「開業当時の自分に伝えたいこと」を聞いてみた /プライベートサロン経営 玉置芽瑠さん
開業1年目の方に向けた本インタビュー企画。
インタビューでは個人事業主やフリーランスとして活躍されている先輩方に、開業当時の思い出や苦労、そこからの学びなどを尋ねます。
普段あまり知られることのない開業、そして個人事業成功の秘訣とは何か?を探っていきます。
今回は、千葉県流山市でプライベートサロンを経営する玉置芽瑠さんにお話を伺いました。出産をきっかけに意図せず専業主婦になった玉置さんは、身近に相談相手がいないという悩みを抱えていました。ご自身の経験から「こんなサービスがあったらいいのに」を形にして事業を運営されています。
玉置さんが個人事業を立ち上げるに至った経緯や悩みは、多くの女性が日々悩み、葛藤していることでもあります。また「人の視線が気になる」「自分の選択に自信が持てなかった」という過去の悩みは、男女問わず誰もが感じることかもしれません。玉置さんの経験をインタビューを通して紐解くことで、日頃の悩みが少し軽くなるような、ヒントと共感をたくさん得られました。個人事業主やフリーランスが気になるお金と税金の話や、今後の展望についても詳しくお届けします。
聞き手:工藤京平(freee株式会社)
妊娠から産後まで、ママの身体と心をトータルケア
工藤:まず、「森の虹」の事業内容についてお聞きしてもいいですか?
玉置さん:バザルト®ストーンというホットストーンを使ったトリートメントを提供しています。主に妊活中や不妊治療中の方や、妊娠中の腰痛、むくみなどにお悩みの方、出産後の肩こりや腕の痛み、授乳トラブルをお持ちの方を対象に、体と心のトータルサポートを行っています。
以前は自宅兼サロンで施術をしていましたが、自粛期間が明けた6月後半ごろからは、お客様のご自宅に伺っています。
工藤:出張に切り替えた理由は何ですか?
玉置さん:引越しを機にあまり自宅に人を呼べなくなったことと、コロナウイルスの影響が大きいです。お子様をお持ちのママさんの中には、外出に抵抗がある方も多く、「自宅に招いた方が楽」という声をいただくことがありました。
工藤:お仕事で大切にされていることに「友人のような気軽な関係を築くこと」とありますが、そう思ったきっかけをお聞かせいただけますか?
玉置さん:私がこの仕事を始めたいと思ったのが、出産を機に会社を辞めて専業主婦になったことなんです。会社がなくなった途端、友達がいないことが明るみになりました(笑)
悩みを相談できる人が身近にいなくて、ママ友がほしいと思ったのがきかっけです。自分がこういう仕事をすれば、同じように悩んでいるママたちがきてくれるかなと思ったんです。
バザルトストーンを仕事にしようというよりは、自治体のコミュニティのような場作りができたらいいなと思って始めました。
気軽に遊びにきてお話をして、悩みを相談しあうような場所を作りたいと思っています。トリートメントはついでに受けようかなくらいに思っていただけたら嬉しいです。
工藤:トリートメントはきっかけで、コミュニティや人間関係を作る目的の方が大きいということでしょうか。
玉置さん:そうですね。
きっかけは自分自身の産後の悩み。悩んでいるママの役に立ちたい。
工藤:独立するまでの経緯についてもお伺いしてもいいですか?
玉置さん:大学を卒業後に航空業界に就職し、転職して化粧品業界に入りました。2011年に結婚して2015年に子供が生まれ、出産後は仕事に復帰する予定だったんですけど、待機児童になってしまったんです。育休を一年半に延ばしてもらいましたが、どうしても子供を預ける保育園が見つからなかったので退職をしました。なので、意図せず専業主婦になってしまったんです。
工藤:2016年の後半に退職されたってことですね。そこから2019年4月の開業まではどう過ごされていたのですか?
玉置さん:初めての子育てだったので、いっぱいいっぱいで自分のことを考えている余裕はありませんでした。ただ、子供が成長するにあたって、子供と私自身の悩みが出てきました。病院にいくほどでもないけど、ネットで調べるのもおかしいし…。とりあえず誰かと喋りたかったんです。
子供の成長に関しては、離乳食の進め方などマニュアル本に書いてあること通りに子供が沿ってくれなかった場合、どうしたらいいんだろうという悩みがありました。あとは乳腺炎という授乳のトラブルがずっと続いて、動けないくらい辛いので、それをどうにかしたいという悩みもありました。
いくら検索しても「病院に行ってマッサージしましょう」とか「葛根湯飲みましょう」とか、そういう情報ばかりだったので…。実際に悩んでいる人の声を聞く機会がなく、誰か友達がいれば聞けたのになって思っていました。
工藤:もっと子育てに関して気軽に相談できる仲間が欲しかったんですね。保育園・幼稚園も入れなかったので、ママ友ができずらい環境だったんでしょうか。
玉置さん:ずっと仕事をしていたのでご近所付き合いがなかったし、公園に子供を連れて行ったとしても、すでにグループでいるママさんたちのところには入りにくかったりとか。結局子供と二人で遊んで帰ってくることも多かったんです。
工藤:そういった悩みを抱えつつ、どういう風に開業に至ったんでしょうか?
