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2023年、「うんこなう」が戻ってくる

その昔、というか7年前になるが「mnmm(ミニマム)」という、「最小限の機能しかないソーシャルメディア」というテーマのサービスをつくったことがある。ベースとしてはTwitterだが、フォロワー数は表示されないし、誰に見られているかも特にわからない。リツイートなども無く、ツイートがバズったりすることも無ければ炎上することもない。フォロワー数を人と比べたりとか、Like数を人と比べたりとか、そういうような「ヒエラルキーを生む要素」は徹底排除する、という考え方のサービスだった。

これは、実は自分が2010年代に手掛けたいろいろなものの中でも、全くと言って良いほど流行らなかったものの1つで、しかしそれでいて、「作品」として考えると結構自信作だったプロジェクトだ。最終的に、当時在籍していた会社の社員の愚痴が飛び交う「会社裏サイト」的な状態になって終わった。いや、しかし、何を書いても許される、心理的安全性に包まれた場所であったことは間違いない。私は毎日のように使い続けていた。

「mnmm」というのは「ミニマム」と読む。サービス名を決めるまでは、「Twitter2」という意味を込めて、「T2」というコードネームで開発していた。

で、最近見たニュースで驚いたのがこれだ。

ほぼ、同じ考え方で同じ名前でスタートアップをやっている人がいる・・・・。そして言い換えれば、ソーシャルメディアに漂っていた居心地の悪さのようなものは、7年前も今も課題としては変わっていなくて、ネクストステップに行きたくても行けていない、ということでもあるかと思う。

(人によるけれども)昔のTwitterでは投稿できても、今のTwitterでは投稿しづらいタイプの投稿がある。それは「うんこなう」みたいな投稿だ。「うんこなう」、つまり、特にそれを見る人にとって意味は無いが、発信者が「今何してる?」という状況を発信するタイプの投稿だ。

今のソーシャルメディアは、ある種の言論空間になってしまっている。ゆえに、「うんこなう」みたいな無意味な状況共有をされても、特に興味を持ってもらえないし、ノイズと捉えられてしまう。mnmmには、「うんこなう」みたいなどうでも良い状況共有が(少人数ながら)あふれていた。

挙げ句の果てに、人気のツイートが優先される方向のアルゴリズムの変更で、興味を持ってもらえない状況共有などは、そもそもタイムラインにも出てこなくなってしまった。

しかし、本来のTwitterとは、「状況共有ツール」だったのだ。その名残が、最近物議を醸しているTwitter APIのコマンド名にある。

「投稿をする」というコマンドの名前は、今も昔も「statuses/update」「状況のアップデート」だ。そもそも、「うんこなう」を友だちに共有するサービス、というのが最初の設計だったはずで、実際、全Twitterの最初のツイートであるジャック・ドーシーのツイートは、「自分のツイッターつくったぜ」という状況共有だし、このURLの「20」のところを変えて、ごく初期のTwitterの投稿を手繰っていくと、状況共有の発信ばかりだ。

そして何より、Twitterの投稿フィールドに表示されているガイドの文字列は今の今でも、「いまどうしてる?」だ。投稿すべきは自分の状況なわけで、主義主張とか、罵詈雑言とか、そういうことではなかったのだ。

最近流行りの「Bondee」は、自分の3Dアバターを通した友達との交流SNSみたいな感じのサービスだ。ちょっと触ってみて「ああ。これは原始Twitterだ。」と思った。自分の状況共有をして、限られた友達だけにそれを伝えることに最適化された仕組みになっている。実際、言いたいことが無くても状態を「仕事中」とか「休憩中」とかに変更するだけで、3Dアバターがテキストの代わりにその人の状況を表現してくれる。

実際、Bondeeの投稿欄となる吹き出しには「+Status」と書いてある。狙いは明白だ。

このサービスを「ついにやってきたメタバースの本命」みたいなふうに言う人もいたり、そういう向きの人たちが一斉に盛り上がっている感もあるが、私は、「あ、これは久しぶりに『うんこなう』できるやつだ」と思った。

2023年、人類はついに、「status」と「うんこなう」を取り戻すことになるのかもしれない。

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