『Flowers (2021Remasterd)』マスタリングの話
みなさんやっていますか?書き出しで毎回これ言ってる気がしますが、これを読んでるそこのあなたもやっていきをしましょう。よかったですね。
はじめに
表題のとおり、福間創さんの1stアルバム『Flowers』の再発に伴ってリマスタリングを担当するなどしましたのでそのお話です。
年が明けてしばらくした頃にご依頼頂いたんですが、
・ほぼ同時期に別件のマスタリングも依頼され、並行というか立て続けに作業することになったので作業量が実質倍
・マスタリング用の音声編集ソフトをPreSonus Studio OneからSteinberg WaveLabに変えたら画面レイアウトから操作方法から何から全部違う(というかメインDAWのSteinberg Nuendoとも違いすぎてマジで最初Macの前で10000000000000000000000000時間フリーズしてた)
・それらの合間や前後に機材の発注、ライブ、レコーディングの案件、文化庁や京都市の補助金の実績報告、確定申告が控えててスケジュール過密
といったありさまで、2月の記憶はディテールがあまり定かでは……あれ?もしかして何も書けないのでは?よってこの記事はこれにて終了です。お疲れ様でした。
……というわけにもいかないので、セッションファイルを開きつつ記憶を辿りながら書くこととします。
使ったプラグイン
基本的にはPlugin Alliance(以下PA)のMillennia TCL-2からSPL Passeqまでの工程は昨年リリースされた『this is our music』の時と同じなので省略。
ダイナミクス系は今回から一新してまして、『this is~』の時はPAのShadow Hills Mastering Compressorでしたが、今回は同じもののClass Aになってます。こっちの方が音が上品なように思います。無印の方はもうちょっとギラッとしてるというか癖があるような。主観ですが。
『this is~』と違いがっつりビートが入ってるので、その躍動感を殺さないためにサイドチェインフィルターをINにしてます。下段のHP-SC FILTERでも調節します。
あとは個体差を再現するTMTでいい感じのを選び、MONOMAKERで低域のモノラル化していきます。曲によってはSTEREO WIDTHも1~2%くらい絞ったかも。 いずれもやりすぎ厳禁。トランスはNICKELを選択してます。
次にリミッターとしてSonnox Oxford Inflatorを通してます。リミッターにはこれまでiZotope OzoneやSlate Digital FG-Xを使ってたんですけど、ちょっと目先を変えたくて。全体的に祝祭感のある音のアルバムだったので、OzoneやFG-Xではその要素を引き出すにはちと地味かもなぁというのもあり。
EFFECT50~70くらいの間で音圧の調整をしつつ、トラックごとにCURVEで音の華やかさや柔らかさを少しだけ強調します。
これもよくできたプラグインで、本当に不自然さがない。きれいに持ち上がるし、破綻しない。それでいて演出したいサウンドにちゃんと着地できる。
国内代理店が最近ちょいちょいセールしてて数千円で買えるので、機会があれば手に入れとくことをオススメします~。
あと年末に買ったIK Multimedia Stealth Limitterがよくて、今回は併用してます。最後に挿してトータルのレベル管理をする感じ。
Ozoneよりパキッとした音がして個人的にはこっちの方が好みです。Stealth Limitterのinfrasonic filterはON、ISPLは16Xで。
コンプにしてもリミッターにしても低域をスルーさせて躍動感を殺さず(あるいはポンピングを回避しつつ)レベルオーバーはさせないということがこれで可能になったわけです。全体のヌケ感も◎
とはいえキックなんかはピークがつく一番の要因でもあるわけだし、完全にスルーさせるのもそれはそれでリスクがあるので、Stealth Limitterの前にInflatorを通すことである程度まとめておくという。何事もバランスってやつですね。ええやんええやん。は?
