再生可能エネルギー拡大のために必要な送電網の整備
再生可能エネルギー(再エネ)の普及は、持続可能な社会を実現するための重要な課題です。福島県では、2023年度に再エネの発電量が県内の電力消費量を上回り、再エネ100%を達成するという画期的な成果が報告されました。しかし、この成功の背後には、再エネを効率的に供給するための重要な要素、つまり送電網の整備が大きな役割を果たしていることを見逃してはなりません。
再エネの拡大に向けては、発電するだけでなく、その電力を消費地に届けるためのインフラ、特に送電網の整備が欠かせません。今回は、福島県の事例をもとに、再エネ拡大に必要な送電網の整備について詳しく説明します。
1、福島県における再エネ100%達成の背景
福島県は、東日本大震災と原発事故の影響を受け、再エネの導入に積極的に取り組んできました。震災の教訓をもとに、再生可能エネルギーの導入を加速し、再エネによるエネルギー供給率100%を2025年度までに達成するという目標を掲げていましたが、2023年度に目標を2年前倒しで実現しました。
これは、太陽光発電や風力発電所の増設によるもので、2023年度末には再エネ導入量が150億2900万キロワット時に達し、電力消費量の102.9%を再エネで賄うことができました。しかし、この成功の背後には、再エネの供給に欠かせない送電網の整備が重要な役割を果たしていることに注目する必要があります。
2、再エネの拡大を支える送電網の重要性
再エネの発電量が増えても、その電力を適切に供給するためには、送電網が整備されていなければなりません。発電所が立地する場所は消費地とは離れていることが多く、特に太陽光発電や風力発電所は郊外や山間部に設置されることが一般的です。発電した電力を都市部の消費者に届けるためには、信頼性の高い送電インフラが必要です。
福島県では、震災後に送電網の整備が進められました。福島送電株式会社が中心となり、阿武隈山地から福島県沿岸部にかけての送電線網が整備され、2024年7月末に完成しました。この送電網により、県内各地で発電された再エネを効果的に東京電力ホールディングス(東電HD)管内に送ることが可能になりました。
3、送電網整備に伴う課題と解決策
福島県が再エネ100%を達成した背景には、この送電網の整備が大きく寄与している一方で、今後の拡大にはいくつかの課題も存在します。以下に、送電網整備に伴う主要な課題とその解決策を解説します。
3.1. コストの問題
送電網の整備には膨大なコストがかかります。福島県では、送電線網の建設に約343億円が投じられ、その多くが公共道路の下に埋設されました。この地中埋設は、上空に架空線を通す方法に比べてコストがかかる一方で、工期を大幅に短縮できるメリットがありました。
ただし、福島送電株式会社には今後の追加整備のための予算が十分に確保されていないため、新たな送電網の整備が難しい状況です。この問題を解決するためには、国や地方自治体、民間企業の協力による資金調達や、効率的な送電技術の導入が不可欠です。
3.2. 環境と景観への影響
再エネの拡大は、環境に優しいエネルギーとして期待されていますが、急速な導入に伴い、一部地域では環境や景観に悪影響が出ているという問題もあります。特に風力発電所の建設が進んでいる地域では、住民からの反対運動も起きており、福島市では2025年4月に再エネを規制する条例が施行される予定です。
このような環境や景観問題を解決するためには、地元住民との対話を通じた合意形成が重要です。また、再エネ施設の設計段階から環境保護の視点を取り入れ、影響を最小限に抑える工夫が求められます。
3.3. 出力抑制のリスク
再エネの拡大に伴い、発電した電力が供給過剰となる場合、出力抑制が行われる可能性があります。これは、供給量が需要を上回る際に、発電所が発電量を抑制する措置で、特に太陽光発電や風力発電に対して行われることが多いです。
福島県でも、東電や東北電力が年内にも原発を再稼働する予定があるため、電力の供給量が増加すれば再エネに対する出力抑制が行われる可能性が高まります。このリスクを回避するためには、発電した再エネを効率的に消費するための「地産地消型」エネルギー供給体制の整備が求められます。
4、今後の展望として、地産地消型エネルギー供給体制の整備
再エネの拡大と持続的な運用を進めるためには、送電網のさらなる整備だけでなく、発電した電力を地域内で消費する地産地消型のエネルギー供給体制の確立が重要です。これにより、出力抑制のリスクを低減し、地域社会における再エネの利活用が促進されるでしょう。
福島県では、再エネ100%を達成したことで再エネ先進地域としての立場を強めていますが、今後もこの地位を維持するためには、地域全体のエネルギー供給と消費をバランスよく管理するシステムが求められます。再エネを地元で消費し、地域経済にも貢献できる「地産地消型」エネルギー供給システムの導入は、全国の他地域でも参考になるでしょう。
結論
再エネの拡大には、送電網の整備が欠かせない要素であり、福島県の事例はその成功を示しています。しかし、コスト、環境への影響、出力抑制といった課題も存在し、今後もこれらの課題を克服するための取り組みが必要です。送電網の整備とともに、地産地消型のエネルギー供給体制を構築することで、持続可能な再エネ社会の実現が可能になるでしょう。
福島県の取り組みは、日本全体の再エネ普及にとって非常に重要なモデルケースであり、他の地域でも同様の挑戦が求められています。
原発被災地に大規模送電線網 福島の再エネ100%に一役 -
日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC27B1Q0X20C24A9000000/
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