玉置さん:2017年の終わり頃、アメブロを読んでバザルトストーンを知りました。産後の骨盤の歪みを矯正したり、リラックスに活用したり、産後のママのサポートに良いとあって。最初は単純に自分が受けたいと思って記事を読んでいたのですが、読み進めていくと、一日でしかも手軽な価格で資格が取得できるとありました。
未経験でもOKとも書いてあって、すぐに問い合わせをしたんです。「エステ業界にもいたことないし、人の体に触れることもしたことないけどできますか?」と聞いたら「できます」って歓迎していただいて。そこからはもう早かったですね。
出張で教えていただける先生がいると聞いて、家に来てもらって2018年3月頃に資格を取りました。子供が小さくて、家の外に出ることが難しかったのでありがたかったです。その先生のサロンでしばらく勉強させていただいて、何人か施術して、先生からオッケーが出るまで練習を重ねました。
工藤:自分が受けたいだけではなく、どうして資格を取りたいとまで思われたんですか?
玉置さん:単純に、手に職が欲しかったんです。今まで築いて来たキャリアが専業主婦になった途端、何もなくなってしまって。「これまでこんなことを経験してきたよ」っていう話はできるけど、ママの悩みとっては何にもプラスにならなくて。だったら同じように迷っているママにとって、プラスになることをしたい。この資格を取れたら、商売とか関係なく悩んでいる人の役に立てるんじゃないかと思ったんです。
だから、最初は開業しようとかは全く思っていなくて、本当に単純に、この技術を得て誰かの役に立ちたいという想いだけでした。
工藤:手に職が欲しいプラス、同じように悩んでいるママさんの役に立つことがしたかったんですね。当時、助けたいようなママさんが周りにいらっしゃったんですか?
玉置さん:私自身でしたね。近くにいたら嬉しかったサービスや人…いないなら、自分がなるしかないなって。私が悩んでいることって、きっと100%の人が悩むことではないけど、きっと他にも悩んでいる人がいるだろうと思ったので。
工藤:資格を取られてから2019年4月の開業まではずっと勉強期間でしたか?
玉置さん:そうですね、夏くらいまでは先生のところでお世話になって、それ以降はFacebookなどを利用してご近所さんを中心にモニターを募集し始めました。その頃はまだメニューも考えていなかったので、ママに限定せずバザルトストーンを使ったフェイシャル・ボディトリートメントをお試し価格で募集しました。
工藤:どれくらいの数のモニターをされたんですか?
玉置さん:ボディトリートメント20人、フェイシャルトリートメント20人くらいでした。
工藤:そこから、どうして開業に至ったんでしょう?
玉置さん:モニターをやってみて、単純に面白かったからですね。お客様の反応を直にいただけることにやりがいを感じました。子供を産んでから、初めて自分の存在意義が認められた感じがして。このままこれを仕事にしてもいいんだなと確信したので、そこからメニュー作りが始まりました。
仕事をすればするほど、自分の心が軽くなるのを感じた
工藤:個人事業主として働かれるようになってから良かったことはありますか?
玉置さん:自分で考えて行動できるようになったことです。専業主婦だった時は主人が働いて得たお金だったので判断を全て委ねていましたが、自分で仕事をすると決めてからは、何をするにも自分で考えるようになりました。それが一番大きな変化ですね。
自分の好きなことにも敏感になりました。例えば、タオルひとつとっても、手触りや質感など心地良いものを選ぶようになったり。せっかくトリートメントに来てくださっているのだから、何か付加価値があればいいなと、BGMやキャンドルを置いてリラックスしてもらったり。全部自分で好きなものを揃えて置けるっていうのは、やっぱり会社にいたらできないことなので…。
自宅施術の際におもてなしとして作るデザートも、お客様個人の体に良いものを意識して選んで作ります。そういう時間が自分の癒しにもなっているんです。仕事をすればするほど、自分の心が軽くなるのを感じました。
工藤:自分でどれだけ考えられるかで、仕事の面白さは変わりますよね。そういう環境を楽しめない人もいると思うんですけど、玉置さんは楽しかったんですね。
玉置さん:そうですね。会社に所属している時とは違った刺激がありました。もちろん接客業でやってきたことが活かされて、お客様との関係性も築けたとも思いますけど…。当時は、本当の意味でお客様の立場に立って考えたことがありませんでした。
仕事に限らず、普段の生活で家族に対しても自分の態度を客観的に見られるようになりました。これは多分、主人が一番感じたことだと思います(笑)
工藤:相手がどう感じるかを考える視点が自然に持てるようになったってことですよね。
玉置さん:あとは、開業するまでは人からの視線、人からの評価をすごく気にしていたのですが、それを感じなくなりました。
工藤:人からの評価というのは、お仕事の評価ですか?
