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初めての恋

時は8月、夏の暑さが猛威を振るっていた。そんな中A高校吹奏楽部は県大会に向けて合宿の準備を進めていた。
「はい!ミーティングします。」この部活の部長桜田花は2日後に控えた合宿備え部員を集めた。
「夏合宿ですが、朝8時に校門に集合です。忘れ物しないようにね」
「はい」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そしていよいよ合宿の時がやってきた。次々と部員が集合する。
「おはよう。花!」
「あ、桜。おはよう」桜とは花の友達である。
「バス隣にしようね!」
「うん。」控えめに花はそう言った。
合宿所に到着後部員は荷物を置いて練習所を作った。
「はーい。終わった人から個人パート練ね。2時間後に課題曲合奏します。」
「はい」
―合奏後―
「はーい。これから夕食です。食事係は会場に向かってください。」
「はい」
「食事係以外の人は準備ができるまで自室待機で!」
「はい」
―夕食後―
「これで1日目終了です。なにか連絡ある人?」だれも手を挙げている様子はなく、それを確認して花は続けた。
「じゃあ明日の日程ですが、明日は朝7時に外で集合お願いします。」
「はい」「お疲れ様でした。」
「いやー今日も疲れたねー。」桜は同じ部屋に帰る花に話しかけた。
「まだ1日目でしょう。明日もあるし。」毅然とした態度で花が答える。
「はーい。やっぱり部長は違うなー。」
部屋に帰り、風呂に入った後2人は布団の中で話した。
「あー、お風呂気持ちよかった。」
「ねー。ドライヤー持ってきて正解だったわ。」
「それね。」
「そういえばさ。花って好きな人とかいないの?」急に話題を変え、桜が興味津々に言う。
「えーってかまだ恋愛とかわかんないし。」
「佐藤君とかは?よく喋ってるじゃん」
「佐藤?ただパートが同じだけだし友達だよ。まあ喋ってるって言われれば今日めっちゃ喋ったような…?」(※佐藤と花はトロンボーンパートに所属しています。)
「え?一番は私でしょー。好きなんじゃないの?お似合いだよ(笑)」桜が意地悪っぽい顔をする。
「それはないし、その話はあと!お休み。」対する花は全否定だと言うような顔で反論した。
「強制終了かぁ。お休み。」
2日が過ぎ、合宿は最後の夜を迎えた。
「わー花火だ!」最終日の夜は花火が伝統行事である。
「写真撮ろうよー。3年生!」
「はーい」
「先輩撮りますよー。」「ありがとう!」「はいチーズ」
部屋に帰ってから、花と桜は帰りの準備を始めた。
「もう明日で終わりかー。早かったね。」
「ねー。コンクールもう少しだと思うとやばいね」
「確かに」その時花の携帯電話が着信音を鳴らした。
「ん電話だ。」花は携帯を手にした。
「だれ?」桜が聞き、
「佐藤」ぶっきらぼうに花が答えた。
「もしもしー」
「もしもし、桜田。パートのメンバー集めてるんだけど来てくれない?合奏場でお願い。」
「了解。ありがとう。」
それから花は桜に「パートの集まり。」と告げて合奏場にいった。
「佐藤?何?」
「みんな急にごめんね。これ今日の録音。なんか思ったこととかこうしていきたいとかパートでまとめようとおもって」
「はい」
「じゃ流すね」そうして佐藤は録音を流した。
「次自由曲」
「なんかあったらこれに書いて。俺明日までに纏めおくから。」
「わかりました。」
「あと、書き終わったら桜田だけ残ってもらっていい?」
「んー。何?」花が雑っぽく言う。
「これみんなに書いてもらったやつなんだけど、明日の練習方針決めようおもって。」
「なるほど。うーん。ざっと見た感じ、揃ってないって意見をあるからパート練多くしよう。あと1st同士で練習したい。」
