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ファーストフルアルバム「Alexithymia」をリリースしました

まずは、とりあえず完成したものを貼ります。

昨年の9月に、ソロデビューミニアルバム「prime」をリリースし、いろんな配信サービスでの配信を開始した。特にこれといった反響はなかったんだが、ほんのちょっと、数円みたいなレベルで収益が無ではないので、多少お聴きいただけているようではあるし、曲の感想を伝えてくれた方もゼロではなかった。

記事に書かせて頂いたように、私の作曲音楽活動の主な目的は「ストックしすぎた曲名の消化」だ。しかし、こうしている間にも毎日のように曲名が増えていて、作曲のペースが追いつかない。しかし、それでも曲をつくって世に出さないことには始まらないので、毎日10分くらいDAW(作曲するためのソフトウェア)を開いていじっていた。

ある程度曲が溜まったらフルアルバムにして出すぞ、なんて考えて今年の3月くらいを目指してつくっていたが、曲づくりを重ねていくうちにテクニックの向上なんかもあって、以前完成させた曲にも手を入れたくなったりして、調整を重ねているうちにいつの間にか6月になってしまった。一丁前に、アルバム発売延期、みたいな感じだ。

そんなわけでようやくファーストフルアルバムが完成し、配信を開始した。こういうふうにつくったよアピールをしないと誰にも伝わらないので、例によってセルフライナーノーツ的に説明する。

まずこの一年くらい、どんな音楽を聴いていたのか、というのがこういったカジュアル作曲活動には重要になってくるわけだが、もちろん普段聴いているジャズなどは空気を吸うように聴きつつ、大きな影響を受けたように思うのは、M3とかで活動されている同人音楽系の方々、さらにはそことニアミスするような形で、長男がよく聴いているのを小耳に挟んで興味を持っていろいろ教えてもらって聴くようになった最近のボーカロイド系の音楽だ。

私は一人っ子なので、「お兄ちゃんやお姉ちゃんが聴いてた音楽に影響を受ける」という経験はなかったのだが、子供が聴いているものを聴いて「かっこいい!!!」っなってヘビロテするなんていうこともあるんだなあ、と思った。文化的にもいわゆる既存の音楽の広がり方とは違って、「歌ってみた」的な文化は何なのか、などについてもすごく理解が深まった。子供が育つと勝手に新しくて知らない文化を家に持ち込んでくる。このへんが、子を持つ面白さというものなのかもしれない。マインクラフトなんかも完全に子供たちの影響でハマったし。

同人音楽系にしろ、ボカロ系にしろ、独特の文化があるがゆえに変に踏み込んだレビューめいたことをすると痛い目を見そうなのでやらないが、高城みよさんの「embroidery」は、Spotifyで2022年に一番聴いたアルバムだった。高城さんは本当に素晴らしい。最近出た新作も超いい。ボーカロイドだと、完全にヒット曲から入った感もあるが、いよわさんの「きゅうくらりん」などは体感で17億回くらい聴いた気がする。ボカロの世界は、原口沙輔さんの「人マニア」とか、たぶん音楽的に滅茶苦茶なことをやっている曲がいきなり大ヒットしたりするので面白い。

こういったボカロ系も含めたいろんな楽曲を音楽のルール的な観点から解析している動画もあって、作曲する上ではとても勉強になる。普段ピアノや管楽器を弾いたり吹いたりしているとよくわからない別の表現の可能性が広がっているんだなあということがとてもよくわかる。「人マニア」の解析もある。このチャンネルは作曲する上でとても参考になっている。

みたいな感じで、長男の影響を受けたり、自分で勝手に開拓したリスニング傾向に加え、もともと好んで聴いていたKNOWERとか、Sungazerなんかのジャズ風味がありつつ、意外とそういった音楽と繋がりがなくもない、ゲームミュージックとジャズを混ぜたような電子音楽(勝手に、「ピコピコ系ジャズ」と呼んでいる)を好んで聴きつつ、日々ジャズを学習する中で得ていく音楽的な知見とが適当に混じり合って影響を受けながらも、前回のミニアルバム以降、毎日楽曲をつくり続けてきた。このアルバムをつくる過程でとても重要だったなーと感じる音楽をプレイリストにまとめたのでそれも貼る。

まず、アルバムタイトルの「Alexithymia」は、「失感情症」という意味で、私自身が発達障害の特徴の中の一つとして持っている傾向の名前だ。表題曲があるので、曲の説明はそちらに譲りつつだが、なんでこのタイトルなのかというと、自分が初めて発達障害として診断されて、失感情症について調べたときに持った感想が、「なにその横文字超かっこいい!」だったからだ。なんていうか、アルバムタイトルっぽい横文字、ということで、特に自分の気質的傾向を投影していたりするわけではなく、響きが好きなので採用している。