玉置さん:仕事でもそうですし、他にも持ち物やバックグラウンドなど、あらゆることです。たとえば、人によっては「収入低いのに開業届出しているの?」って思う人もいるはずです。だから開業届を出してもいいのかなと最初は迷いました。でも、それって自分の価値観ではなく誰かの判断基準なので。個人事業主になって、ようやく自分の価値観や意思を持てるようになりました。自分が選ぶものに自信が持てるようになったことが大きいですね。
工藤:そうなれるまでは長かったのでしょうか?
玉置さん:長かったですね。振り返って考えると幼少期からです。
工藤:逆にどうして変われたんでしょう?
玉置さん:一個人として仕事をするようになったら、評価は自分で積み上げていくもので、その価値って自分で決めるものだろうなと感じたんです。
客観的に他の人を見ることも出来るようになりました。個人事業主として他にビジネスをやっている人とお話をすると、その人の考え方とかビジネスに対するマインドが響くことがいっぱいあって、人となりが一番大事だとすごく感じました。
税金や確定申告など、開業当初の経理の悩みはアプリで解決
工藤:開業したからこその悩みやご苦労は、どういうところにありましたか?
玉置さん:最初はお金の問題と集客・広報に苦労しました。
そもそも、誰に・何を・どうやって申告するのかが分からなくて。正直、確定申告って何を申告しているのかもわかっていませんでした。
開業届の出し方を調べたら、検索結果の一番上に開業freeeが出てきて、もうすごく簡単な感じだったので、他を見ることなくすぐ登録しました。
「簡単さ」は、私にとって一番のキーポイントです。質問の答えを入力してプリントアウトして提出するだけで、簡単にできました。やることが他にたくさんあったので、その日のうちに完結したかったんです。開業届を調べて、その日に全部終わらせました。
あとは、私は子供がいるのでできる限り家で完結したいっていうのがありました。外出する際は、ぐずってしまう可能性があるので子連れで行けるところじゃないと厳しいです。なので、税務署まで足を運ぶことなく、郵送で完結できた点も良かったです。
工藤:周りの個人事業主さんも、開業freee使われていますか?
玉置さん:私の場合は、せっかくやるんだったら屋号を持って活動したいと思っていたので開業届は出しましたが、周りは出していない人も多いんですよ。コロナウイルスの一件で、助成金をもらうにあたって開業届があった方がいいと、みんな焦っているので開業freeeを勧めたほどです(笑)
工藤:保存ができることも大きなメリットではありますね。パッと印刷できるので。
工藤:会計freeeを使い始めたのは、開業してすぐですか?
玉置さん:すぐですね。数字が苦手でやりたくなかったんです。いっぱいタスクがある中でやりたくないことを時間をかけるより、得意な人に任せた方が効率的だなと思って。でも人を雇うほど収入があるわけでもないので、だったらお小遣い帳感覚でできるアプリがいいなと思って使い始めました。
もともと家の家計簿を全部アプリでやっていたので、レシートもすぐ登録する習慣がありました。その日発生した経費はその日に登録したかったんですけど、そのためにわざわざパソコンを開いて作業するのもちょっと面倒だし、そういう意味で一番アプリが身近でした。
あとは領収書のレシート撮影機能。何か外で備品を購入した際にすぐに撮影して登録できることが一番のメリットです。スマホ一つあればできる手軽さが魅力で会計freeeを導入しました。
工藤:開業後すぐに導入する意義はどういうところにあると思いますか?
玉置さん:確定申告ってめちゃくちゃ大変じゃないですか?あとからまとめてやるのは大変だと思うんですよ。それよりは毎日コツコツやっていた方が手間になりません。子育て中で、家事・育児・仕事の両立を考えると、先送りをなるべく少なくした方が自分のためになりますね。
通信費の請求が来た時や、備品の買い物をした日など、経費が発生するタイミングってある程度決まっているので、その時にまとめて登録するようにしています。
工藤:確定申告はどれくらいで終わりましたか?