「なるほどーありがとう。そんな感じで組んどく。」
「了解。そんな感じ?」
「うん、ありがとう。」
そうして花は部屋に帰った。
「ただいま。」
「お帰り」
「あ、ごめん起こしちゃった?」
「ううん。ねむれなかっただけ。佐藤君なんだった?」桜が少し上体を上げる。
「あー。パートで今日の録音聴いてた。」
「そうだったのかってか佐藤君頼れるねー!」
「まあそういうところはいいところって思っている。」
「認めるんだぁ」またあの意地悪っぽい顔。
「うるさい。認めてるけど好きってわけじゃない。…ん?」花は桜の顔にまんまと騙されたようだ。
「わー私好きなんじゃないなんて言ってないよー?」
「雰囲気そんなだったじゃん。」花が噛みつく。
「そう?」
「寝る!」勢いよく花が布団を被った。
「またあの強制終了かぁ。おやすみ。」そうして2人は眠りについた。
―次の日(トロンボーンパート部屋)―
「おはよー」
「おはよう。桜田」
「おはようございます。」
「みんな、昨日のまとめたからー。ちょっとみんなで見ようか。」そう言って佐藤は1枚の紙を机に置いた。全員が机に集まる。
「昨日の夜ちょっと桜田と話してパート練習の時間いつもより増やすことにしたから。あと1stはペア練(※)ね。桜田が指示出すから。パートは1時間後やります。」
「はい」
「あ、ペアは30分ごやるねー。あんまり個人の時間ないけどロングトーン(※)重点にやってほしい。」
「はい」それから練習が終わりいよいよA高校吹奏楽部は合宿所を後にした。
「ふーあっという間だったね。」
「ねーほんと」
「帰ったらコンクールかー。早いね。」花と桜はこんな会話を帰りのバスでしていた。
学校に到着し、解散後花たち部員は次々と帰宅した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ただいま。」
「花~お帰り。お疲れ様。」
「ありがとう。お母さん」花は母の声にほっとしたように言った。
「夕飯できてるわよー」
「はーい」
夕食後自室にもどった花はふと合宿のことを考えた。
(「ねー花ってさ好きな人とかいないの?」、「佐藤君とかは?よく喋ってるじゃん」)
(桜、恋愛の話好きすぎでしょう。本当やめてほしい。佐藤とは仲良くしていきたいって思ってるだけだし、、え…?もしかしてだけどこれが好きってことなのかな。やばい変に意識しちゃうよ。)
―次の日―
「おはよう」「おはようございます。」挨拶の声が飛び交う。
「おはよう。佐藤」
「おはよー。ん?今日体調悪い?様子違くない?」佐藤が心配そうに花のほうを見た。「いや、平気。」
(やばい、顔に出てた?うわぁ)
「そうか、コンクールも近いし体調管理ちゃんとしなよ。」
「ごめん。心配かけて。」
(やばい顔直視できないかも、。
この調子だとちゃんと気持ち伝えないとかな…。でも私って本当に好きって思ってるんだろうか。ううん、このドキドキはきっと好きってことなんだろう。)
その日の練習後花は佐藤を呼んだ。
「佐藤。このあと時間ある?」
「今から?あるけど。」佐藤は突然の呼び出しに困った様子だった。
「ちょっと話あってさ。」
「うん」
その後2人はで学校近くのカフェに行った。
「これ新作出てる!食べたかったんだよね。」
「おいお前今月金ないとか言ってなかった?」
「うっ。言ってたっけ?って佐藤にそんなこと話してたなんて、、。弱み握られたみたいで嫌。」
(うわぁ、、なんでこんなこと言っちゃうんだろう。まるで悪口言ってるみたいじゃん。)
「話してきたのはそっちだし。俺は何にも悪くないから。それより話って?」佐藤は追い打ちをかけるように迫ってくる。
「そ、そうだよね。そういえばさ、大学受験どうなの?」
「それが話?」
「いや違うけど、、。ほらみんなどこの大学行くのかなって最近気になってて。」
