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「ポケットに1セントもなく、明日はどうするかを考えながら旅するのが楽しみです」

<バーアテンダント6>

©︎themoviedb.org

映画「インツゥ・ザ・ワイルド」(2007)。

この映画を聞いたことも、見たこともない人に、ひとことで説明すれば、

卒業旅行に「家出」を選んだ実在の青年の話です。

彼の名前は、クリストファー・マッカンドレス。

1990年夏、両親に背を向けて消息を絶ったのは、それなりの理由があった。

兄妹は、ふたりとも私生児だったこと。父はアルコール中毒で、父母はいつも喧嘩していた。妹は、父からDV被害を受けていた。

監督のショーン・ペンは、彼を逃避させた家庭の暗い事情は描かなかった。

その代わり、大学を優秀な成績で卒業し、引く手あまたの就職先を蹴って、自我をつらぬいた孤高の青年のロードムービーを描いた。

クレジットカードにハサミを入れ、貯金の24,000ドルは大学に寄付し、ポケットの紙幣を焼き、彼は、物質文明にも別れを告げた。

社会との関係をいっさい断つため、”アレグザンダー・スーパートランプ”と改名して旅に出た。

太古の人間のように、素手と頭を頼りで生きていく厳しい環境に身を置きたいと思った。

そして、彼は、アラスカを目指した。

Christopher McCandless(本人)

北米大陸を東から西へ横断し、アラスカの冬を避けて南下し、北上する、1年半の放浪の旅で、さまざまな人に出会った。

まず、ヒッチハイクで拾ってくれたヒッピー夫婦がいた。

彼らは、キャンピングカーのたまり場で、古本を売って気ままに暮らしているように見えた。

しかし、息子が失踪して以来、夫婦仲がギクシャクしているふたりにとって、アラスカの夢を語る青年は、とてもまぶしかった。

しかし、自分たちの息子も、この青年のように、夢を持って自分たちのもとを離れたと思い直すことにした。夫婦は、アレグザンダーから力をもらった。

そして、サウスダコタの草原にある大農場主にもヒッチハイクで拾ってもらった。

「アラスカへ向かいながら、体力と英気を養っています」車の中で農場主に話した。

農場主は、他の季節労働者にはない覇気を感じ、自分の若い頃を思わせるものが
あった。彼に、野生で生きる術をすべて教えた。

しかし、農場主は、遊びでやっていた商業放送の無許可傍受で、FBIに逮捕された。アレグザンダーは農場を離れざるを得なかった。

その後、農場主から”希望への投資”として、たくさんのお金が、旅先に送られてきた。「ポケットに1セントもなく、明日はどうするかを考えながら旅するのが楽しみです」とお礼を言い、お金をすべて旅道具に使った。


さらにヒッチハイクで拾ってくれた老人は、交通事故で妻を亡くし、引きこもっていた。

「冒険ごっこみたいなことをしてないで、大学に行って、もっと前向きの生き方をしろ」と説教された。

大学をトップクラスの成績で卒業していることを隠し「大学は卒業しました。自分が自分であるために、冒険をしています」と伝えた。

アレグザンダーは、嫌がる老人を、近くの丘の上に、二日がかりで連れて行き、勇気のありかを教えた。

出発の日、老人から養子縁組を申し込まれるが「アラスカから帰ってから話し合いましょう」と別れを告げた。

苦い人生を送っていた大人たちが、アラスカの荒野に夢をはせる青年をまぶしく見つめ、座り込んでいた地べたから立ち上がり、そばかすだらけの手を振っていた。

"into the wild"©︎allocine.fr

アラスカでは、15種類のイチゴは食用になる。その他、雑多のイチゴは、鳥がついばんでいても、人間には毒だったりする。冷蔵庫のようなアラスカでも、ヘラジカを殺すと、傷口に卵を産みつけるハエが寄ってきて貯蔵できない。ヒグマが臭いに引かれてやってくる。

銃で殺せるリスとかウサギしか食用にできなかった。”ラビット・スタベーション”と言われる、高蛋白・低脂質の肉だけを摂取した弊害が出た。肝臓の脂肪を溶かすようになって、3ヶ月で健康を害していった。

さらに、内臓にダメージを与える有毒な種子をむさぼり食べたことが、彼の死を早めてしまった。

ヘンリー・ソローの「ウォールデン・森の生活」を熟読したが、植物図鑑を持っていただけのアレグザンダーには、悪魔が棲む自然だった。

ヒグマに1mの距離で遭遇したが、死臭を感じたクマは、彼を襲わなかった。

「ぼくの一生は幸せだった。
ありがとう。
さよなら。
皆さんに、神のご加護がありますように」

享年24才クリストファーの遺体のそばにあったアラスカ日記、
最後の113日目に書かれていた。

この映画を通じて、みんなに希望をふりまいた冒険者がいたことを知った。


at the bar:大農場主のウェインに、「ジャック・ダニエルの一箱でも持っていって、
あなたの親切にむくいたい」と日記に書いていたアレグザンダーを思いながら、
バーボン・ウイスキーとショットグラスを用意してもらった。
©︎etsy.com

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