髄の年輪のモノローグ 第10回 YELLOW MAGIC ORCHESTRA『SOLID STATE SURVIVOR』

 私には叔父がいる。母の弟。物心ついた時からずっと、祖父母宅の2階に住んでいる。

 私は一人っ子で、親は共働きだったので、小学校を卒業するくらいまでは祖父母宅に預けられることが多かった。平日は学童保育、学童がない時は祖父母宅、という流れ。
 祖父母宅の1階には大きな書庫がある。かなり大きく、もはや気軽に「本棚」と呼べる規模ではない。そこに叔父の所有物がぎっちり詰まっている。ハードカバーの本が8割、CDが1割、撮りためたVHSテープが1割といったところ。それ以外にはテレビと新聞とワープロとガットギターくらいしか娯楽はなく、たまにならともかく、頻繁に行き来しているとさすがに飽きてくる。ので、その書庫に手を伸ばしたくなるのは必然ではあった。
 もちろん叔父には予め許可は得たが、特に「あれはダメこれもダメ」等の指定もなく、自由に中身を見させてくれた。書籍は小学生にはまだ早かったのと、そうでもないものは趣味に合わないのとでイマイチだったけれど、VHSテープとCDは大変楽しませて頂いた。

 VHSにはアニメが録り溜めてあった。『らんま1/2』や『うる星やつら』、おそ松さんではなく『おそ松くん』、などなど。劇場版もあった。小学校中学年の私が『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』に(話の筋を概ね理解した上で)夢中になるきっかけを作ったのは、間違いなくこの叔父である。その後、私が自宅で『新世紀エヴァンゲリオン』リアルタイム放送時の初回を偶然目の当たりにしてスッと入っていけたのも、同じく『カウボーイビバップ』のテレビ東京での初回を偶然目の当たりにして一瞬で好きになったのも、この頃に培った下地のようなものがあったからだと思う。

 そして、CD。今考えるに、オシャレでも大規模でもない西多摩のCD屋さんでもサクッと買えるような、しかしその中でもなんとなくどことなく、こう、ちょっとニッチというか、我が道を行く感じの雰囲気を纏うアーティストの音源が並んでいた。ちなみに母は音楽は聴くけれど詳しくはなく、持っているCDは小田和正さんとか嵐のベスト盤とかそういう感じで、つまりその書庫のラインナップには母(と祖父母)の趣味は介入していないことになる。
 祖父のコレクションを取っ替え引っ替え聴いてみた中で、個人的に特に気に入ったのは、70年代〜80年代頭のサザンオールスターズと、イエロー・マジック・オーケストラだった。サザンは私が物心ついた時には既に大物バンドになっていたので、さすがに名前も代表曲も知っていた。惹かれたのはその曲ではなかったけれど。
 しかし、イエロー・マジック・オーケストラのメンバーや背景については、当時はよくわからなかった。そして、90年代半ばの田舎の小学生には、調べることすらできなかった。なにせスマホもパソコンもインターネットもなかったし、ひとりで図書館に行ったところで、どの棚の何を探せばいいのか見当がつかなかった。司書さんには聞けなかったし、音楽のこと(を調べるためのこと)を聞くという発想もなかった。
 そのYellow Magic Orchestraがとても偉大なバンドであることと、正規メンバーもサポートメンバーも大変な重要人物ばかりであることを知ったのは、中学生になってからだった。

 大人になってからなら「テクノが云々」とか、「メロディがどうこう」とか、いくらでも言える。しかし、音楽好きとはいえ何の知識もなかった小学校高学年の頃の私は、YMOのどこを好きになったのだろうか。
 20年以上前の自分に直接聞くわけにはいかないが、おそらく、「フィクションの未来が見えるところ」だと思う。
 YMOが登場した1970年代には、超初期型のパソコンはあったけれど大変高価で、インターネットの原型のようなものはあったけれど今のように自由で広大なものではなかった。それ以前から見れば大進歩だとは思うけれど、あまり未来っぽさはない。しかし、当時のYMOの音楽を聴くと、ありありと目に浮かぶのだ。ビルが立ち並び、車や電車が空を飛ぶ、ギラギラのメトロポリスが。SF的な未来の風景が。それは2020年の今聴いても変わらない。当時の技術とメンバーのセンス及びスキルで、しかも音楽だけで、サイバーな未来の姿を世界中の人に見せたというのは大変な偉業だと思うし、それに触れた私がすっかりSF(とYMO)好きになったのも、さもありなん、といったところだろう。
 (余談だが、映画『ブレードランナー』のあの感じは、小学生当時の私が70年代のYMO作品を聴いて得たイメージにかなり近い。公開は1982年なので、「70年代を生きる人から見た未来の図」という意味でもかなり良い線いっていたのかもしれない。しかし私がブレードランナーを知ったのは大学生になってからである。しかも原作とされている『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は1968年発表である)

 そして、私はそのまま成長し、SFやアニメを好む大人になったのだった。叔父による(叔父本人が直接何かをしたというわけではないが)英才教育の賜物だと思っているし、子供の頃の私の引き出しを(少々レアな方向に)広げてくれたことには今でも感謝している。よく考えてみれば、上述の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』もSF要素のある作品だし、その時から既に趣味嗜好の方向性が定まっていた可能性もある。しかしそれを観るきっかけを作ったのも叔父である。
 ちなみに、叔父は私の趣味嗜好のことは知らない可能性が高い。でも私がもの書きをやっているのは知っている。ならば、数年後の還暦祝いにSF長編小説を書いてプレゼントしてみようかしら。70年代YMOの音楽で見た景色のような、ゴリゴリにハードな感じで!


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掲載日:2020年1月5日
発売日:1979年9月25日
(40年3ヶ月11日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
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