見出し画像

時空を超えて

太古の昔に生きていた「私」が見た記憶の断片が、そこにはあった。

真っ白な麻の衣は、巫女の証。
額に結ばれた蒼い紐が、ふわりと風に舞う。
天高く掲げられた2本の腕は、ゆっくりとその形を変化させながら、完璧な角度とフォルムで静止する。

まるでそれが何かの合図であるかのように、雲の谷間から眩い光が顔を出した。
一瞬のうちに、あたり一面に あたたかな光が充ち、龍の百会で固唾を飲んで見守る聴衆の上に降り注ぐ。

聖なる笛の音に呼応するかのように、ゆっくりと体を捻り、腕を回しながら顔を傾げた視線の先に、私がいる。しかし巫女の視線は、もっと遠くにある何かを見据えるかのように、私を突き抜けた。

気がつけば涙がとめどなく流れていた。
見られるはずのない景色を、今、この場所で見ている奇跡。
何か一つでも狂っていたら、今、この場所に、私はいなかったはずなのだ。

太古の昔に私が感じていた感情が、シンクロする。

もう二度と、見られないかもしれない。

いつも、そう思いながら、この舞を見ていた。
それくらい、古の寿命は刹那的で、生きることは決して容易いことではなかった。

一人の人間が舞っているとは思えない、荘厳で、神聖で、畏怖の念すら感じるその舞を、溢れ出す涙もそのままに、目に焼き付ける。

水面に浮かび上がる轍が静かに広がり、やがて消えていくように、まるで何事もなかったかのような静寂が戻る。

天に向かって祈りを捧げた巫女は、今、その役目を終え、静かに大地に足をおろした。

時空を超えて重なった2つの魂が、解かれる。
巫女の舞の余韻を惜しむかのように、わたしはただ空を見つめ、涙を流し続けた。

いつも読んでくださりありがとうございますm(_ _)m あなたからのサポートが、日々の励みになっています。 もし私にも何かサポートできることがあれば、いつでもメッセージをください♪