以下、前述の通り、経緯的に、このアルバムに収められたすべての曲は曲名から発想されているので、それを前提とした説明になる。

一曲目の「8K」は、いわゆる8K映像の8Kで、解像度高いパキパキで速い感じの曲をつくろうと思ってつくった。鍵盤ハーモニカの演奏は自分でやっているが、曲調に合わせて加工している。以下、基本的にいろんな曲でソロパートで自分で何かの楽器を演奏して入れているが、前述の、ここのところ聴いていた電子音楽における楽器のソロパートの多くは、ソロを聴かせるというよりは、そこに漂う雰囲気を補強する感じのものが多くて、そのへんに触発というか、これなら自分で演奏しても良いか、みたいに変に勇気づけられてやってみた感がある。

二曲目の「Vaccine」は、つまり、「ワクチン」で、読んで字のごとく、一時期東京の街に徘徊していた「ワークワクワクワクチンチン」というすごいフレーズの広告トラックのキャッチフレーズをサンプリングしている。一応曲名から思いついてはいるが、わりとこのフレーズを使って何かつくる、というのは先にあった気がする。オルガンぽいソロは、家の電子ピアノをオルガンの音色で弾いたもの。

三曲目の「Out of Scope」は、海外の仕事でよく締結する業務範囲の定義書=Scope of workに明記される「これは業務範囲外」という項目のことで、つまり、「業務範囲外」という意味だ。この作曲活動は、自分にとって仕事と関係のない趣味なので、これをアルバムタイトルにしようかなと思ってメモしておいたが、結局曲名にした。ボーカロイドを購入してはじめて作った曲で、ボーカロイドに密教の真言を歌ってもらった。あと、トロンボーンを吹いて録音したやつを加工して入れている。途中でアジっている日本語は、ゆっくり解説メーカーみたいなやつで、ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙的な感じで生成したが、ミックス作業しているうちにそれっぽさが失われてきて、どうでも良くなってきたので加工したままにした。学びとしては、ゆっくり音声はリバーブかけると思ってたのと違うものになる、ということ。

四曲目は「Living Human Interface」は、直訳すると生活者インターフェース。私が先日まで技術アドバイザリーとしてお手伝いさせて頂いていた(いまはやってない)博報堂さんがよく使うフレーズで、いつぞやに酔っ払って曲目候補メモに付け加えたが、なんで自分がこの曲名が良いと思ったのかよくわからない。が。つくらないと仕方がなく、YouTubeで「わかりやすいEDMのつくりかた」みたいな動画を参考にしてつくった。SEっぽく入れているピアノは自分で弾いた。

五曲目の「Permafrost」は、日本語だと「永久凍土」。私が何年も前に新宿の焼鳥屋で、投資の勧誘をして頂いているときに念のため先方の音声を録音しておいたものを使用した。なかなか素敵なパワーワードが散りばめられた会話だったので、永久凍土という言葉から想起される寒々しいイメージと併せて、「あのときの会話をエンバーミングする」ような感覚で仕上げてみた。ビブラフォンっぽいやつは、家の電子ピアノの音変のやつを自分で弾いた。

六曲目は「Influx」「流入」という意味だが、なんか、仕事の話とかしているとわりとよく使う単語というか、個人的に「声に出したくなる英単語」なので曲名にした。曲名通り、何かが流れ込んでくるイメージ。鍵盤ハーモニカのソロは自分でどうにかこなしたもの。後述の理由により、急遽ボーカロイドを導入し、放送禁止用語(sワードやfワードを)を歌ってもらい、さらにはついででゲームのカード落としちゃったなんかのミームも織り交ぜつつ、結果的に変な曲になってくれて良かった。

七曲目「Stalemate」は、それに対して流れが止まっている動きがない感じで、「膠着状態」という意味。とは言いつつ、膠着状態から雪解けしていくような流れで構成している。途中で入ってくるギターソロっぽいフレーズは、実は、一時期レンタルして練習していた、いわゆる「ベースとギターを同時に両手でタッピングで弾ける楽器」であるチャップマン・スティックで演奏している。と言っても両手で弾くにはまあまあ練習不足なので、ギターパートしか弾けず、しかも収録途中にチャップマン・スティックを返さなくてはならなくなって、結局後半のソロフレーズは普通のエレキギターで弾いた。

八曲目はタイトルトラックの「Alexithymia」。前述の通り「失感情症」というタイトルだが、この曲では、初めてボーカロイドを使って歌ものに挑戦してみた。歌ものなので歌詞を書かなくてはならない。しかし、日本語だと言葉の感覚に敏感になってしまって何を書いても気恥ずかしくなってしまう。ゆえに、以前中国語ボーカロイドのライブのお仕事をさせて頂いていたのもあり、この四年間中国語を勉強しているのもあり、中国語で適当な歌詞を書いてみた。中国語のボーカロイド、たぶんいろいろやり方はあるのだが、歌詞を入れるときに漢字ではなくて台湾でよく使われている注音符号というものに置き換える必要があって(理屈はよくわからない)、専用の変換サイトで変換する必要があった。これはとても面倒臭かった。サビの部分は文字通り「失感情症〜〜失感情症〜〜」と歌っている。