(なかなか話進められないよ、どうしよう。)
「なるほど。俺はB大学行きたいけど。桜田は?」少し呆れた表情で返答する。
「B大学⁉すごい!私C大学かな。なんか恥ずかしいね。」
「いや恥ずかしいことなんてなくね?C大学って文学部有名じゃない?桜田って文学部志望じゃなかったっけ?」
「そうだけど、B大学に比べるとなって感じ。」
「受験は競争だけど他人と比べる必要はなくない?」
「そうだね、。正論。うわありがと頑張るわ!」
「桜田ー。話の本題入ってないぞ。何なんだ?」真剣な表情に戻り核心を突いてくる。
「えー。忘れたかと思った。」
「誰が忘れるか。B大学受ける人が記憶力そんな無いわけないだろ。」
「さっき比べる必要ないとか言ってたじゃん。もう帰んない?」明らかに動揺した様子で花が言う。
「帰るって話は?」
「あとで!」
(ああ、なんてうまくいかないんだ。勢いで帰るなんて言ってしまったけど、なんも伝えられていない、、)そんなこんなで2人は駅にむかった。
「散々連れまわてごめん。えっと、話なんだけど、私ね佐藤のこと…好きみたい。」
「う、うん。いつから?知らなかった。」さっきの困った顔と驚きを隠せない様子。
「合宿くらい、たぶん。」
「待って。これすぐに返事したほうがいい?あのできればちょっと整理したい。」
「うん。すぐじゃなくても。逆に私もいま返事受けても返せる自信ないし。」
(自分で切り出したくせに、佐藤に気を遣わせるなんて。)花はそんな風に自己嫌悪に陥った。
「わかった。返事できるようになったら連絡する。」
「うん。ごめん、気い使ってない?大丈夫?」「大丈夫だよ。」
そして2人はそのまま別れた。
(はぁ。なんか勢いで佐藤に告白してしまった。)
―次の日―
練習に向かう途中、花は佐藤から連絡を受けた。
《おはよう。昨日の返事したいんだけど、今日の練習後空いてる?》
《空いてるけど。》
《ありがとう。じゃあ昨日話したカフェでいい?》
《うん。》
そしてその日の練習後
偶然案内されたのは昨日と同じ席であった。「昨日と同じ席だ、なんか偶然だね。」
「そうだな。」佐藤はどこか遠くを向いて言った。そして注文を聞いた店員が遠ざかる。
「そういえば、コンクールの打ち上げってどこ?」
「うん。えっとあそこの焼肉屋さん!佐藤も来るんだっけ?」
「うん。ってかお前、前に3年みんな集まれる!ってなかったか?」
「そうかも、、」そんな会話をして佐藤はしばらく口を噤んていたが、ようやく少し躊躇したように口を開いた。
「ごめんね。昨日すぐに返事できなくて。」
「いいよ、突然すぎたし。なんかどうするのが正解なんだろうね、、。」花は今更ながら昨日の己の行為の大胆さを恥じた。
「その、返事なんだけど、俺恋愛とかよくわ
かんなくて。桜田のこと嫌いじゃないしむしろ好きなんだけど、恋愛感情なのかな疑問なんだ。」佐藤ははっきりとそういった。
(あれ?私今振られているのかな、。)そう思った瞬間花は悲しいというかなんとも言えない寂しさに支配された。佐藤はこう続ける。
「あのさ、今俺が桜田に対して抱いてる感情が恋愛感情なんだとしたら桜田とその、付き合うっていうのも良いって思う。だけど、感情の種類がはっきりしない以上後先考えずそういう関係になるのって良くないと思うんだ。」
「そうなんだ。」それを花が言ったタイミングで注文した商品が運ばれてきた。店員が去ったあと佐藤は少し飲み物に口をつけた、そして、
「これは俺なりに考えた結果で、
桜田の気持ちに応えられないのは本当に申し訳ないけど、友達というかちゃんと信頼できる親友になりたいって思う。だからよろしくお願いします。」と言った。
(仲良くなりたいってことイコール好きでそれが付き合うってことじゃなかったのかな。なるほど。)
「どうした?桜田。」
