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国際デザイン賞審査員長日記・1日目

いまこの文章を、東京からロンドンに向かうエコノミークラスの通路側の席で緑茶を飲みながら書いているのだが、なんのためにロンドンなどに行くのかというと、D&AD賞の審査会に参加するためだ。

D&AD賞というのは、60年以上の歴史を誇る世界でも歴史深いデザインアワードだ。過去、結構な数、つくった成果物が受賞させて頂いたのもあり、審査員としてお招き頂くのはこれで三度目だ。三度とも部門はおんなじで、デジタル・デザイン部門。デジタルテクノロジーを何らかの形で使った様々なクリエイティブのデザインを評価する部門ということになり、いろんなウェブサービスみたいなものから体験インスタレーション、ビッグテックの新製品に至るまで幅広いデジタルなものづくりが審査対象となる。たぶん、とても重要な部門なんだと思う。

で、今回の参加は、過去二回の参加とは趣を異にするものだ。今回私が仰せつかっているのは部門長、もとい審査員長だ。これはどえらいことだ。この記事にあるように、日本人でその職務に当たるのは私だけだったりするし、滅多に仰せつかるものではない。

私は、大学行かないでホリエモン(一般呼称なのでそう呼ぶけど、いわゆる堀江さん)の会社がまだ10人足らずのウェブ制作会社だった頃にアルバイトとして入った。

ホリエモンの会社に、サイバーエージェントの藤田社長が一番最初に訪れた際にお茶を出したのは私だ。私は当時から競馬をよく観ていて、ホリエモンの会社に入り込んだのも、競馬サイトを運営していたから、というのも実はあった。そういう意味で、後にケンタッキーダービーのオーナーになりかける人にお茶を出したのだから感慨深い。

さておき、美術系と全然関係ない大学に行ってよくわかんなくなってフラフラしていた私がデザインという概念に出会ったのは当時のホリエモンの会社だった。と言いつつ、そこでは主にサーバマシンにテプラでラベルを貼る仕事をしていた。

その後、成り行きで近所のグラフィック・エディトリアル系のデザイン事務所に行って美大卒の先輩にボコボコにされたり、プログラマーに転向したり、いろいろあった。こんな記事にしているくらい、アワードというものにも特別な怨念を持っていた。

そんな私が、世界を代表するデザイン賞の審査員長だ。行きがかり上のことではあるし、つくり手なら偉そうにしてないでちゃんとものをつくり続けとけ、という話ではあるが、これはとても名誉なことであるし、オファーを頂いたときはそれはもう喜んだ。周囲に自慢して回りたいほどありがたいことだし、実際いまこの文章を書きながらそれについてドヤっている。

一方で、この仕事はえらい責任と緊張感を伴う。今までいろんな国際賞の審査員をやらせて頂いたが、審査員長って超大変なのだ。自分が一緒にやらせて頂いた歴代の審査員長はみんな大変そうだった。審査員長は、基本的に司会者として議論を仕切らなければならない。審査員の皆さんが遺漏なく意見を交換できるように気を配らなくてはいけない。当然、議論のルールや着地点も考えて進めていかなければならない。審査員同士が言い争い始めたりしたら、まあまあまあまあ、などと宥めなくてはならない。議論が白熱してきたら、「みんな、気分転換に外に出ようぜ」とか提案しないといけない。みたいなことを全部、母国語ではない英語でやらなくてはいけない。当然、通訳なんていうものはいない。

「ジャッジ!」は、業界の先輩が脚本を書かれた広告賞の審査について面白おかしく描かれた映画だが、この映画における審査員長なんてもう業界のフィクサーみたいなポジションだし、なんていうか完全に「あっち側」の人なわけだが、その「あっち側」の人をやらなくてはならない。自分にそんな大物的な振る舞いが可能なのだろうか。

ていうかそれはそうとして、なぜ私はいま、エコノミークラスの通路側で緑茶を飲みながらこれを書いているのか。審査員長みたいな大物というのは、ファーストクラスでシャンパンを嗜むものではなかったのか。せめてビジネスクラスではないのか。エコノミークラスで未読だった「キングダム」を一気読みしているような感じで良いのか。

ともあれ、このような名誉あるお仕事をさせて頂くことになり、これから数日はそれに取り組んでいくことになる。誰にでもできる経験ではなく、新しい体験になるので、たまに書く突発日記シリーズとして、職務を終えるまでのレポートをやっていこうと思う。去年、二級ボイラー技士の研修を受けたとき以来の日記だ。どこかに書いたが、私は日本の二級ボイラー技士として恐らく初めて国際デザイン賞の審査員長となったのではないかと思う。日本のボイラー業界を背負って責務を果たさなければならない。

もちろん、審査の内容や結果については発表まで、一切書くことができないが、来週には発表になるので、どういう話をしたかとかも、最終的には書けるのではないかと思われる。

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