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2022

「なあ、小せえの、休んでいけよ。それからまた飛んでって、やるだけやってみろ。人間も鳥も魚もそうするんだ」
老人/老人と海


右手ばかりが冷えていく年末、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
(この現象毎年なるんですけど僕の身体が歪んでるんですかね)

2022年終わるの早い……ってつい言いそうになっちゃうんですが、別に2021年も早かったし2020年も早かった気がします。要はもう時間感覚がそうなっちゃってるわけで、早いことなんてわかりきってるんですな。だからこう、いちいち早い早い言うのもなんだか芯食ってないというか、言うたびにつまんねーこと言ってんな自分と思うようになってきました。
まあインスタントに共感が得られるんで言っちゃうんだけど。

はい。

えーと今年の映画ランキングです。
去年もやりましたね。去年しかやってないのになぜか既に義務感が漂うこのコーナー。ランク付けするのって実はバカバカしいのではないかという気づきに蓋をして無心で文章を打ち続ける僕。

42本。
じゃあこの数字何かわかるか?
今年見た映画の本数だ。

少ねぇ…。去年がたしか60本ぐらいだったから3分の2だ。もともと忙しくなるのはわかってたんで去年ほど観れないだろうなとは年始の時点で予感してましたが、こうして数えてみると少なすぎる。怠慢だ。
別に映画なんて観たいときに観りゃいいんですが、観ない理由が「今日はフルで楽しめなさそうだからいいや」みたいな。こう、うっすら疲れを理由にしてて情けないです。そのくせ100回見た動画見て1時間潰したりする。最悪かよ。

ただ、そんな自分のしょうもなさから目を逸らして映画に向き合ってみれば今年公開の映画は結構豊作だったと思います。世間的にかなり話題になったものもそうですが、個人的に推しているスタジオや監督も面白いの出してくれて満足感と共に劇場を後にすることが多かった記憶。結果的に今回TOP10をまとめてみたら過半数が今年公開の映画となりました。そういう意味では充実した年だったと言えましょう。

さて、そんなわけでかなりミーハーっぽくなってしまい余計にしょっぱさが増したランキングですが、そもそもランキングなんてくだらねーので(言い切っちゃった)肩の力抜いて見てってくださいや。前口上垂れるのも疲れてきちゃったしさっそくイクゾッ。


あ、今回はゲームのランキングないです。
ランク付けできるほどやってないし、どうせ一位エルデンだしね。


第10位:『天使のたまご』

(画像引用元)

ミーハーですとか言って一発目にこれ出すのかなり「やってる」感ありますが。ごめんなさい、僕これ普通に好きです。
一応言っておくと話は全然わかってないです。魚とか天使とかそういうモチーフから、まあキリスト教の話かなってアタリは付く程度。難解極まる。
ただ流石は押井御大というべきか「時間」にコンシャスなことが映像によく出ていて、良い感じにタルーい空気感が心地いいです。『スカイ・クロラ』で「動かすな、でも止めるな」と言って黄瀬和哉をキレさせたそうですが、その片鱗はこの時点で見えますね。


第9位:『ノーカントリー』

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怖いよ、ハビエル・バルデム。
この映画見る直前に『マザー!』観てたんでもう印象が最悪。『スカイフォール』でもサイコっぽい悪役だったよな、この人。
牛の屠殺の話が劇中に出てきましたが、映画全体の印象もそれに近いです。殺人というか「殺し」が淡々と遂行されていくという状況に対する臨場感、張り詰めた空気が弛緩することなくスタッフロールまで継続する感覚はちょっとした体験と言えるでしょう。S・クレイグ・ザラー監督作品のような乾いた暴力が特徴的ですが、殺人鬼のキャラクターがこの映画を卓越したものにしてますね。
いややっぱ怖いよ、ハビエル・バルデム。


第8位:『LAMB/ラム』

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A24の新作。『MEN』も良かったですが、僕はこっちの方が好きかなぁ。
このスタジオの作品は常に一本筋が通っています。それをひどく幼稚な表現をしてしまえば「アートっぽい」という形容になるのですが、本作についてはそれが絵画的なベクトルに働いている気がします。どのショットも額縁の中に納まりそうなほど印象的かつ丁寧に撮られていて、それが北欧という舞台に非常によくマッチしていて…。額縁の向こうに静謐な奥行きが感じられる良い映画です。
ただ、まあ、A24なんで。なにかが生理の奥に浸透してくる悪寒のようなものは折に触れて感じるわけですが。


第7位:『NOPE』

(画像引用元)

ホラーにはエンターテイメントのすべてが詰まってる。ってセリフ誰が言ったのかは知りませんが『NOPE』には確かに色々詰まっているような気がしました。「エンターテイメントしようとしている」というのを別の言葉で言語化するなら「観客の感情曲線をしっかり操作しようとする意志が見える」という感じになるのでしょうか。スクリーンの中で起きる状況に対し役割をしっかり持たせている。漫然と作られたわけでもなければ、わかりやすい正解の道をなぞるでもない、面白さに対する真摯な姿勢が見える映画でした。
とか綺麗な言葉で飾りましたが展開は結構しっちゃかめっちゃかなことになってるんでその辺は人を選ぶのかなあ。


第6位:『すずめの戸締り』

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ぶっちゃけた話『天気の子』は面白くなかったんですよね。そしてさらにぶっちゃけた話この映画も冒頭15分ぐらいは「おげげ」と思いながら見てました。もの凄いテンポ感に「退屈させないテクニック」が透けて見えてしまって。
ただこれに「震災」というテーマがあると急に地に足が着いたものに見えてくるというか、厚みが出るというか。ものすごいテンポと上下のつけ方も話が動いてしまえばそんな気にならなかったし。
そして内容に納得できてしまえばあとは絵の圧倒的な力に手に汗握るばかり。結局は凄い映画だったんですよね。
セカイ系という構造を2時間の枠組みに最適化することに関しちゃもう世界一なんじゃないすかね、新海誠って。…なんでこんな斜に構えた評価なんだろう?