「ううん、考え事。そうだよね、付き合うだけがすべてじゃないね。私さ、佐藤と堂々と仲良くできる関係でありたかったんだと思う。だから好きって言った。仲良くするのが付き合うってことならそうしたいって思ってた。でも佐藤の言う親友みたいな関係がそういうことなのかな?」
桜が2人を「お似合いだよ」などと言って恋人同士にさせようとしているのをずっと聞いていた花は付き合うということしか頭になかったんだと気づかされた。
佐藤が答える、
「それは俺にもわかんない。」
(そう来たかこいつ)
「でも一つ言えるのは恋人同士って関係作んなくても仲良くはなれると思うよ。まあどれが正解とかないし。それに恋人同士になるのはもっと仲良くなったらでいいし、そもそもお互いを恋愛対象としてちゃんと見られるようになってからでいいんじゃないかなって思う。」
「うん。じゃあこれからも仲良く?足りないなぁ。もっと仲良くしよ!いろいろ相談とかしていいし、したい。」
(これでいいんだな、私。きっとこれがしたかったんだな。)
「うん、ありがとう。俺も桜田ならちゃんと信頼して話せると思う。これからもよろしくな!」
「うん、まずはコンクールだね。」花はそう話題を振る。
「だなぁ、桜田はGのHighH(※)外すなよ。」佐藤は念を押すようにそう言った。
「最近調子いいから大丈夫‼念押しいらないんですけどーっていうかそこスライドめっちゃ難しくない?よくできるようになったわ、私たち。」
「確かに。リズムも難しいよな、俺最初読めなかったし。」
「わー私も。」
「明後日なんだよなー、実感わかねーな。」佐藤がやけに慎重に言った。
「それ。やばい実質明日が最後みたいなもんだよね。」
「なー。明日頑張ろうぜ。」
「うん。」
「さて、そろそろ帰るか。」佐藤が切りだし、2人はカフェを後にして歩き始めた。
「今日は楽しかった。ありがとう。これからもよろしくな。」
「うん、じゃあねー!」その日はそのまま解散した。
―次の日―
県大会を明日に控えた部内では集中した練習が進められていた。そんな中トロンボーンパートではパート練習を行っていた。
「じゃあ、課題曲Aから!伴奏合わせて!」
「はい」
「合ってるけど音量バランス気になる。もっとセカンドだして。」
「はい」その日は全体合奏をし、練習が終わった。
「はーい。ミーティングします。」
「はい。」
「連絡ある人ー?」
「いないか。じゃあ私から。
明日コンクールだね。合宿も終わったばかりでみんな疲れてると思うけど、明日はちゃんと全力で頑張ろう。特に3年生。最後だね今までありがとう!絶対明日うまくいくと私は信じてます。」
「はい!」
「それでは練習終わりにします。起立!お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」その日の帰り花は桜と帰った。
(佐藤のこと言ったほうがいいかな。どうしよう。)
「明日だね。引退だね。」
「…。あ、そうだね。」
「どうした?何か考え事?」
「いや、何でもない。」
「明日、頑張ろうね!」
「うん。今までありがとう。」
「ちょっと花。それ今日のセリフ?あ、電車の時間だ!ごめんまた明日。」桜は急ぎ足で駅に向かった。
「じゃあね。」
(よかった。佐藤のこと言わなくて済んだ。)
そして次の日A高校吹奏楽部は県大会の日を迎えた。
「おはよう。ついに今日かー。」
「ねー。」会場に到着し、集合した部員たちの中ではこんな会話が繰り広げられていた。
「はーい。受付済みました。トラック来たみたいだから、手空いた人積み下ろし行って!終わり次第音出しねー。」
「はい!」
音出し時間を終え部員は再集合した。
「A高等学校さんですね。私、今回誘導を担当させていただきますB高等学校吹奏楽部の渡辺といいます。本日はよろしくお願いいたします。それではリハーサル室にご案内いたしますので足元に気を付けてついて来てください。」
