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特別支援学校をどう選んだか

前回の記録、「特別支援学校に入学してから1年」では、通学している特別支援学校の様子をお伝えしました。今回は、その入学前に考えたことや見学した過程でどのように学校を決めたのか思い返していきます。私の見学記録や主観での情報ですので事実と異なっている可能性が十分含まれていることにご留意ください。決して学校の優劣を定めるものではありません。


入学を検討した特別支援学校

保育園から小学校選びは、特別支援級と特別支援学校の両方を数多く見学しました。中でも最終候補で検討したのは以下三つの学校でした。

筑波大学は国立で数少ない特別支援学校が存在する学校で、知的障害、自閉症の他にも肢体不自由などいくつかの専門領域に分かれて特別支援校が存在しています。最終的に以下の要素から利点が大きいと考えました。

  • 大学による知的障害に対する研究と支援が一体化していることから、発達支援に対して先端的な知見が備わっている可能性

  • 附属校なので小中高と一貫校であり、支援の一貫性が保たれることや、日常生活の一貫性が維持できる可能性

  • クラスに常時複数人の先生が配置されるため、放置される可能性が極めて低い可能性

特に久里浜特別支援学校は、日本で唯一の自閉症専門の特別支援学校であり、立地も海岸通り沿いにあり海に面しており非常に見晴らしの良い場所にあり、のびのびと育つには良い環境ではないかと思いました。全ての学校は素晴らしく、どこにおいても特別支援が必要な子供には最高の環境が提供されていると思います。それぞれの特徴と、自閉症の息子との親和性をどう捉えていったかを振り返ります。

筑波大学附属大塚特別支援学校

大塚校は文京区に位置し、丸の内線の春日駅または後楽園駅から歩き中央大学理工学部の坂を登りそこの裏手にあります。国立大学附属であるため、特別支援学校ですが「入学試験」が存在します。試験内容や合格に有利な理由等は公開されていません。しかしおそらくは後述する久里浜校の受験内容から推察すると「学校との適正(学校方針に沿った障害のタイプか)」「通学可能性」「親の障害に対する理解や取り組み状況」が大きく影響すると想像されます。お子さんの状態に加え、親側の状況も多分に影響すると推測しています。都内で唯一の国立大学附属の特別支援学校であるからか、私が学校説明会に訪問した時は非常に多くの見学者が訪れていました。入学できる数はかなり限られており、入学倍率は非常に高いと想像されます。当時の見学回の回数と参加人数から勝手に想定しただけでも数十倍の入学倍率になっているだろうと思います。教育カリキュラムを知りたい方はこちらのページ最下部のPDFを参照しましょう。

正確な情報は提供されていないため不明ですが、大塚校は「知的障害を対象に」ということで非常に多岐にわたる障害のタイプのお子さんがいるように見学時に思いました。奇声が止まらない子もいれば、普通に話せる子もおり、ダウン症や発達障害のいずれかに該当しているだろうと思われる子など多岐にわたっていたように思います。学校見学では授業はクラスの外からしか確認できませんが、5-6人のそれぞれのクラスには一定程度同比率で同じタイプの障害を持つ子が割り当てられていたように見えました(推測なので当てになりません)

大塚校を選択しなかった理由

大塚校を選択しなかった理由は以下のとおりです。

  • 学校施設が古く、奇声が響きやすく(奇声自体は否定するものではない)聴覚的な過敏さに対処能力がまだなかった息子にとって、学習以前の環境として適していないと考えた。

  • 通学バスの提供などがなく交通の利便性が高くない。障害の状態によっては区役所から提供される移動支援が十分な回数コミットできるかどうかわからなかった。

当時の息子は、本人にとって拒否を行動で示してしまう音声に「赤ちゃんの鳴き声」「奇声」「甲高い音、雑然とした大音量」がありました。こうした状況が不確定に発生すると、「いつ不快な音声が聞こえるかわからない」という予期不安が優位になってしまい (息子はパニック障害の傾向はありませんが) 高いレベルの発達支援を受ける以前に学習環境として本人に合っていない懸念が払拭できませんでした。また施設の古さと立地に対して、通学バス等の提供がなく、当時文京区に在住していたわけでもないため、移動支援が十分な数確保できるのかどうか明確にできませんでした。そのため大塚校は選択肢から外れました。息子にとって最適な学習発達環境であるかどうかや、通学可能性を検証した結果であり、学校の優劣について何がしかの不利があったということではありません。

筑波大学附属久里浜特別支援学校

久里浜校は、神奈川県横須賀市に位置し、野比海岸に国立特別支援教育総合研究所と施設的には同じ場所にあります。最寄駅はYRP野比駅で、駅からはかなりの距離があります。京急久里浜駅まで行ければ、品川駅までつながっているので、在宅勤務でも構わない私の会社雇用においては横須賀市への引越しも検討しており選択肢に入りました。また、国内唯一の「自閉症専門」の特別支援学校であることから、以下の利点があると考えました。