玉置さん:確定申告は、多分1時間もかかっていません。その日のうちにやって、郵送しました。アプリ内に出てくる指示通りにやっていっただけです。
もし個人事業主の方・個人事業主になりたい方で、数字に苦手意識をお持ちでしたら、freeeなど会計ソフトに頼った方がいいとお伝えしたいです。アプリの月額費用は、動画や音楽配信と同じくらいの金額。高いと思われる方もいるかもしれませんが、それにかける労力・時間とエネルギーをお金に換算したら、絶対それ以上の価格になると思います。特にママはやることが多いので、使った方がいいなと思います。
自治体が主催する創業スクールで人脈作り
工藤:フリーランス特有の悩みで、経理やお金の他に気軽に相談できる仲間がいない、仕事仲間が欲しいという声もありますが、玉置さんはその点いかがでしょう?
玉置さん:この事業を始めてから、流山市の女性創業スクールに通ったんです。すでに創業している方・これから創業したい女性が集まって、講師の方にビジネスプランの立て方などを教わりました。
個人でワインのバーを営んでいる方や、ママのための雑誌を発行されている方など、流山市は個人で活動されている方が多いんです。
工藤:繋がりを作りたくて入られたのでしょうか?
玉置さん:そうですね。モニターでママさんの繋がりがあまり作れなくて、ママはネットより直に会ったほうが繋がりを作れるかなと思ったんです。創業スクールで繋がりができれば、もう少しいいコミュニケーションが取れるかなって思って入りました。
工藤:じゃあ、仕事仲間兼、お客さんとしても繋がれる人を探して入られたんですね。実際どうでしたか?
玉置さん:すごくいい刺激でしたね。もちろんお客様として来てくださる方もいますけど、違う畑で創業して頑張っている方からは刺激を受けます。
私は、この事業をエステ感覚で始めていないので、同業の方とは話があわないこともあって…。全然違う分野で事業をされている人の方が、目指していることやお客様がリンクしていることが多くて、彼女たちとの交流を通して「もっとこうしてみよう」と発見も多いです。あとは「一緒に何かやろう」って話ができること。それがすごく楽しいです。
人と比べず、コツコツ自分の道を切り開くことが大切
工藤:開業当時の自分に伝えたいアドバイスはありますか?
玉置さん:「意外となんとかなるさ」って言ってあげたいです。開業当時、9割は不安だったんですよね。でも、不安を考えたところで出来ることって何にもないし、世の中は目まぐるしく変わっているから想像できないこともたくさん起こります。
だったら、そんなにガチガチに固まらないで柔らかく受け入れて、流れに乗っていけばいいと思うんですよね。失敗したら失敗したで経験になるから、あんまり頭で考えるなって言いたいです。
自分の感覚を大事にして、人と比べずコツコツ道を切り開いていくといいよって言ってあげたい。
トリートメントに止まらず、身体のトータルケアがしたい
工藤:今後、事業をこういう風にしていきたいなとかありますか?
玉置さん:コロナがきっかけで出張サービスを始め、場所を問わずトリートメントができることがわかりました。逆に、人と会わなくてもリモートでお客様にできることがないかと、食に関する勉強も始めています。ありがたいことに、流山市の周りには新鮮で美味しい野菜が多いので、将来的には農家さんから野菜を仕入れてお届けできたらいいなと思いますね。
ステイホームで家にいることが多くて、外食をする機会が一時期ありませんでした。今まで自炊をやってない人はすごく大変だったと思うし、買い物に行けなくなると家にあるものでどうしようかと考える機会が増えたはずです。そうなると、より簡単で、シンプルなものが役立ちます。いい野菜だったら手を加えなくても美味しいですし、農薬も使われていなければ免疫力も上がるはず。コロナを良いきっかけとして身体づくりを再度考えて、食から見直していただけると、その方のこれからの人生にも役に立つのかなと思って。
工藤:トリートメントの次は食になって、身体のトータルケアをやっていきたい方向になっていってるんですね。
玉置さん:そうなんです。野菜を送ることで、地域活性化にもなると思っています。買い物に行けないママたちのために、地元であれば配送もできるし。野菜はとれたての方が美味しいし、オーガニックなどの有機野菜は都内に行けば行くほど高くなります。でもこの辺りは価格も全然高くありません。選ぶものによっては上手にお買い物できると思います。食べて健康になれば、病院代も節約できて価格以上にのリターンが返ってくるはずです。
工藤:ただ健康のためと野菜を送るより、身体を見てくれる人が送る野菜は説得力がありますね。面白いです。本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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