「はい」案内後リハーサルが始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
すべて終えた部員はいよいよ本番の舞台へと向かった。
「次か。」
「本当、やばい。緊張してきた。」花は舞台袖で近くにいた佐藤とこんな話をしていた。
「ありがとね。今まで。」花が神妙な様子でつぶやく、
「今言うセリフじゃなくね?それにもっと仲良くすんじゃなかったか?」
「まあ、、。」
そして前の団体の演奏が終わり、入場が始まった。
《プログラム〇番A高等学校吹奏楽部・課題曲Ⅳに続きまして自由曲〇〇作曲××・指揮
は△△です》
舞台が明るくなったのち、指揮者が棒を振り上げ、演奏が始まった。
演奏後、拍手が鳴る中部員たちは退場した。
そんな中写真撮影にむかう途中花は佐藤と言葉を交わしていた。
「お疲れ。ごめん自由曲のG外したわ、おとといめっちゃ念押ししてくれたのに。
申し訳ない。」
「そうだったの?気づかなかった。でも桜田の音めっちゃ綺麗だったよ。よかった。」
「本当?ありがとう。」写真撮影が終わり一同は結果発表まで鑑賞となった。
「お疲れ!花。」
「おー桜。お疲れ。一緒に見よー。」
「うん。」
「さっきさ、私Gのところ思いっきり外しちゃった、。」
「まじ?花の音、前で聞こえてたけど全然気付かなかった。よかったよ!」
「ありがとう。これ佐藤にも気付かなかったって言われたけどなぁ。結構思いっきり外したつもりだったんだけど。」
「え?佐藤君ともしゃべったの?めっちゃ仲良くなってるね。何かあった?」桜が興味津々にこちらを見つめる。
「何もないけど。」すかさず花は噛みつくように返した。
(えー?喋ったこと突いてくる?)
「これは怪しい」
「いやいや、本当にないから。それよりB高校の演奏始まっちゃう!(※B高校とは花たちの県の強豪校の一つです)」
「まじか。急ごう!」
(ふー何とか乗り切った。)
その後結果が発表され、A高校吹奏楽部は金賞を獲得した。次の東関東大会には進めなかったものの、悲願の金賞を受賞することができた。
再度集合した部員の中からは「すごい!嬉しい。」「去年、銀賞だったしね。すごいよね。」などの声が飛び交い、涙を流す部員の姿もあった。
しばらくして部長の花が部員の前に現れた。
「みなさま、お疲れ様です。金賞おめでとう。残念ながら次の大会には行けなかったけれど、去年銀賞だった悔しさから脱することができて良かったです。3年生は最後になってしまったね。最後に全員でコンクールに出場できたのはすごくうれしかったです。1,2年生これから主体として頑張ってもらうことになったけどみんならしさを忘れず頑張ってください。今までありがとうございました。」そういって花は涙をこぼした。1粒、2粒と足元にこぼれていく…。
「花先輩…、これ。」そう言って部員の一人が花に色紙を渡した。
「あ、ありがとう。これは。」それは会場に向かえなかった副顧問からのメッセージであった。
《吹奏楽部のみんなへ、今日は来れなくてごめんね。みんなの健闘を心から願っています。去年は銀賞で終わってしまって苦しい思いをした人も多いと思う。でも今年はみんな音がいきいきしてる。だから、金賞狙えるよ!頑張って。》これはおそらく前日に書いたものであり、今日の朝主顧問に渡すものだったのであろう。しかし、渡すタイミングが掴めなかったのだろう。そのため、終わった後に部員の手に渡ったのだ。
さらに花の目から涙がこぼれていく。
「…。みんな写真撮ろうか。私色紙持っていい?」その時、
「ごめんね、遅くなっちゃった。」色紙をかいた張本人の副顧問が現れた。
「先生!」
「本当はもう少し早くこれたはずなんだけどね。道に迷っちゃって。」部員の中からどっと笑いが出た。泣いていた部員の涙も少し引いたようだ。
