遠隔レンジ

この素敵なイラストは、みんなのフォトギャラリーに投稿されたあひるNNさんのものを使わせていただいています。ありがとうございます。

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 仕事から帰ってきて自炊する気力がないときは、だいたい冷凍食品で済ませていた。俺は発泡酒を一缶開けて飲みながら、チャーハンの解凍に取り掛かる。

 カギも電気もエアコンもすべて自動、家電は小型化してコードレスが当たり前だった。一人暮らし用の炊飯器もケトルも、この遠隔レンジだって、チャーハンを盛る皿より小さい面積に収まってしまう。

 いつものようにレンジのポケットから虫メガネ型のリモコンを取り出す。ポット型の本体から熱が送られ、受け取ったリモコンがそれを拡張することでレンズを向けたものを温めることができる……と言うのが仕組みらしいが、よくわからない。とにかく、昔の電子レンジよりも性能がいいということだ。

 ローテーブル上のティッシュ箱を立てて、高さを作ったところにスイッチを入れたリモコンを置く。手に持つか本体にセットして温めるのが本来のやり方だけど、こっちの方がムラなく温められて楽ちんだ。冷蔵庫から二本目の発泡酒を取りだし、スプーンを持ってソファに戻ってくる頃にはもう食べごろだった。俺はアツアツのチャーハンを口に運びながら、テレビをつける。

 テレビは相変わらず事故だとかボヤ騒ぎだとかの特集をしている。次のチャンネルでは洋画の放送。その次は紙の本離れと書店減少について議論を交わしていた。電子書籍の方が断然安いのだから仕方ないだろう。このミニマム時代、紙の本なんてものを持つのは本棚を置ける金持ちだけだ。

 そう言えば今日、会社で驚いたのが、最近の若い子たちはテレビを知らないらしい。去年のボーナスで買ったこれも彼らにとっては、コードにつながなきゃ役に立たない代物、いわゆる“ヒモノ”というやつなのだろう。

 それでもこの24インチの大画面で見る映画やアニメは迫力がある。俺はテレビを消して食べ終えた皿を下げると、スマホの動画アプリを開く。スクロールして見てみると80年代特集としていくつかのアニメが期間限定で見放題になっている。ちょうど北斗の拳が目に留まったので、それを見ることに決めた。

 つまみの冷凍唐揚げを温めながら、発泡酒を一口飲む。ワイヤレスでスマホとテレビをつないで動画を再生すると、ナレーションが流れた。

「199X年。世界は核の炎に包まれた」

 ゲームで見るケンシロウよりも、髪が落ち着いているなとかOPが思ったよりも熱い歌だなとかどうでもいいことを思いながら、温めた唐揚げを頬張る。紙芝居みたいではあるが、これはこれで味があった。

 気にしないようにしていたが、音声が途切れたり、スマホから音が出たりしていた。一皿目の唐揚げを平らげ、二皿目を用意しようとしたころには音が出なくなってしまった。スマホやテレビの音量を上げたり、消音ボタンを何度もオン・オフに切り替えてみたりしても、音は出ないままだ。

 切りのいいところまで見て動画を止め、有線でつなぐことにした。ティッシュ箱にレンジのリモコンを設置して、二皿目をセットする。その間にテレビ台からコードやら変換装置やらを引っ張り出し、つなぎ合わせる。

 設定を完了するとテレビに北斗の拳が映った。ケンシロウが女の子を助けようと悪者と対峙しているところである。早速、スマホの動画再生ボタンを押した。

「アタァァ!!」

 テレビの音量を大きくしてたのを忘れていた。その音の大きさにあまりにもびっくりしてしまって、しりもちをついてしまった。

 その瞬間、ボンッとテレビから音がして静まり、画面が真っ暗になった。急な出来事に何が起きたのかわからなかった。が、すぐに考えが巡って後ろを振り返ると、レンジのリモコンがちょうどテレビに向いている。唐揚げの皿がいい角度をつけていた。切り替わったのか、スマホから動画の続きが流れる。

「お前は、もう死んでいる」

お金が入っていないうちに前言撤回!! ごめん!! 考え中!!