  • 自閉症専門であるため、自閉症児の特徴を理解した先生の方々が自閉症対応に特化している

  • 学校施設が自閉症に多い言語、口語能力の欠如を補うように、登校時の部屋、勉強を行う部屋、体育や音楽の部屋などレイヤー構造になっており、日々のルーティンや理解が言語に依存せず体験的に理解できるようになっている

  • 生活自立が目標になっているため、宿泊施設などが組み込まれている

  • 久里浜という立地が海に近く、騒音もなく自然環境に優れている

また久里浜校も国立であるため「入学試験」があります。大塚校のように膨大な見学者という様子はなく、本気で通うことを親が決定できれば、倍率は高くないものと推測されます。また試験内容も同様に「学校との適正(そもそも自閉症専門)」「通学可能性」「親の障害に対する理解や取り組み状況」などが考慮されていると思います。また何度か見学や先生方とお話をさせていただく中で、「自閉症でも喋れるようになる子も多くいる」「一定程度発達が見込めれば支援級への転籍をするケースもある」等、非常に救われた気持ちになる程よく自閉症をご理解いただける環境であると思います。また複数のタイプの知的障害時がいるわけではなく、沿岸部の立地であるため、奇声や音声の心配もありませんでした。施設のサイズに対して在籍する生徒の数は少なく非常に落ち着いた環境であると記憶しています。

久里浜校を選択しなかった理由

国立附属の自閉症専門であり、立地や施設も息子にとって良い環境であるのは間違いがありませんでしたが、久里浜校を選ばなかった理由は以下の通りです。

  • 自閉症専門の特別支援学校であるため発達支援の専門性は極めて高いが、逆を言えば自閉症児しかいないため、毎日多くの時間を同じ自閉症児と過ごすため社会性の発達にプラスになるかどうかは不明

  • 周囲の療育施設やサービス環境が良いものであると感じるものが少なく、総合的な発達環境としての懸念が払拭できなかった

特に最初の要素は見学の際、実際に久里浜校の先生が真摯にお伝えくださったポイントで、新たな視点として非常に感謝しました。息子は言語発達に著しい遅れがあり (K式発達診断で6歳時点で2歳程度)、必然的に社会性の発達が中期的には課題になると考えていました。大人とのコミュニケーションは、大人側の配慮があるため成立しますが、同年代の子供同士では「自分の思い通りにいかない」「何かを一緒にやる」という経験が社会性の獲得につながると思います。自閉症の世界では、一人で何かに集中するか、1:1 の状況でのみコミュニケーションが成立することが多く、共同注視や模倣のタイミングが極めて限られています。自閉症児だけの世界で育つと、ゆくゆく社会で一人で行動する必要がある場合において、マイナスにはならずともプラスには働かないという観点があると思いました。

私自身は、自閉症の息子が将来アスリートになったり、学者になったり、ある日突然健常児になったり天才になったり、といったことは求めていません。なんとか社会の中で自分なりの自立した生活ができ、幸せを感じる方法や、二次障害のリスクに打ち勝てる自立の力を発揮できさえできればと考えています。それを考えると、あまりにも通常の世界から隔離されて長い学生期間を過ごすことは社会性の学習機会を逸することになるのではないかという懸念が拭えなかったため、選択肢から外すこととしました。

臨海青海特別支援学校にした理由

結果、東京都と神奈川を駆けずり回って、臨海青海特別支援学校に決めたのは、今まで述べてきた課題がある程度バランスよく解決されているからだったと思い返しています。

  • 学校施設が最新で広く、カームダウンスペースが用意されているなど自己防衛を可能にする配慮がなされている

  • 自閉症傾向の児童に対する社会性の学科が組み込まれている

  • 毎日通学バスが提供されており、交通利便性がある

  • 今まで通っていた療育施設に引き続き通えるため学校以外の学習発達環境が維持できる

  • 副籍交流などで定期的に通常の小学校を体験できる

  • 自閉症専門の学校にいたからと行って自閉症が治るわけではない、目的は自閉症であっても幸せに生きる力を身につけられること

あくまでも、もともと都内沿岸部に在住していた環境から見て比較してきた場合で合って、必ずしも私の選択が誰かの最適な答えになるわけではありません。ただ日本には国立附属の特別支援学校もあり、私たち親が本気になれば、最善の選択肢を検討できる環境があります。自閉症への理解が深いイギリスへの引越しなどを検討することも手段の一つではないかと思います。私は特別支援学校を選んでいくにあたり、わずかでも発達を進めていく上で子供の障害特性と学校環境に適性があるかどうか、学校だけでなく、日々の生活を通じて発達に貢献しうるかどうか(療育環境、福祉サービス、遊びに行ける場所や交通状況)、そして最終的な発達の目標に向かってプラスに働くどうかの視点で見てきました。これが正解なのか、大きなミスなのか、それは全くわかりません。ですが親が必死になってランドセルを選んだり受験したりするように、私もかけがえのない親バカ活動をできた、そこは悔いを残さなかったと今は思えています。

次回は、今までやってきた食事と体調の関係を思い出してみようと思います。

Image by Midjourney
/imagine Special Needs Education School for Children with Autism



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