〜絶対売らない100枚〜 No.2

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Dreamweapon / Spacemen 3

スペースメン3の総合的な観点からする最高傑作は「回帰」に違いはないとは思うが、最も「らしさ」というやつが出たのはこの「ドリームウェポン」なのではないかと昔から思っている。もちろん、手放しに誰もが聴くべき名盤などとは口が裂けても言えないし、おそらくこれを一回聴いて手放す人もいるであろうことは重々承知はしているつもりである。

肝心の内容からは少し話が逸れてしまうが、とりわけ重要なのはこんな代物をロックバンドが作品として世に残したという点である。音だけで言うのであればスペースメン3のようなサイケなサウンドを鳴らしたバンドは他にもループやテレスコープス等が存在していたが、即興やドローンや音響という部分にのみ焦点を絞ったアルバムを残したのはおそらくスペースメン3だけではないかと思う。

そもそもスペースメン3というロックバンドはいかにも「両雄並び立たず」的な末路を辿ったグループだった、徹頭徹尾彼岸的な音響を志向するソニック・ブームと、真っ当なロックンロールを実はルーツミュージックとするジェイソン・ピアースの微妙に食い違う音楽性のズレがアンバランスに入り組みながら、しかしそれ故にそのズレやバンド内の摩擦が独自のカラーを打ち出していたと言える。そして、両者固有のオリジナリティは解散後のスピリチュアライズド、スペクトラムでそれぞれ開花していくこととなる。それにしても、スペースメン3時代をリアルタイムに知る人からすれば、まさかジェイソン・ピアースが純音楽家としてここまで大成するとは夢にも思わなかったことだろう。

よって、ジェイソンとソニック・ブームとの音楽的な混血がスペースメン3の音楽の面白さだということは第一義的には正しいので、先に述べた「回帰」や「Playing With Fire」がやはり作品としては本流である。そうした位置づけからすると「ドリームウェポン」は基本的には聴かなくてもよい作品だ、ちょっとした企画モノ、番外編である。しかし、亜流には亜流の面白さがある。

現行のCDには4曲が収録されているが、それぞれまさしくドラッギーでサイケなインストとなっている。歌は一切無し。兎にも角にもまず語るべきは一曲目の40分にも及ぶライブ録音のAn Evening of Contemporary Sitar Musicだろう。スペースメン流ラモンテヤング風ドローンともいうべき曲で、これが兎にも角にも強烈。ノイ!のような上がりも下がりもしない、起承転結も転調もないギターによるドローン演奏が延々とかつ淡々と続いていく、こういう音楽が実は一番ヤバく狂っている。言葉で説明するよりも聴く方が早いが、個人的にピアースが思い出したかのようにPlaying With Fire収録の「Honey」という曲のフレーズを弾く感じがたまらなく良い。

CDとしてはSpace Age Recordingsからリイシューされた上記ジャケットの現行盤を最も薦める。サイケ、音響派、即興、ミニマル、そうしたフレーズに敏感な人はきっと気に入るのではないかと思う。

大音量で聴いてもそれはそれでいいのだが、深夜に自分の部屋で音量を絞って寝ながら聴くのもいい。なんとなく「あちら側」が見えるような、そんな気がするのである。

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