髄の年輪のモノローグ 第15回 SAKEROCK『慰安旅行』

 高円寺に「円盤」というお店がある。ものすごくざっくり言うと「イベントも喫茶もできる、自主制作盤をメインに取り扱うインディペンデントなCD屋さん」ということになるんだろうけれども、それだけではとてもとても表現しきれないので、実際に足を運んでみるのがいちばん良いと思う。
 その円盤が主催する「円盤ジャンボリー」というイベントがあった。会場は渋谷O-nestで、毎回だいたい3days(1日だけの時もあれば5daysの時もあった)。「6階がバーフロアで5階がライブフロア」という間取りを生かし、両フロア同時進行でライブやパフォーマンスや展示が行われていた。全国津々浦々からインディペンデントなアーティストたちが集結していて、見本市としての側面もあったように思う。日別のタイトルに「SHOWCASE」と入っていたりもしたし。
 で、その円盤ジャンボリーの初回の初日に出演していたうちの1組が、SAKEROCKだった。2004年のことだ。

 出演順はかなり早めで、トップから3組以内くらいだった記憶がある。20代前半くらいのお兄さんたち4人組が、エキゾチックな香りのするゆったりとしたインストを奏でていた。ゆるくて渋くて大人っぽい音楽なのに、演奏しているメンバーは大変若いのでギャップに驚いた。おそらくあの日の出演者の中で最年少もしくはそれに準ずるくらいの若さだったのではないかと思う。白髪混じりのおじさまたちが演奏するような音楽を、どうしてこんなに若いお兄さんたちが……と最初は思ったが、その認識は間違いだったと気付いたのは、わずか数分後のことだった。
 彼らの音楽は、ただゆったりのんびり優しいだけではなかったのだ。急に曲調が変わりテンポが倍になったり、小柄なのに異常に存在感のあるトロンボーンのお兄さんがテンション高めに喋ったり、謎のパフォーマンスをしたり。罠が多すぎる。しかも、滑らない。トロンボーンのお兄さんのパフォーマンスはたまに滑っていたが、しかしその滑りっぷりも含めてひとつのパフォーマンスなので、つまりトータルで見れば滑っていないことになる。たしかに、これはおじさまたちにはできない。そして時々そのパフォーマンスに介入してくる銀縁眼鏡で坊主頭のギターのお兄さん、逆に全く意に介さない様子のウッドベースのお兄さん、その様子を後ろから見ているドラムのお兄さん。全員が全員、それぞれに独特な空気を醸し出していて、それが良い塩梅に混ざり合っているような印象を受けた。
 さらに、演奏が恐ろしいほど上手い。何をどうしたらその年齢でそんなにも上手くなるのか、想像がつかない。そもそもこの人たちは本当にそんなに若いのだろうか、いやどう見ても若いし、若さがないとこのパフォーマンスは厳しいし、でも演奏は上手すぎるし……と自問自答を繰り返しているうちに、私のSAKEROCK初体験は終わっていた。
 (ちなみに、後日調べたところ、当時のメンバーさんは全員20代前半だったので、「若い」という前提条件は間違っていなかったことになる)

 それ以来、あまりにも気になってしまい、当時出ていた音源を揃え、ライブに行くようになった。当時の彼らはまだ小規模なライブハウスでの対バンライブに出ることが多く、ソールドアウトになることもほとんどなく、気軽に観に行きやすかった。トロンボーンのお兄さんのパフォーマンスがどんどん派手になったり、ギターのお兄さんの介入具合がどんどん増えていったり、リズム隊のお二人が時々巻き込まれていたり、しかし演奏は衝撃的に上手く、しかもクールなのに情熱的。相反する要素がマーブル模様のように混ざり合うことで形を成しているバンドだと思った。すっかり癖になってしまい、何度も観に行った。
 NHK-FMの『ライブビート』という番組の公開録音にも行った。トロンボーンのお兄さんがいきなり全身金色のジャージ(?)を着て出てきて、いつものように滑るか否かギリギリのパフォーマンスをしていた。ラジオなのに。服も動きも見えないのに。
 そして、そうこうしているうちにフジロックや他の夏フェスに出るようになり、噂が噂を呼んだのか集客も増え、大型ライブハウスでワンマンをするようになり、ギターのお兄さんのソロ活動も活発になり、ベースのお兄さんが脱退し、そして……私が彼らを知ってから11年後に解散ライブを行うことになる。

 言うまでもなく、トロンボーンのお兄さんは俳優としても大活躍の浜野謙太さんであり、ギターのお兄さんは言わずと知れた星野源さんであり、ベースのお兄さんはHei Tanaka等でお馴染みの田中馨さんであり、ドラムのお兄さんは引く手数多すぎる伊藤大地さんである。野村卓史さんは既に脱退した後だった。
 現在の各メンバーさんの輝かしい活躍っぷりは本当に素晴らしいことだと思っている。家族がドラマを観ている時に「あの馬の歯医者さんは私がよく観に行ってたバンドのトロンボーンの人だよ!」なんて紹介したりもしている。でも、「私はあくまでも“SAKEROCK”が好きだったんだな」と思うことも、正直なところ、よくある。懐かしくて、ちょっと切ない、そんな思い出。


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掲載日:2020年3月15日
発売日:2004年4月17日(※オリジナル盤)
(15年10ヶ月27日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
https://note.mu/qeeree/n/n0d0ad25d0ab4

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