「猫の町」の日 11月 Vol.8
猫の町には猫がいなかった。
それどころか、人もほとんどいなかった。
もしかしたら夕方から猫たちが出てくるのかもしれない。
夕方までいたら、猫たちに会えるかもしれない、なんて考えていたら、逆にこれが猫の町の罠なのだと気づいた。
このまま、この猫の町を見てまわりたいという探究心は永遠に続くのかもしれない。
人間の知りたいという欲望に歯止めは効かないのだから。
猫の町の挿話はそういう警句ではないのか。
この探究心の迷宮から二度と帰れないかもしれない、という恐怖が僕を襲った。
コロナの外出自粛の中で、自分の探究心から、気ままに街を出歩く「罪深さ」。
そこには、人間の業がある。
規制されているにもかかわらず、1Q84に対してふつふつと沸き起こる疑問を、現地で考え、発見と連想がいろいろと、つながる面白さ。
このフォトトリップには、「探究心」という人間の根源的な強欲が隠れていたのだ。
「猫の町に残りたい」という欲望、「1Q84」の謎をずっと追い続けたいという欲求。
それは人間の知識欲そのものだ。その強欲を暴走させてはいけない。
それに気づくことが、猫の町に来た意味だったのだ。
「ここを出て行くんだよ。出口がまだ塞がれないうちに」
安達クミが僕にも忠告してくれたので、夕方になる前に電車に乗った。
強欲に囚われて、猫の町から帰れなくなると困るから。
「あなたはネコのまちにいった。そしてデンシャにのってもどってきた」
「そのオハライはした」とふかえりは尋ねた。
今日、僕は猫の町に行った。
こんな僕にもオハライは必要なのだろうか?
そんな風にして、「猫の町」のフォトトリップは終わった。
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