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3人娘と党創建記念日の作戦会議

「絶対おかしいです!」
「10日朝の帰国なんて、絶対おかしい!」
「もったいなさすぎる!」

 2013年。党創建記念日の早朝にホテルを離れることになった。当日は大規模なパレード開催が予告されていた。冒頭のことばはぼくの帰国日を知った、接待員の女の子たちのことばである。

「だよねぇ…。ぼくも帰りたくないんだよホントは」

 20代そこそこの接待員の女の子たちも大きく頷く。

「そうだよなぁ、ちょっと作戦があるんだけど手伝ってくれない?」

「なになに!先生様!聞かせてください」。3人が顔を寄せて来る。思った以上にその距離が近い。怖いぐらいに整った顔が3つ、ぼくを囲む。韓国人もそうなのだが、親しくなった時の朝鮮人の密には少し戸惑う。

「ぼくの顔を見て、トンムがまずホテルの偉い人と、うちの案内員にいうのよ」とひとりめの女の子に話をふる。

「『なんか、あの先生様顔色悪いですよ』と言ってよ」。うんうん、と頷く。ふたり目の女の子に続ける。

「トンムは『熱がありそうです。体調悪そうです!』と騒ぐ」

うんうん、わかった。と神妙な顔で頷くふたり目。

さんにん目の女の子に「トンムは『あの先生!顔がおかしいです』っていうのよ。って顔がおかしいのは生まれつきやわっ!」とひとりノリツッコミをすると3人の女性接待員はキャッキャと大笑いしたのだった。

 話は元に戻る。帰国しないなんて土台無理な話。「やっぱり明日帰りたくないよぅ」「帰っちゃダメですよ先生様!」。このやりとりを出来の悪いコントのように何度か繰り返した。

 党創建記念日の時期に訪朝したことが何度かある。思い出すのは勇壮なパレードや行事よりも、女性接待員たちとのやりとり。

 もう7年前の話だから、彼女たちも30歳くらい。既に結婚して退職しているかも知れない。名前も忘れた。そもそも聞けなかった。いっしょに写真を撮っておけばよかったなぁ。

 北朝鮮の旅で思い出すのは、こんな名も知らぬ人たちのことである。彼女たちに幸あれと思う。大きくなくともささやかな幸福を。

■ 北のHow to その86
 明日は党創建記念日。75周年を迎えます。大規模な軍事パレードが行われるのではないかと予想されています。
 祝日に向けての平壌の風景は一見の価値があります。徐々に街が彩られ、あちこちで行事の練習が見られます。心なしか、会話を交わす人の声も弾んでいる気がします。
 ぼくと作戦会議をした接待員たちの陽気さも、祝日の高揚感が導いたのかも知れません。

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