「色紙ありがとうございます。あ、写真撮ろうとしてたところなんですけど先生もどうですか?」
「私?そんな悪いよ。」
「いいじゃないですか。」半ば強引に部員が副顧問を引き連れた。
「じゃあ、撮ろうか。誰か賞状持ちたい人いない?」花が先導し、自分の携帯電話を母親に託す。
「はい。持ちたい!」1人がすかさず声を上げる。ふと見上げた先にいたのは佐藤だった。
「そんなの普段は名乗んないくせに、出しゃばりー。ふふ、ありがとう。」
「じゃあとるわよー」カメラを抱えた保護者やOB、OGたちが次々と言う。
「はい、お願いします。」
‘’パシャパシャ’’一斉にシャッターが切られた。
「ありがとうございます。じゃあここで一旦解散となります。あんまり遅くならないうちに帰ってね。」そう花が締めて一同は解散となった。
その後3年生は打ち上げを開催した。
「お疲れ様。最後に3年生全員参加で良かった!」
「お疲れー!ねー。っても学年会ずっと佐藤だけ不参加状態だったけどね。」
「確かに、気が変わったかなんか?今日の写真も賞状持つって真っ先に手挙げてたし。」
「もしかして、花に言われたとか?」
「あやしい。」次々に女子が詰め寄る。
「いや違う、今日の打ち上げは最後だからと思って、写真は桜田が変に目合わせてきたから…。」噛みつくように佐藤が反論する。
「どうなの?花」
(佐藤から聞けなかったら私か)
「確かに写真撮るとき、変な目して佐藤を見たのは事実だけど、そんな気持ちがあるわけじゃない。打ち上げは何も聞いてないよ。」花はこれは逆に事態を悪くしているだけではないかと思ったが、あえて反論の姿勢を見せた。
「それより、せっかくみんな集まったんだから楽しもうぜー!」誰かがどこからともなくぽつりと言う。花と佐藤は内心ほっとした。
「そうだね。」
そして打ち上げは大いに盛り上がりをみせ解散となった。全員で駅に向かい同じ方向だった花と佐藤は途中まで一緒に帰った。
「改めて、お疲れ。楽しかったし嬉しかったし。」打ち上げのことは何も感じさせないような様子で花は言い、
「そうだな。去年まで県大会銀賞だった学校がまさか金賞なんてな、まあダメ金だけど。お前がG外さなければ東関東行けたんじゃないか?だから、あれほど念押ししたのにな。いらないって言われたんだよなー。」佐藤は茶化すように答えた。
「うるさい、ごめんって。それと写真の時変に目線合わせてごめん。打ち上げの時あんな風になると思ってなかった。」
「言ってみたかっただけ、俺ってちょっとSっ気あるか?打ち上げのやつは良いよ、俺も出しゃばりすぎた、ごめんな。」
「Sかぁよしやっと佐藤をからかう言葉獲得できた!」意地悪気に花は言う。「打ち上げのは私が悪いよ。謝らないで。」
「うわ、やめろよ。謝らないでとは言っても俺も悪いぞ。きっと、どっちも悪い。」
「そうだね、ありがとう。でも、Sっていじるのはやめませーん。」
「あ、もうすぐだ。」ちょうど次の駅が佐藤が下りる駅だった。電車が駅に到着し2人は別れた。
「じゃーな。困った時いつでも連絡しろよ。」
「うん、ありがとう。またね!」花は動く電車の中で佐藤の背中を見えなくなるまで見つめた。瞬間あの時の何とも言えない寂しさが花の心に戻った。
ああ、きっとずっと一緒にいたいんだ、会いたいんだ。佐藤といると私楽しいんだな。きっとこれも「好き」の形だ。そして私なりの初めての恋だ。
―終―

※チューニング:音程を合わせること(吹奏楽ではシ♭の音で合わせることが多い)
ペア練:同じパートを演奏している奏者同士で練習すること
ロングトーン:音を長く伸ばす練習
HighH:高いシの音
(あくまで個人の独断と偏見で書いておりますので定義に批判等がありましても受付られません。)

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