除雪の4トンダンプ編〜4〜
【ハマるのは嫌!でもぶつけるのはもっと嫌!】
その日はとても走りやすく、天気も良かったので視界は良好、ある程度雪の質も見れるようになってきた。そんな頃。
こんな油断しそうな状況でも慎重にハンドルを握れる様になっていた。
住宅街に入って行くと向かい側にトラックが停まっている。道幅的にはスライドできそうだし、道の状態も良さそうだ。
スライドというのは車同士がすれ違う事らしい。さっきスライドしたよ!とか、ここスライドできないよ!と使う。なんだかかっこいい。
ゆっくり、慎重にスライドする。
左手には電柱がある。ゆっくりと右のトラックも意識しながら進むと左右ともに7.8センチは余裕がありそうだ。イケる!そう思った瞬間、ダンプが左前に傾き電柱に左ミラーがコーンとぶつかり、ポトッと落ちた。
え?えーーーー?なに?えー?
スライドをしてから、ダンプを降りてみに行くと、そこには通る前には見えなかった穴があった。排水溝である。平らな雪道を偽装していた排水溝である。
こんな天然の罠まであるのか。
「すみません。左のミラーぶつけてこわしました。」
「大丈夫?怪我は?」
オペさんから無線が入る。
「怪我はないです。電柱にぶつけたんですが、電柱も無傷です。左ミラーが落ちました。」
「あーわかったよ〜一回会社戻って社長に言って。オレからも電話しとくから。左ミラーないとあぶないから、ゆっくり戻ってね。」
振り返っても何も見えないトラックのサイドミラーはとても重要だ。
左のミラーがないだけで視覚のほとんどを奪われたかの様に動けない。
会社に戻ると社長に予備のミラーをもらった。ぶつけた状況を説明し、謝る。
「みたら分かると思うから、ミラー自分でつけて。あせんなくていいから、あースライドできないなぁって思ったら待てばいいから。遅れるならオペに無線いれればいいから。なんせゆっくーり、あずましくやって」
社長の声質は実に脳に残る。
ちなみに、今、2年目の除雪ダンプに来ているのだが、昨日右のミラーを割った。
あれは自分は悪くない!!すごいスピードで大型が向かってきたので左に寄せるだけ寄せて20キロくらいに減速した。大型は減速しない。上り坂だから仕方ないとは思う。が。あのスピード。
スライドした瞬間右のミラーがパキーンと割れた。窓あけてたら、刺さってたな。
すぐ停まったが、大型は止まらず、雪でナンバーもみえず…
恐ろしい。
たまに粋がってる大型がいるからな、とっちめたいな。と社長から自分へのおとがめは無かった。
1年目に話を戻そう。九死に一生とはこのこと。
ジェットコースター事件。
あれはだいぶ回る家も覚えてあまり地図も見ないで仕事ができるようになってきた頃だった。
いつもいっている家の道がいけないとのことで、一個先の道から回ってきて、と無線が入った。
雪で見えず、一本さきではなく、二本先の道を曲がってしまった。
気づかずに緩やかな上り坂を登っていくとT字路にでた、最後だけ急になっていたので勢いをつけて左に曲がる。
するとそこには絶景が!!
絶景が!!じゃない!これはヤバイ!
物凄い急な下り坂。
100メートル下の方にオレンジ色のタイヤショベルがある。
「え??えーーー??なんでそんなとこにいるの?」
と、白髪のオペさんから無線が入る。
あとで笑い話になったあとに白髪のオペさんは、丘の上にヤギがいるみたいだった。といっていた。
「大丈夫?え?どうする?え?え?」
いつも冷静なオペさんがテンパっている。
もっとテンパっているのは自分である。
すでに勢いがついて半分以上下り坂にダンプは入っている。
「バ、、、バックしてみます!!」
サイドをひき、バックにギアをいれ、坂道バック発進!
スリップ!ブレーキ!!
ブレーキを踏んでるが勢いですべってダンプが落ちていく。ものすごくゆっくりだが滑り続ける。車体が傾く、左側は民家はあるが崖である。
本当にどうする事もできない。意味も無くブレーキに力を入れる。ものすごくゆっくりズルズル滑っている。このままいくと、崖に建ってる家の屋根に落ちる!!
ヤバイ!!
と、思ったら、ピタッと停まった。
なんだ???助かった???
オペさんから無線が入る。
「どういう状況?ん?なんかちっちゃい壁にくっついてる?」
ダンプから降りると、スノーブーツでもツルツル滑る。慌てているため転んでしまった。
ダンプの前をみると高さ30センチくらいのものすごく低い塀があった。そこの角にちょこんとバンパーがくっついている。
この塀が無かったら、この塀が無かったら、この塀なかったらヤバかったー!!!
