ「おいおい、そこら辺にしておけ。表向きは明日からの”ガッコウ生活”の打ち合わせって理由でイヴに申請して消灯時間後も集まってるんだからな」
カスミ「よーし!ちゃちゃっと打ち合わせしてお菓子食べてジュース飲んでボドゲしよー!」
ヒナ「さんせーい!」
サーシャ「はいこれノート。わたしがイブから得た情報を説明するから各自メモして」
ヒナ「ノート!紙!めっちゃ貴重品じゃん!贅沢ぅ!」

寄宿舎の自習室から持ってきたノートをサーシャが配布する。

ヨーコ「流石サーシャは手際が良い。まずはこの学校のなりたちってやつなんだが―」

ナレーション【大国間の戦争による核兵器の使用、疫病の流行、AIの暴走、複数の要因が重なり”旧文明”滅亡の混乱が収束して数十年―】

4人は学校の成り立ちを学び、お菓子やジュースを飲み食いしてボドゲで騒ぎ夜を明かす。

ナレーション【旧文明の末裔である少女たちの終末後のスクールライフが幕を開けた】


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