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『this is our music』マスタリングの話。

Route09/Molecule Plane (Push it! Studio)

 みなさんやっていますか?ウィルスは驚異ですが、それ以上に人類の敵は人類という感じですね。補償を求めるための旗頭になってくれてるアーティストやミュージシャン、ライブハウスやクラブに罵詈雑言をぶつけてる人マジで超おっかない。文句は行政に言ってほしいですねプンスコ

 さて今回は先日リリースされた福間創さんのニューアルバム『this is our music』のマスタリングを手掛けさせて頂いたので、その話をします


はじめに


 依頼を頂いたのが去年の後半くらいだったと思うんですけど、その時に「今回は平沢さんがギターで参加するから」って聞かされて「あっ、これはトチると全国の平沢ファンを敵に回して死 or die」とめっちゃプレッシャーだったのを憶えてます。
 とはいえリリースされた今となっては「クレジットに平沢さんと並んで自分の名前が載ってるのヤバくない?超自慢なんですけど~~~」ってギャルみたいなテンションになってますけども

 作業自体は2月半ばくらいに行ってたんですが、同時並行で別件のコンピレーションアルバム用の制作案件が入ってて結構タフな時期でした。なんか異様に長く感じたナァ今年の2月。あ、コンピアルバムもみんな買ってね

ではそろそろ本題へいってみまひょう

※各画像はそれぞれのメーカーHPから借用してます


使ったプラグインとかやったこととか

 
 といっても前回の『The ambi-valance Collection 2015-2019』をマスタリングさせてもらった時とそんな変わらないんですよね。一応列挙すると、

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 Plugin Allianceの「Millennia TCL-2」で軽くピークを叩きます。次段以降の処理を考えてOUTPUT LEVELを絞っておきます

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 次に叩いた分「SPL Attacker Plus」でちょっとだけアタックをイジりますけど大体3dBいかないくらいなんでほぼほぼ通すだけに近い

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 ここからEQ3連発。最初に「brainworx bx_digital V3」で削っていきます。このアルバムでは結構ピーキーな鳴りをする電子音が特徴的な要素だったんですが、原音のニュアンスを尊重しつつ耳に痛くならないギリギリを狙って内蔵のDynamic EQも使って適宜叩きます

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 2つめのEQは「Dangerous Music BAX EQ」です。これで全体のシェイプを整えます

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 3つめは「SPL Passeq」です。前回との大きな違いの一つですね。
 これは設定されてる帯域が本当に絶妙で、特に今回はLMF-MHFの1.8KHz~2.3KHzあたりの帯域を3dB前後ブーストすることで、電子音の背後に隠れたフィールド・レコーディングの音に内在する「場」のノイズを上手く持ち上げて空間の奥行きを作ってます。ただ、やりすぎるとずっと「サー……」って鳴ってるだけになるので、ここは本当に何度も聴き返して調整しましたね

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 ここから先はダイナミクスの処理になるので、一旦iZotopeの「Ozone 7 Maximizer」内蔵のディザを通してダウンコンバートします。
 福間さんからは24bit/44.1KHzでデータを貰ってるのでCD用に16bitに落とす必要があるわけですが、16bitと24bitでは当然ダイナミクスレンジが異なるので、24bitのまま全部処理して最後に16bitで書き出せばいいや~とはならないわけですね。前回の時はハイレゾ配信だったのでそれでもよかったんですが……

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 ダイナミクスの処理といってもコンプでガッツリ叩くとかはなく、多少の色付け・香り付けが主な目的だったりもします。一番音がデカいところでせいぜい-1~-2dB程度叩くくらいですかね。
 「Shadow Hills Mastering Compressor」良くて、叩きすぎるとかなり音のキャラが変わってしまうんで気をつけないといけないんですけど、音源に対して適度にいい色を付けてくれるというか。餃子で例えると焼き目・焦げ目をきれいにつけて香ばしさを出すみたいな感じです。このニオイ感というか匂い立つ音の感覚は独特の空気感を演出してくれますね。
 もちろん万能なキャラのコンプじゃないんですけど、今回はよくハマりました

 最後にもう一回「Ozone 7 Maximizer」で全体の音圧をコントロールして終わり。今回は配信ではなくてCDなので、前後の曲とのバランスを見ながら全体的に-12LUFSくらいを目安にフィニッシュ。本作の持つ繊細な音響を考えるとこれくらいがちょうどいいでしょうかね。
 しかしOzoneも現行バージョンが9なんでそろそろアップグレードしなきゃな~なんて思いつつ7で特に困ってないのでなんとも


