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0327「喪失から生まれるもの」

ウィリアムズバーグの奥地で打ち合わせ兼取材。仕掛けている新しい仕事を手伝ってもらおうと思っているチームに新しいプロジェクトの説明をしつつ、彼らのオフィスは、複数の会社で集まってつくっているシェアオフィスならぬシェアファクトリーというか有志でDMM.makeをやっているような場所ですごく面白いので、FINDERSの連載で書こうと思って取材してきた。いつ行っても面白い場所だが、家からすごく遠い。

ここのところ、体感的には多忙度がガンガン上がってきていて、TODOリストに溜まっている原稿作業が積まれている。この日記なんかは別に真面目に書いていないのであれなのだが、毎日書いているのでいい加減な文章を書くくせがついてしまってとても良くない。真面目に文章を書くのはとても時間がかかる。どこかでちゃんと時間をとって原稿を書く日をつくらなくてはいけない。お待たせしている皆様すみません。

来週からのいろんな国への出張ツアーが、結構自分にとっては勝負ツアーで、出目次第でいろいろ人生変わりそうな感じがしているので、いろいろ準備を重ねているが、うまく行ったり行かなかったりする。金曜日は機材チェックでニュージャージーの奥地に行かなくてはならないので、今日と明日しか時間がない。わりとやばくて、わりと吐きそうだったりする。

こうバタバタしているときにボトルネックになってくるのが↓キーだ。

私は伝統的にキーボードを打つ音がうるさい人間だ。そこそこ筋肉を使って着実に文字を入力するタイプ、というかたぶんこれは、実はブラインドタッチができないことに起因する。ブラインドタッチできないのだ。もちろん画面を見ながら手元を見ないでキーを叩いているし、そういう意味ではブラインドタッチだが、いわゆる、正しいフォームではない。あの、キーボードのポッチがついているところに人差し指を置いて〜みたいな正しいポジショニングでキーを打っていない。どちらかというと右手が全キーボードの3/4くらいを支配していて、左側の1/4を左手で打っている感じで、つまり「左寄り」の体勢でキーボードを打っている。今もそうだ。画面に対して身体が左寄りになる。

これは何でかというと、もちろん若い頃にブラインドタッチの練習などをしないまま育ってしまったからではあるのだが、恐らく、ヘビースモーカーだったからだ。私は1日3箱ハイライトを消費する、喫煙者中の喫煙者だったので仕事をしているときなども常に片手というか左手にハイライトを持って作業をしていた。今では信じられないが、マガジンハウスのターザン編集部で仕事をしていた頃などは、デスクで喫煙してもOKだった。ガンガンにハイライトを喫いながら、「タバコは筋肉に悪い」みたいな記事を流し込んでいたりした。

で、そういう際はたいがい左手の人差し指と中指の間にハイライトを挟んで作業をする。つまり、左手をあまり縦横無尽に動かすと、灰が落ちるし煙草が安定しない。ので、なるべく左手の動きを最低限にして、煙草を持っていない右手をフル活用するストロークにいつの間にかたどり着いていたっぽく、煙草をやめることに成功した今でも、そのストロークを引きずって左に寄りながらパソコンに向かっている。で、たぶんそのストロークだと結構右手が大胆に動くので右手側のキーは、叩きつけるように押している。逆に左手側はとても静かだ。

制作会社に勤めていた頃に、同僚のYさんに「キーボード叩く音がうるさすぎる」と真顔で詰められて初めて自覚したが、たしかにとてもうるさいし、恨みでもあるかのようにひどい音を鳴らしている。で、音だけなら良いのだが、困ったことにちょこちょこキーボードが割れるのだ。

コンピュータを使う仕事をやってもう20年くらいだが、一番多く割ったのは当然ながらリターンキーだ。
タタタタターっとコードを書いてリターンキーをパーンと叩いて実行みたいなこともあるし、日本人なので日本語を変換した後にターンと叩くことも多い。
で、ある日予告なしに突然、空手の瓦割りみたくリターンキーが割れる。
リターンキーが割れた場合、仕事ができなくなるのでもうこれはすぐに修理するなり外付けキーボードでどうにかするなり、とにかくどうにかする。

しかし、今現在割れているのはリターンキーではなく、↓キーだ。↓キーは、使えなくなるとそれはそれで非常に不便なのだが、クリティカルではない。↓キーを使いたくなるのは、たとえば、何かを書いていて下の行にカーソルを動かしたい場合だが、マウスでさらに下にカーソルを動かして↑キーで逆流すればどうにかなる。 

IllustratorやらKeynoteやらGoogle Slideやらでオブジェクトを微妙に下に動かしたいときなんかも↓を使うが、これも同じで、マウスで下に動かして↑キーで逆流すればいい。スライドを送るときは、実は→キーでも次のスライドに行けるのでどうにかなる。 

一番困るのはCUIで、macのターミナルとか、SSHでサーバに入ったときとかに、↑↓キーで過去に打ったコマンドを出したりするが、これは↓がないと詰むことがある。が、しょうがないからコマンドCでキャンセルして↑でさかのぼり直す、という感じで対応する。

リターンキーはなくなると致命的だが、↓キーは無くなっても死にはしない。効率は落ちるが、まあどうにかなる。

というわけで、↓キーが割れてはや1年半くらい経過していて、↓キーは無いことがデファクトになっている感じで生活しているが、今日みたいに忙しい日に、マウスで下にカーソルを動かして逆流させる、とかをやっていると「↓キーさえあれば自分は無敵なのに」などと、「↓キーの差」が顕在化してくる。

あるはずのものがない、ということは工夫を生む。工夫というのは、持たざる者のクリエイティブだ。↓キーが無いからこそ生まれる何かがあるのではないか、と思うし、きっとこの喪失が「加圧トレーニング」的に作用して、自分はネクストレベルに行けるのだろうと信じるしかない。

クリエイティブにおける「加圧トレーニング」については、大好きな電通澤本さんのこの文章が素晴らしくて、たまに読み返す。 加圧しなければいけない。


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