すぐさま塀に、いや、塀様に頭をさげ「ありがとうございます」と言った。もちろんこの後この家の人にも頭を下げた。
塀様は1センチくらいかけただけでおとがめは無かった。
歩いてオペさんが見にくる。
「危なかったねぇ、これはおれのタイヤショベルじゃ引っ張れないな。」
ほどなくして、社長が馬鹿でかいタイヤショベルが現れた。
社長は真面目な顔をしていたが、自分をみたら笑い顔になった。
「やいやいや、とりあえず無事でよかった。それにしても、よくこんなとこきたなぁ」
笑っている。
「こりゃ、、、引っ張りあげんのは無理だな」
笑っている。
困難な課題にぶち当たると、楽しめるタイプの人らしい。考えている姿がなんだか楽しそうにみえた。
「壁から引き剥がすくらいはできるから、その後はダンプで直滑降だな。砂いっぱい持ってきたから、みんなでまくぞ!」
みんなでダンプ周りに砂を撒いた。
砂を撒いている最中、自分は全然怒られなかったが、白髪のオペさんが社長に怒られていた。
「だめだろ、まだ慣れてないんだから、変なとこいっちゃうことも考えてダンプ動かしてな!」
ごめんなさい、オぺさん。自分のせいで怒られてしまって。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、砂を撒いた。
「よし、じゃあ、引っ張るから、ダンプ乗って」
「!?」
「どした?早く乗れ」
「すみません、自分、直滑降、自信ないです!!」
この坂を、このダンプで降りるだと…
無理だ。どうしていいかわからない…
「大丈夫だ。ただ、ブレーキかけるなよ。100%滑る。滑ったら激突だ。エンブレもだめ。下の方で平らになったなぁ、という所で三速でエンブレ。エンブレも途中でかけたら、滑って激突すっからな。途中でエンブレかけてしまいそうだったらニュートラルにしてな!大丈夫だ!頑張れ」
マジっすか〜これはやらなければいけない雰囲気。
運転席に乗り込むと、物凄い前傾姿勢になる。恐ろしい眺めだ。シートベルトをしめ、無線を入れる。
「準備できました。」
「おーっし、引っ張るぞ」
ゴゴゴゴゴゴッ
ダンプが真っ直ぐになる。
絶景である。
道幅がほぼダンプ。
ちょっとでもハンドルをきれば激突。
この光景は、スキーのジャンプ台に似ている。
そうだなぁ、スキーで滑ったら楽しそうな坂だなぁ。なんて思っていたが無線で現実に戻される。
「ブレーキふんだか?スリング外すぞ?」
「はずしたぞ!自分のタイミングでいいからな。」
「はい…あ、でも無理かもなんでカウントください」
「あはは、いいよ。いくよ!3...2...1...ゴー!」
ブレーキを離した。
はじめはゆっくりと、巨大な物が動き出した感じのスピードで、、、すぐに猛スピードになった。
もう、頭は空である。
ただ、ガタガタして景色が過ぎた。
正直、あまり覚えていない。
エンブレをかけたタイミングも思い出せない。
ただ、無事に、坂の下にいた。
「な、大丈夫だろ」
社長から無線が入る。
ダンプからおりて坂の上をみると、あんなに大きいタイヤショベルが小さくみえた。
あんなところから。。。この巨大なトロッコでおりてきたのかぁ。ゲームみたいだなぁ。
だいぶ度胸はついてきた。ただ必要なのは度胸だけではなく、冷静な判断。これが相当必要だ。
ぶつけた。といえば、今年2022。
先週、またぶつけた。国道で雪山に突っ込んだのである。
この週は札幌で大雪注意報がでており、久々のドカ雪期間であった。
そんな連日、昼夜除雪をして3日目の朝方である。
ダンプで待機中、窓を開けて、しんしんと降り続ける雪を眺めていた。今日の雪は軽いが粒が大きく、等間隔で垂直にゆっくりと少し明るくなった夜空からおりてくる。暖房が効き過ぎたので窓から手を出していると、
手の甲に落ちた雪は、肌に吸い込まれるように溶けた。
そうだ、全部こうやって溶ければいいんだ!
と、思ったが、
あ、それがロードヒーティングか。と1人納得する。
そういえば、ここの社長が降ってる雪をみて
「あ、金が降ってきたなぁ」
といっていた。
たしかに、この忌々しい雪のおかげで仕事があるわけだ。
なんていうプチ哲学をしていたら、無線が入る。
「カラオケの駐車場にむかって」
「はい、了解です。」
その向かう途中での事故である。
道はアスファルトが少し出ており、走りやすい。それでも40キロくらいで走行していた。
サイドミラーをみると追い越し車線から大型のトラックが結構なスピードでくるのがわかる。
左のサイドミラーをみながら、ギリギリ左に寄せた。
その時!
左前タイヤが道の脇にある雪に引っ張られ、ハンドルが強制的に左に引っ張られた。
抵抗すると同時にエンブレも効かせたが、そのまま雪に吸い込まれ、ダンプは120℃回転、国道を塞いだ。
幸いにも降り続いた雪でフカフカだったため、ダンプも自分も無傷。
でも、物凄く怖かった。死ぬかと思った、とはこのことだろう。
次の日から、無線にお守りをつけた。
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