MP3バージョンの作成


 今回もMP3バージョンを作成します。CDの発送お知らせメールにダウンロード用URLが添付されており、届くまでの間フル試聴できるというものです。MP3 192kbpsなので音質的にはかなり限定的というかやはりCDには及ばないので、お手元に届いた時点でiTunesのライブラリはCDから取り込んだフルスペックの音に差し替えて楽しんでいただければナァと思います~

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MP3は「Sonnox Codec Toolbox」で作成してます。このソフト、国内では販売終了しちゃいましたね。。。



ハードウェアの話とか


 特に何か増えたとかリプレイスしたとかはないんですけど、メインで使ってるDACの「Grace Design m900」とオーディオ・インターフェースの「RME Fireface UCX」、それからMacBook Pro、外付けHDDにプロケーブルが取り扱ってるソルボセインのインシュレーターを敷きました

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ソルボセインが必ずしも正解かどうかはさておき、ローコストだし目に見えて効果もあったのでヨシとしてます。
 インシュレーターってDTMerはついついスピーカーだけに使いがちですけど、D/Aコンバータやコンピュータの振動対策も大事なんだなと改めて思うなど……ピュアオーディオの世界でもアンプやCDPにインシュレーター使うのはほぼ常識ですしね


マスタリングのメソッド


 別に他の人に向けてこれがベスト!とかいう意味ではなくて、僕自身の中で上記のようなプラグインチェーンで安定してきたし、それを用いたマスタリングのメソッドが確立されてきたという話です。
 プラグインのラインナップが比較的最近のものも多いということを踏まえても、なんやかんやでここに辿り着くまで数年かかってるので、やはりマスタリングというのは職人仕事というか一朝一夕で身につくものでもないし、マキシマイザーで音圧上げて終わり!みたいなトラックメイカーがついやりがちなやつ以上のものを提示するのは存外に大変という話であります

 しかしプラグインの大半がPAのやつだなぁ。それ自体は別に悪いことでも恥ずべきことでもないとはいえ、去年にFlux:: Studio Session Packとかも買ったんですけどなんだか今ひとつ出番がないというか……今年はAcusticaやFabFilterあたりもちゃんと検討して必要なら導入していこう……ディザもなんかいいやつ欲しい

 ……と、言うてるそばから今回の案件が終わった後にPAがセールを始めたのでマスタリング用のプラグインをいくつか足しました。もっと早よセールしてほしかったナ……

さいごに


 今回のマスタリングはほぼほぼ1発OKでした。全幅の信頼を寄せて頂いた福間さんのご期待に上手く応えられたかなと思います。福間さんの今作と僕自身の作風は近いところがあり、とてもやりやすかったというのもありますが

 この手のジャンルの音楽はピーキーな音も繊細な音も同時に存在してるので、商業的にCDの枠に均すことよりも如何にアーティストの思考に同調できるかが大事で……というのも、以前BOOM BOOM SATELLITESの中野さんが「(今までマスタリングを依頼してた)スターリング・サウンドのテッド・ジェンセンの腕は確かだけど、自分たちが楽曲に込めた想いみたいなものまで商業的なCDの枠に納められる感じに抵抗感があり、最後まで自分たちの責任で世に送り出したかった」みたいな考えのもとにセルフマスタリングでアルバムをリリースされたことがあって。
 アーティストがマスタリングを手掛ける意味ってそこだなと僕も腑に落ちたところがあって、以来ずっと意識してます。「商品」でもあるけど、その前にまず「作品」という意識。
 もちろん業界の最前線で活躍しておられる専業エンジニアの人にマウントとるとかじゃないし、僕が持ってる意識をそういった方々は持ち合わせてないって話では決してなく、要は何を持ち味として自分は勝負していくかという話です。まぁ技術的な話というよりは観念的な話ではありますが……

 とまぁ、今回はこんなところで。


 全然話は変わるんですが、最近の推しコスプレイヤーは大河ももさんです。めっちゃかわいい


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Route09/Molecule Plane (Push it! Studio)
電子音楽の作曲、アクースモニウムによる多層化立体音響やモジュラーシンセサイザーの演奏、サウンドデザイン、レコーディング、マスタリング、WS講師、執筆、猫の飼い主などなど。ノイズ&ビートユニットA.N.R.i.、音楽カンパニーhirviメンバー。日本電子音楽協会会員。修士(芸術)。