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2023年5月に読んだ本

角田光代『しあわせのねだん』新潮社

過去に『空中庭園』や『八日目の蝉』を読んだことがあり、
なんとなく暗いイメージを持っていた著者のエッセイ。
意外にも(失礼)文体はすこぶる軽やかで、さっぱり、潔い。
ちびまる子ちゃんが大人になったみたいな独特さ。
物書きなんだけど9時17時で執筆してる、という話や
500円しか持たずに海水浴に行ってしまい、
途中で隣駅までお金をおろしに行った話などが面白かった。
あと、親孝行しようと旅館を予約したけどしょぼかった話も。
飛行機での移動中にあっという間に読んでしまった。

寺地はるな『大人は泣かないと思っていた』集英社

前から本屋で題名が気になっていた。
良かった。この著者の他の本も読んでみたいと思った。
「お酌警察」のいる飲み会、「九州の男」という幻想、
世間は必ずしも生きやすくはないのだけど、
優しい世界もあることを教えてくれる。
主人公が実直に生活し、人に接しているから、
大事なところでその優しさが返ってくるのではないだろうか。

好きな場面。
「隙のない女はもてないよ?」に対し
「女の隙につけこむような男を、私は好きになりませんから。そういう人からもてなくても平気なんです」との鋭い回答。
その回答に「なんと。なんとかっこいい女なのか。」と
惚れてしまったという主人公の友人。いいやつ。なかなかいないよ。

好きな登場人物。主人公の職場の後輩、平野さん。
飲み会ではちゃんとお酌しなければと思っているのに
タイミングをうまくとれない。
同僚である主人公にかなり好感を抱いているのに
「妥当」だと思っているだけだと自分に言い聞かせてしまう。
真面目で、周りにも気を使っているのに、なかなか報われない不器用さ。
彼女がハッピーエンドで終わる物語もどこかにあってほしい。

青山美智子『鎌倉うずまき案内所』宝島社

最近立て続けに読んでいる著者の本。
これもまた一つの場所を起点に、
いろんな人の人生が交錯する感じの話なのだが、
違いは、「案内所」という普通にはたどり着けない不思議な場所、
内巻&外巻のそっくり双子おじいさん、アンモナイトの所長、
魔法のキャンディーなどがファンタジーな存在が介在している点だろう。
ただ一方で悩んでいる人たちの設定は「木曜日」よりリアルなような?
何となく漠然とした夢を見ているだけの人が救われるのではなく
やりたいことがはっきりしていて、
でもそれを見失っている人が救われるというところが
ミソなのではないかと思う。

僕のマリ『書きたい生活』柏書房

『常識のない喫茶店』の続編、作者その後の日記。
日記が筋トレ、という表現を見て、
あれを書こう、これも書こうと思っているのに
後回しになってしまう自分を反省。
新婚生活が幸せそう。夕ご飯のおかずがいっぱいですごい。
義理の実家の旅行中のビュッフェで、
本当はからあげを五個くらい取りたかったが、
「はしたない」と思われないか不安で我慢した、というところに共感。

松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱』新潮社

題名が惹かれてつい手にとってしまった。
ディズニーランドの裏側を知りたいような気持ちもあったが
私が知りたかったこととはちょっと違っていたようだ。
初出勤の主人公の些細な行動、言動が
自分が思うのと違いすぎてちょっと気になる。。
職場の先輩で学生時代にディズニーランドでバイトしていた
という人がいたのだけど、とても頼りになる先輩で、
「地下に広大なバックヤードスペースがある」という話や
その先輩は、同僚でお姫様役をやっていた超絶かわいい人と
結婚した、という話の方が面白く感じてしまった私でした。
ディズニーランドの裏側にも夢を求めていたようです。

小林聡美/森下典子ほか『ぱっちり朝ごはん』河出書房新社

朝ごはんにまつわるエッセイ集。
1つ1つは短いので読みやすいかと思いきや、
文体に慣れるまでに終わってしまうので意外と体力がいる。
疲れたら後ろから読んでみたりしつつ、
ぐぐっと引き込まれる文体も。
『100万回生きたねこ』の佐野洋子さん、力強い。
納豆の登場回数が多いのが日本の朝ごはん、なのかなと。

岸田奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』小学館

前から気になっていたのに、先にドラマが始まってしまった。
1話2話を見たが、ドラマは創作エピソードが加えられているらしい。
英語を教えてくれた先生が学校の先生になっていたりとか。

筆者の脳内会話を含めテンポよく勢いのある文章。
ダウン症の弟、車いすのお母さん、勝手に大変そう、と思ってしまう。
但し、文章から伝わってくることは
弟良太くんの優しさを、礼儀正しさを、いいやつだって愛している、
お父さん、お母さんのことも大好きなんだなってことが伝わってくる。
当事者としては家族だから、当たり前に受け入れてる、
他人と比較してどうこうとかは思わない、というのとも違って、
みんな近くにいたら好きになってしまうような人たちなのである。
また、作者本人も、ブラの試着で集団疎開していた肉で谷間を作成したり
甲子園でビアガールをやるはずが熱々のコーヒーを売りさばくなど
数々の武勇伝を持っている愛すべき人なのである。



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