第5位:『ヒート』

(画像引用元)

マイケル・マンとの出会いは今年一番の出会いだったかもしれません。『コラテラル』も面白かったですが、今回はこっちを選出。緊迫感の演出力が異常に卓越している映画です。たぶん今年一番没入したんじゃないかな。
この映画を代表するシーンを上げるなら世界一かっこいい銃撃戦に(あえて)しますが、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノのドラマも良かった。追う者と追われる者、普通からはみ出したナイトウォーカーたちの絆めいた奇妙な因縁。色々語ろうと思ったんですがいいところが大体中身の話なんで、見てくれ~としか言えない感。


第4位:『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

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『エンドゲーム』の時点でマーベルは「全員集合」というコンテンツのファンコミュニティを焼き払うような最高のやつをやってのけたわけですが『ノーウェイホーム』でやったことは正直そんなの目じゃないくらい凄まじいことでした。『NOPE』にはスクリーンの中にエンターテイメントのすべてが詰まっていましたが、『ノーウェイホーム』はコンテンツの外側、僕らの世界をひっくるめたエンターテイメントでした。
物語の力というよりも、映画の力というよりも、キャラクターの力。
僕らが愛したスパイダーマンのひとつのフィナーレがここにあります。
…なんとなくまだネタバレしたくない感じがしますね。してるけど。


第3位:『THE BATMAN -ザ・バットマン-』

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スパイダーマンと対をなす(と個人的には思っている)ダークヒーロー、バットマン。集大成であった『ノーウェイホーム』と違ってこっちは新解釈です。
予告編の時点から一味違うことをバリバリにアピールしまくっていた本作の最大の魅力は、光と闇を意識した画のかっこよさにあるでしょう。ゴッサムという街のスポットライトに当たらない部分で暗躍するバットマン。暗い場所に黒い恰好というあまりにも映像映えしないはずのスタイルが光とのコントラストで浮き上がるシーンは鳥肌を禁じえませんでした。光と闇が物語のテーマであり、バットマンのキャラクター性であり、画作りモチーフであるという一貫性も好ましい。今年一番かっこいい映画と言っても、まあ、いいでしょう。
ときどき挟まる変なカットと妙にうるさい音楽はご愛敬。


第2位:『トップガン:マーヴェリック』

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掘り返して続編を作る、というのは基本的に歓迎されづらいことであり、その理由は多分にしょうもないものが出来上がるからなんですが、トム・クルーズにはどうやらそんな常識は通用しないみたいです。
掘り返したからこその意味があり、今やるからこその意味がある。正直この作品に対して語れることはあまりないです。だって感想になるだけですから。それは単なる自分のうちから湧き上がる言葉にしかなりえないですから。トム・クルーズという映画人を前にしたのなら、僕ら観客は口を噤み、スクリーンへ視線を注ぐべきなのです。彼の生き様はそこにあるのですから。


第1位:『RRR』

(画像引用元)

最も良い作品とはどのような作品かと考えたとき、僕の結論は自らの感性を暴力的に上書きしてくれるもの、となります。要は知らねえ良さを教えてくれたものってことですが。
そういう意味では今年はこれを1位に選ぶしかないでしょう。こんなの知らない。鑑賞後は感性を上書きどころかスクラップ&ビルドされたかのような気分で劇場を後にしました。
パッショナブルでロジカルでエネルギッシュでクールでエンタメでアートで…。もうこの世のすべてがここにあるのではと思えるほどの質と量がそこにありました。これは是が非でも劇場で見てほしいですねぇ。
あとマジでインターバルが五秒しかなかった。蜂起、咆哮、反乱って膀胱の話だったりしますか。





はい。
書き上げてみれば思ってた以上に漂うミーハー臭。うーん恥ずかしくなってきた。いや別にいいんだけどミーハーでも。むしろこのタイミングでゴダールとかトリュフォーとかの映画出す奴いたら鼻フックしてやりたくなるけど。
でもまあそれはそれとしてまだ見ぬ映画史を掘り進めたいという気持ちもありはするのですが、時間じゃなく気持ちが足りない。映画なんて一番お手軽なコンテンツなんですけどね。二時間で終わるし。

てなわけで。去年と比べてかなりうじうじした感じになってしまった気がしますが、まあ映画的には充実した年でしたと。来年もこの調子でいってくれ。ああ、もしこれ読んでる知り合いの方がいたらお世話になりましたとだけ。いや別に消えてなくなるわけじゃないですが年の瀬なんで、そういうアレです。

では、良いお年を。

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