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死せるアインランド生けるトランプを走らす

クリスマスに以下の記事をFBでシェアしている人を見た。

東洋経済「トランプを支えるアイン・ランド信者の正体」
http://toyokeizai.net/articles/-/150766?display=b

賢明なる読者諸君は「何を今更」と思うだろうが、アインランドはアメリカの国民的作家だ。「アメリカの政治思想家」と紹介されている上記記事を読むと、何やら凄そうだが、実際は大衆小説で人気を博した。例えば、代表作の『Atlas Shrugged』も『ハリーポッター』のように大長編。思想的な内容は以下の通り。

20世紀半ば、ほとんどの国や市民はアメリカ政府に依存して暮らしている寄生虫になっている。物知り顔のリベラル政治家やメディアはそれを助長するだけではなく、真に価値ある企業家をも強欲資本主義の権化として批難する。世界を支えている傑出した能力の持ち主はどう生きるべきか。合理性を軸に展開される選ばれし者たちの物語。

作家としてのポジションは、日本で例えると司馬遼太郎が分かりやすい。『坂の上の雲』は宮古島の漁民たちがバルチック艦隊を発見し、決死の覚悟で超長距離をボートで移動して、大本営まで情報を伝えるところから始まる(チェックして書いてないので間違ってたらすいません)。主人公の秋山兄弟だけではない。近代国家になったばかり(宮古島の漁民も「日本人」になったばかり)の日本で、ロシアに打ち勝つという目的のために、無数無名の国民が協力し合う、近代国家のプロジェクトXなのだ(なので、合理性の下、乃木希典は否定される。教養に溢れる美文家は、戦争に勝つという目的では不要)。おそらく、どの会社にも愛読者のおじさんがいる。司馬の思想は、日本経済を支える無数無名のサラリーマンと相性が良い。両作家は合理性というワードで共通するが、自由の考え方が大きく異なる。

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