最後に、アルバムジャケットはとても悩んだところがあって、そもそも、いつもお世話になっているものすごい有名というか世界的なグラフィックデザイナーである先輩と酒を飲んだときに勢いでデザインを相談したら、「僕に歌わせてくれるんならやる」と仰ってくれたので、先輩のために曲をつくった、という経緯があった。

結果的に結構良い曲ができたので、その曲でレコーディングをしてもらおうとしたところ、伴奏がギターじゃないと音程が取れない、という旨のフィードバックを頂いたので、ギターで自作曲の練習するにもちょっと時間がかかってしまうから、「よし! この曲は次回作に回してとりあえず自分でジャケットつくろう」ということで切り替えた。先輩、次回はよろしくお願いいたします。そして、次回作のジャケットは世界的デザイナーによるデザインになる(はず)なのでご期待ください。

で、今回は自作ということでいろいろ悩んだが、タイトルが病っぽいし、現代の病理みたいな絵柄はないかなーと思って、いらすとやのライブラリで探し回った。いらすとやって、日本から海外向けの論文やプレゼンテーションにも多用されるので、もはや「日本発のビジネスドキュメントにおけるマスコットイラスト」みたいな位置づけになっている気がして、現代の日本の儚さや、をかしさを内含している気がして、今回のアルバムには合う気がしていた。

で、わりと有名な絵ではあるが、「VRゲーム中に見られる人のイラスト」に出会って、「あ! これにしよう」ということにした。

で、これだけだとまあ、いらすとや以上に何もないので、この絵柄に合う何か別の要素がないかを考えた。結構悩んだ挙げ句、「ああ、アレをつけたい」ということに思い至った。アレというのはコレだ。

中学三年くらいにガンズ・アンド・ローゼズに出会ったときに、ガンズのアルバムジャケットに貼ってあったこのマーク。「過激な表現が入っているから親の監督のもと管理すべき」という趣旨のマークで、1990年代にアメリカで使用され始めたものだ。

しかし、私たち日本の洋楽っ子たちは「ファッキンファッキン」言ってるのはわかるけど具体的な歌詞もよくわからないし、監督すべき親もそんなことは知らない。

結果的に、このマークは日本の洋楽っ子たちにとって「かっこいいCDには必ず貼ってあるやつ」という認識になってしまったのだ。こういう「ある地方の日用品が貿易されてある地方では祭祀の道具になる」みたいな文化的な変異がとても好きだ。

ともあれこのマークは、レッチリのCDにもエミネムのCDにもslipknotのCDにも貼られた。日本の洋楽っ子としては、「いつか自分がアルバムを出すときにはあのマークを貼りたい」と思うのは当然のことだ。

しかも、このマークは、「過激な表現が入っているから親の監督のもと管理すべき」なわけで、今回のアルバムジャケットのモチーフになっている「VRゲーム中に見られる人のイラスト」にもぴったりな意味が込められている。「これしかない!」と思った。

そんなわけで、完成した音源を登録し、アルバムジャケットと一緒に配信サービスの審査に出した。

審査の結果は驚くべきものだった。

「あなたのアルバムには、なんら過激な表現(fワードやsワード)が入っていないので、このマークを貼る必要はないので外して再度審査に出してくれ」というのが配信サービス側の返答だった。

つまり、「上品すぎる」「fワードやsワードが入っていないとあのマークが貼れない」ということなのだ。

前述の通り、この「VRゲーム中に見られる人のイラスト」と、「過激な表現が入っているから親の監督のもと管理すべき」マークは、自分の中ではもはや一体のものだ。アルバムジャケットは妥協したくない。

じゃあどうするか、というと、「お望み通り、曲中にfワードやsワードを無理くり入れてやるよ!」ということになる。というわけで、急遽、6曲目の「Influx」に、ボーカロイドで「Holy〜Sxxt〜」みたいな歌詞で歌を入れてみたというわけだ。歌詞そのものはfワードやsワードを入れつつ、かなりエレガントな感じの内容にした。

さらに驚くべきことに、一曲を、このような「下品で過激なバージョン」に変更して差し替えて審査に出したら、アルバムジャケットと併せて、申請が通ってしまったのだ。

世の中、「公序良俗に反する」という理由で何らかの審査にひっかかるような話はよく聞くし、そりゃそうだという話だが、今回の場合、「公序良俗に反しない」から審査に引っかかり、しょうがないから公序良俗に反してみたら審査に通ったのだ。こんなことがありうるのか。

しかしそういうものらしく、どうにか、ファーストフルアルバム「Alexithymia」、リリースすることができた。前作のミニアルバム「Prime」は、「意外と聴ける」と何人かから言ってもらえた。まだまだ曲名が溜まっている。今後も気持ちよく曲名を消化するためにも、是非、聴いてやって頂きたいです。