MP3バージョンの作成
前回・前々回に引き続き今回も購入特典の試聴用MP3を作成してます。WaveLabでついでにやるかと思ったんですが、これまで使ってたSonnox Codec Toolboxと聴き比べたらどうも今ひとつだったので、結局Sonnoxで作成しました。
これ便利なのになんで国内代理店は販売終了しちゃったんだろ。
あ、今回は『Flowers』だけじゃなくて『ICCD』のMP3も作成してます。
マスタリングソフトウェアの話
順番が前後しちゃいましたが、前述したとおりPreSonus Studio OneからSteinberg WaveLabに乗り換えました。Studio Oneの音質に不満があるわけじゃないんですが、いやバージョンがまだ3.6なので徐々に不満も出てきてはいるんですが、メインDAWがSteinberg Cubase(2020年後半からNuendo)なので、音のキャラクターがガラッと変わっちゃうんで毎回そこでちょっと苦労してて。
で、CubaseからNuendoに乗り換えたついでにどうせなら連携もとりやすいWaveLabにしたろうと。セールで安くなってたし。
とはいえ操作系がStudio OneはおろかNuendoともまるで異なっててかなり面食らってしまい、ネット上のTipsやマニュアルとにらめっこしつつどうにかこうにか使いながら操作を覚えました。ぶっちゃ今回のマスタリングでそこが一番時間かかってるかも。
ちなみにMacBook Pro本体の画面にはWaveLabを、サブモニターにはFlux:: Pure Analyzerを表示させてます。
左側にある帯域ごとのステレオイメージが表示されるやつが超べんり。
ハードウェアの話
機材の構成は大して変わってないんですが、というか以前のエントリーでも書いたようにMacBook Proが新しくなって、それに伴って機材の配置が大幅に変わりました。この記事を書いてる時点でのスタジオの様子はヘッダーの写真のとおりです。
配置を見直しまくった結果、モニタリングのしやすさが格段に向上しましたね。スピーカーの間や前にモノを置いちゃいけないねやっぱり。
あとモニタースピーカーの電源ケーブルをSirToneのものに入れ替えました。スピーカーの電源ケーブルは下手に入れ替えると音の傾向が変わりすぎるんじゃないかと思い、イタズラに交換して音の良し悪しに迷うよりは最初から付属してたもので作業してた方がいいと考えて今まで手を付けるのを先延ばしにしてたんですよね。
そんな時にSirToneのものがたまたま安く販売されてて(なんと1,500円/1本!)、まぁこの値段ならいっか☆と交換してみたら、まさに「変わりすぎず変わる」といった感じで。それからはモジュラーシンセからミキサーから何から全部SirToneのものに入れ替えました。安かったし。
実はこれより以前にSirToneがTwitterで行ってたキャンペーンに当選してギターシールドを1本持ってたんですよ。それをシンセで使ってみたところなかなかよくて、それで電源ケーブルも安心して手を出せたみたいなところはあります。オススメです。
おわりに
マスタリングは一発OKでした~。「オリジナルより音の粒子感がしっかり感じられて良い」とのこと。ありがたや。
この記事を執筆してる時点でもTwitter上で「オリジナル盤持ってるけどリマスター出るなら欲しい!」みたいな福間ファンのお声もたくさんあって、それもまたありがたいかぎり。頑張りましたのでお楽しみ頂ければ恐縮です……!
マスタリングの工程についてはShadow Hills Mastering Compressor Class A → Sonnox Oxford Inflator → IK Multimedia Stealth Limitterのチェーンはかなり気に入ったので、今後はこれを軸にやっていこうと思うとります。最後段のダイナミクス処理に何を使うのがいいかはずっと悩みのタネだったんで解決した気分ですね。
とはいえ最近はあまり自分のための作品づくりに取り組めてないので、この春からはいよいよアルバム制作に取り掛かりたい……去年の今頃はコロナ禍で暇があったとはいえ、それ以上に虚無感に支配されてて何をする気力も湧かなかったもんですが、もう1年経っちゃいましたからね。慣れってこわいね。ラ・ロシュフコーの言葉を借りれば「多くは覚悟でなく愚鈍と慣れでこれに耐える」というやつです。
とまぁ、そんなところで。バ~イ。
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